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「名人に勝つ」実現したソフト開発者の思い 第2期電王戦二番勝負

2017/4/4

将棋ソフト「PONANZA」に敗れた佐藤天彦名人(手前右)=1日、栃木県日光市の日光東照宮

 コンピューター将棋ソフトが、ついに名人を破った――。第2期電王戦二番勝負の第1局で、佐藤天彦名人(29)を圧倒した「PONANZA(ポナンザ)」。その正確な指し手や隙のなさに「プロ棋士のレベルを超えている」と佐藤名人も驚嘆したが、ここまで強くなるには40年を超す開発者の辛苦の歴史と執念があった。

 「将棋ソフト開発者が長年にわたって願い、祈ってきたことを果たせて光栄」。ポナンザを開発した山本一成氏(31)は、1日に栃木県日光市の日光東照宮で行われた対局直後に喜びを語った。

 将棋ソフトの開発者の多くは個人の、趣味のプログラマーだ。資金力が乏しく、ハードウエアや電気代の負担も重いなかで、時に情報交換しながらソフトを少しでも強くすることに情熱を傾けてきた。これは米グーグルなど世界のIT大手が開発を支える囲碁の人工知能(AI)とは決定的に異なるところだ。

将棋ソフトの歩み
1970年代半ば開発がスタート
90年第1回世界コンピュータ将棋選手権
2007年ソフト「ボナンザ」が渡辺明竜王に惜敗
12年電王戦スタート
13年ソフトが男性の現役プロ棋士に初勝利
17年名人に勝利。電王戦が終了

 開発は1970年代半ばにはスタート。当初は1局指すのに数カ月を要するほどだった。先駆者として知られる早稲田大学教授の滝沢武信氏や、市販ソフト「森田将棋」シリーズを手がけた森田和郎氏らが87年、コンピュータ将棋協会を設立。90年からはソフト同士の大会を開き、研さんを積んできた。

 将棋は相手の駒を取れば自分の持ち駒にできる。終盤の詰むや詰まざるやの局面が近づくにつれ、指せる手が増えて計算量は膨大に。わずかな駒の配置の違いによって優劣が変わってしまうので、局面を正確に評価するのも難しい。ソフトがアマチュア初段レベルに達したのは、ようやく90年代半ばのことだった。

 ハードが高性能になるとともに棋力を上げてきたが、転機になったのは2007年に渡辺明竜王(32)に惜敗したソフト「ボナンザ」の登場だ。局面の評価の方法をプロ棋士の大量の棋譜から学ぶ「機械学習」を採用したことで、判断の精度が一気に向上した。

将棋ソフトとタイトル保持者との対局は、2007年に渡辺明竜王(奥)が「ボナンザ」に勝利して以来だった

 プロ棋士とソフトが戦う電王戦が始まったのは12年。翌年から5対5の団体戦になり、昨年からは予選トーナメントを制した代表同士の一騎打ちに衣替えした。これまでの対戦成績はソフトの12勝5敗1引き分け。今回、電王戦への出場者を決める叡王戦を勝ち上がったのは佐藤名人で、電王戦としては初めてタイトル保持者対ソフトが実現した。将棋界で最も伝統のあるタイトルとして重んじられてきた名人がソフトに負けるのは歴史的なことではある。だが、近年の成績をみれば、いずれその日がくることは予測されており、対局控室に詰めたプロ棋士の間にもすでに悲壮感は漂っていなかった。

 「人間とコンピューターの真剣勝負は役割を終えた」(主催するドワンゴの川上量生会長)として電王戦は今年限りとなる。コンピューター将棋を初期の段階から見てきた勝又清和六段は「(先駆者の)いまは亡き森田和郎さんらも喜んでいるのではないか。長い間かけてようやくここまでたどりついた」と感慨深げに話していた。

 ポナンザは今、囲碁ソフトが採用して成功した「ディープラーニング(深層学習)」というAIの手法を取り入れながら、さらに棋力を向上させようとしている。開発者の山本氏は「将棋は奥が深いゲームなので、ポナンザはまだ強くなれる」という。

 今回の第1局に敗れた佐藤名人は「対局前にソフトの貸し出しを受けたが、約150局を指してもほとんど勝てなかった」と明かす。それでも「今回は結果が出なくて残念だったが、将棋を愛するものとして真剣勝負のやりがいがあった。次は先手番。勝機はある」と意欲を失ってはいない。

 5月20日に兵庫県姫路市の姫路城で第2局が指され、電王戦は幕を閉じる。

(文化部 山川公生)

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