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写真:酒井宏樹 保坂真弓 Hollyhock Inc.

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カルロス・ゴーン氏を主役に据え、2015年から開かれている「逆風下のリーダーシップ養成講座」(日産財団主催)。その成果をまとめた本「カルロス・ゴーンの経営論」(日本経済新聞出版社)が出版されました。本書の中からグローバル・リーダーシップをめぐるゴーン氏との質疑の一部を連載していきます。第1回はゴーン氏自らが語る「グローバル・リーダーとは」です。

グローバル・リーダーとは?

対外的には国境を越え過ごしてきたリーダー、対内的には世界が市場と思えるリーダー

Q ゴーンさんは、よく「グローバル・リーダー」と呼ばれます。グローバル・リーダーの要件のようなものはあるのでしょうか。

「グローバル・リーダー」とは何か――。

私はしばしばこの質問を受けることがあります。こうした質問では、グローバル・リーダーと呼ぶにふさわしい人物の要件を問おうとしているのだろうと思います。私が抱いているグローバル・リーダーの人物像には、2つの側面があります。それは、社外の人々から見られる場合と、社内の従業員から見られる場合です。この2つの側面には大きく異なる部分があります。

社外の人々に見られている時のグローバル・リーダーとは、言うならば、複数の言語を話し、多くの国に住んだことのあるようなリーダーです。複数の国あるいは社会に属し、多言語を駆使し、そして、可能であれば多くの国で事業をしている会社を経営している、グローバル社会での経験を有する人物であることが、そのための要件です。

日本にしか住んだことのない日本人や、フランスにずっと住み続けてきたフランス人が、どんなに「自分はグローバル・リーダーなのだ」と主張しても、世間から「グローバル」なリーダーとは思われないでしょう。日本語しか使わず、日本国内のみで展開している企業を経営する日本人のリーダーは、世間からすればグローバル・リーダーとは言えません。

いかがでしょうか。私が今示した要件は、自分が該当するかどうかで決まるといった客観的事実の問題であると思われることでしょう。それが、社外の人々から見られる時のグローバル・リーダーの側面です。

一方で、社内の従業員から見られる時の側面は、よりマインド的な部分がポイントになります。

社内の従業員が「自分たちのリーダーはグローバル・リーダーだ」とみなすかどうか。それは、そのリーダーが、従業員に対して心をオープンにしており、知りたい・学びたいという意欲にあふれ、そしてダイバーシティは強みであると考えているような人物かどうかにかかってきます。さらにもう1つ、会社にとって自国だけでなく世界こそが重要な市場であると思っていることも、社内の従業員にグローバル・リーダーとみなされるうえでは重要です。これらに共通するのは、実際に起きている問題でなく、いずれも心構えの問題であるということです。

グローバル・リーダーになるには、積極的に多様な文化や市場に接していくこと

Q ゴーンさんはブラジルで生まれ、レバノンとフランスで教育を受け、4か国語を使いこなし、今はフランスのルノーと日本の日産自動車を経営しています。そうした経歴は、ゴーンさんがグローバル・リーダーであることとどう関係していますか。また、そうした多様な環境で育ってこなかった人がグローバル・リーダーになるためには、どうすればよいでしょうか。

これはよくある質問ですが、大事な質問でもあります。

まず、私のように、ある国で生まれ、ほかの国で学び、複数の言語を話すといった人間であれば、グローバル・リーダーになりやすいと言えます。もちろん、私は生まれた時、最初からそうした環境でキャリアを積んでいこうとしていたわけではありません。結果としてそうなったわけです。それでも、様々な国で過ごすようなキャリアのほうが、グローバル・リーダーになりやすいのはたしかなことだと思います。若い頃から、様々な文化を経験し、様々な言語を習得することは、グローバル・リーダーになるための助けになります。特に現代の世界は、常に国を越えた"つながり"がありますからね。

では、そうした複数の文化や国で過ごす経験のない人がグローバル・リーダーになるにはどうすればよいか。これがより重要なご質問だと思います。

まず1つ、はっきりしているのは、昔より現在のほうが、たとえ、複数の文化や国で過ごす経験のない人でも、グローバル・リーダーになりやすい環境にあるということです。例えば、日本という一国でずっと過ごしている人でも、進化したインターネットなどの情報技術を駆使すれば、世界各地で今起きている物事を直接的に知ることができます。これは、少なくとも1980年代までは考えられなかったことです。当時の世界の情報との接点といえば、テレビ、ラジオ、新聞、雑誌、本ぐらいのものでしたから。今は、インターネットが発達したほかに、外国の人がやってくる機会も多くなりました。

ただし、そうした情報を得られる環境さえ整っていればグローバル・リーダーになれるかというと、そうではありません。皆さんがグローバルなリーダーになるために重要なのは、自分から様々な文化や市場に接することのできる仕事を求めていくということです。グローバル化というものは、教科書で学べるものではありません。実際に自分で経験していくしかないのです。毎日のように自分自身をグローバルな環境に置いてこそ、グローバル化を理解し、グローバル・リーダーになっていくことができるのです。たしかに、大学などの研究・教育機関でも、グローバル化した世界でどのようなことが重要なのかを学ぶことはできるでしょう。しかし、それは単に「表層的な知識が脳に埋め込まれる」という成果でしかありません。

マネジメントとは、脳で知りながら、同時に心で理解し、勘を働かせるものです。それをするには「経験」が必要です。そして経験を得るには、皆さんがその環境に身を置かなければならないのです。日本の企業に勤めながらも、中国、アメリカ、欧州などに出向するといったことはその方法の一例です。

けれども、そうした海外出向の機会さえない人もいるかもしれません。そうした人がグローバル・リーダーになるにはどうすればよいか。次善の策は、国内の職場にいながら外国から来ている社員と接することのできるような職種に就くということです。

経験は、机上での知識習得よりも何よりも重要です。問題に対応する。弱点に目を向ける。厳しい環境を乗り越える。そうした経験を積み重ねていくことで、グローバル化とは何か、またダイバーシティとは何か、といったことが身をもって理解できるようになります。

※「カルロス・ゴーンの経営論」(日産財団監修、太田正孝・池上重輔編著、日本経済新聞出版社)より転載。2016年7月と10月に開催された質疑の様子は「関連情報」からお読みいただけます。

※隔週火曜更新です。次回は4月18日(火)の予定です。

カルロス・ゴーンの経営論 グローバル・リーダーシップ講座

著者 : 日産財団(監修)、太田正孝・池上重輔(編著)
出版 : 日本経済新聞出版社
価格 : 1,728円 (税込み)

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