年金・老後

定年楽園への扉

定年後の生活 「夫婦共通の趣味」なんて、なくていい 経済コラムニスト 大江英樹

2017/4/20

夫婦で同じ趣味がいいとは限らない=PIXTA

 定年が近づいてくると、会社によって「ライフプランセミナー」が開催されることがあります。退職後の再雇用、健康保険、退職金などの手続きに関する内容が多いのですが、中には外部の講師がやって来て「退職後の心得」のようなテーマで話をすることも少なくありません。

 講師の多くは、結構年配の人たちで、どこかの会社の元人事部長だったりすることが多いのですが、彼らが一様にいうのは「定年退職後は、奥さんを大切にしなさい」「夫婦で共通の趣味を持ちなさい」といった内容です。このこと自体は間違っていませんが、2つの点で気がかりなことがあります。

■「奥さんは夫と一緒に過ごすと楽しい」は思い込み

 一つは、現代においては誰にでもパートナーがいるわけではないことです。死別や離婚といった理由だけではなく、そもそも生涯未婚率が高くなってきているわけですから、独身の方も多いのです。また、昔とは違い、夫がサラリーマン、妻が専業主婦という家庭ばかりではありません。共働きで会社にずっと勤めて定年を迎える女性も増えてきています。だとすれば、そういう人たちに向かって「奥さんを大切にしなさい」というのはいささかピントのずれた話になってしまいます。

 もう一つは「奥さんだって夫と一緒に過ごす方が楽しいだろう」という思い込みです。それは幻想であることが多いのです。奥さんは夫が平日飲みに行き、土日も会社の仲間とゴルフに行っている間、自分で仲間や友達をつくり、夫がいなくても十分に楽しめる「自分の居場所」を持っています。

 そんなところへ定年退職してやることのない夫がやってきて、まとわりつかれても奥さんは戸惑うだけでしょう。ライフプランセミナーの講師に「奥さんを大事にしなさい」といわれても、嫌がられることになってしまうかもしれません。

■うまくいく秘訣はお互いを尊重すること

 私もライフプランセミナーの講師として呼ばれることがあります。そんなとき、私は「奥さんを大事にしなさい」とは決していいません。「人との付き合い、それも会社関係以外での人との関係を大切にしましょう」といいます。そして奥さんのいる男性には「大事にしなさい」ではなく、「奥さんを尊重しなさい」と進言します。つまり「奥さんの持っている世界や人間関係を尊重し、無遠慮に入り込まないようにしなさい」ということです。

 私は「夫婦共通の趣味なんてなくてもいい」とも言っています。これは不仲でもいいという意味ではありません。もし共通の趣味があって夫婦一緒に心から楽しめるのであれば、こんないいことはないでしょう。しかしながら、共通の趣味がないからといって無理に相手に合わせる必要はないということです。物事に対する感じ方というのは人によって違うのが当然です。

 そこを無理に合わせようとするとストレスが生じます。感覚や趣味は違っても「互いを認めよう」と努力すべきではないでしょうか。自分の領域を大切にし、お互いにそれを尊重すること。そして相手の領域に必要以上に立ち入り過ぎないようにすることが定年退職後に夫婦がうまくいく秘訣だと思います。

 お金の使い方にしてもお互い話し合いながら、それぞれの趣味に費やした方が精神的に楽なはずです。互いに自分の趣味を楽しめばいいのです。押しつけて無理に付き合わせようとは思わないほうがいいと思います。

「定年楽園への扉」は隔週木曜更新です。次回は5月4日付の予定です。
大江英樹
 野村証券で確定拠出年金加入者40万人以上の投資教育に携わる。退職後の2012年にオフィス・リベルタスを設立。著書に「定年男子 定年女子 45歳から始める「金持ち老後」入門!」(共著、日経BP)など。http://www.officelibertas.co.jp/

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