仕事と家庭、両立の不安 石橋たたき過ぎず挑戦を
ダイバーシティ進化論(村上由美子)
年度初めの4月。入社や異動など、いろいろな意味で「始まり」の多いこの季節には、期待や不安を胸にこれからの人生をどのように生きていこうかと思案する機会が増える。私は女性から人生設計に関する相談を頻繁に受けるが、特に多いのが、仕事と家庭の両立に関する相談だ。
まだ20代の女性から、「今後結婚して子どもも産みたいが、仕事と家庭を両立していけるか不安だ」という声をよく聞く。彼女たちにアドバイスするのは、石橋をたたき過ぎて渡る前に橋を壊してしまわないこと。
確かに仕事と家庭の両立は簡単だとは誰にも言えない。しかし、どんなに人生設計を熟考したところで、ライフイベントは計画通りいかないものである。30歳までに結婚・出産したいと望んでいる女性は多いかもしれないが、現実には、日本女性の既婚率は年々低下し、今では20代で結婚している女性は3割以下だ。
私も20代の頃、自分は結婚と出産は当然いつかするものだと勝手に思い込んでいた。ところが出会いは自分でコントロールできない。妊娠もしかり。結局結婚相手と出会い、長男を出産したのは38歳になってからだった。事故や病気も予想不可能だ。
親の介護もいつ訪れるかわからない。ライフイベントのタイミングは天のみぞ知る、というわけだ。
一方、キャリア設計に関しては自律的に推し進めることができる。もちろん昇進や転勤が常に希望通りいくわけではないが、目標に向け具体的な行動を起こすことは可能だ。
私はキャリアのためにあえて結婚や出産を遅らせたわけではなかったが、なかなか納得できる伴侶との出会いがない中、仕事面では自分の納得がいくよう精いっぱい努力した。結果的に30代後半に出産した時は、仕事の醍醐味や充実感を体感していたので、それが仕事を継続する自信につながっていた。
家庭と仕事の両立に対して不安を抱くのは自然なことかもしれない。しかし、それを危惧するあまり、目の前の仕事への挑戦に消極的になったり、潜在能力の発揮に自らブレーキをかけたりしてしまえば、渡るはずの石橋はたもとに到着する前に消えてしまう。
出産後も仕事の継続を目指す女性は、キャリアの早い段階から積極的に仕事にチャレンジすることで、仕事への自信を深めることが重要だ。その自信こそがライフイベントに直面した時に最も頼りになるからである。
〔日本経済新聞朝刊2017年4月3日付〕
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