MINI、主力のクロスオーバーを刷新 初のPHVも
ビー・エム・ダブリューはフルモデルチェンジした「MINIクロスオーバー」を2017年2月23日に発売した。価格は386万円~483万円だ。
2011年に日本に投入されたMINIクロスオーバーはMINI初の5ドアモデルだ。それ以前のモデルとはスタンスが全く異なり、専用のワイドボディーを持つクロスオーバーモデルとして話題を集めた。MINIハッチバックと比べ後席の居住性が良くなり、積載量もぐっと上がったことでファミリー層から支持され、今やMINIを代表するモデルにまで成長している。
最新世代では、最もスタンダードなMINIハッチバックに5ドアモデルが登場したこともあって、2代目となる新型はクラスアップを目指した。その結果、MINIとしては初めての、BMWが提唱するプレミアム・コンパクトSAV(スポーツ・アクティビティ・ビークル)として、先代よりも上級モデルに位置付けられることになった。
立体駐車場には入らないかも
デザインは先代に比べて愛らしさが薄まり、よりSUV感が強まっている。ひと目でMINIと分かるデザインながら、直線的で力強さを感じるスタイルだ。
もともとMINIの中では大きかったボディーサイズがさらにサイズアップし、先代より全長がプラス195mmの4315mm、全幅がプラス30mmの1820mm、全高がプラス45mmの1595mmとなった。先代はルーフアンテナを変更することで日本の一般的な立体駐車場の制限である全高1550mmに対応していたが、この点、新型はやや残念だ。半面、リアシート周りが広くなり、ラゲッジルームが450Lと100Lも広くなるといったメリットも生まれた。駐車場に問題がない人からは、このサイズアップが歓迎されそうだ。
インテリアもMINIのスタイルを受け継いでいるが、エアコンルーバー形状やダッシュボードデザインなどはクロスオーバー専用。クロームパーツを多用するなど、高級感も演出されている。
エンジンはディーゼルがメインに
パワートレインはクリーンディーゼルをメインに2種類展開。エントリーグレードとなる「クーパーD」には150ps/330Nmの2.0L直列4気筒クリーンディーゼルターボエンジンを搭載。駆動方式はFWDと、4WDの「ALL4」から選べる。燃費消費率はFWDが21.2km/L、4WDが21.3km/Lとうたう。
上級グレードの「クーパーSD ALL4」は4WDのみを用意しており、190ps/400Nmの2.0L直列4気筒クリーンディーゼルターボエンジンを搭載。燃費消費率は20.8km/Lとなっている。トランスミッションはどちらも8速ATのみの設定だ。
ついにハイブリッドモデルが登場
注目したいのは、秋ごろまでに投入されるMINI初のハイブリッドだ。プラグインハイブリッド(PHV)である「クーパーS E ALL4」は136ps/220Nmを発揮する1.5L直列3気筒ターボエンジンと、88ps/165Nmのモーターを組み合わせたハイブリッドシステムを搭載。前輪をエンジン、後輪をモーターで駆動する4WDであることが大きな特徴だ。車名に「クーパーS」の名が冠されていることから、PHVながらパワフルでスポーティーなキャラクターに仕上げられているようだ。
モーターのみでの走行も可能で最大航続距離は約40km、最高速度は125km/hと近場なら電気自動車(EV)としても十分な性能を持つようだ。後部座席下に設置されたリチウムイオンバッテリーは200V電源で空状態から約3時間で満充電にできるという。
販売数の4割がMINIクロスオーバー。8年で2倍超えの成長に大きく貢献
MINIブランドは2009年にBMW MINIとなってから8年間、日本市場でプラス成長を続け、2016年には前年比プラス16%の約2万5000台を販売。2009年度に比べると昨年は2.2倍に伸びたことになる。MINIディビジョン本部長のフランソワ・ロカ氏は、成功のポイントは「商品性」「ファイナンス」「新ブランド戦略」の3つにあると話す。
商品性では、スモールからコンパクトへの変化が好意的に受け止められていることに加え、クリーンディーゼル仕様の投入が要因として挙げられる。車格やサイズアップによる顧客の変化はブランド戦略にも反映されており、以前のヤンチャなイメージのMINIから大人向けのMINIへとシフトした。広告宣伝や店舗デザインを変更したことも、奏功したと同社では見ている。
クリーンディーゼルは、現ラインアップでは「コンバーチブル」を除く全車に設定され、今やMINIの販売台数の約半分を占めるという。そのきっかけとなったクルマこそ初代MINIクロスオーバーだ。2014年のマイナーチェンジ時にMINIとして初めて日本にクリーンディーゼルモデルを導入。今やMINIクロスオーバー購入者の86%がクリーンディーゼル仕様を選ぶほど。だからこそ新型ではクリーンディーゼルに主軸を置いたのだろう。
また、日本市場に合わせた3年もしくは5年の残価設定ローン「フューチャーバリューローン」の存在も大きい。例えば「MINIクロスオーバー・クーパーD」なら3年後の残価設定額が61%と高く、顧客は乗り換え時の負担を抑えられる。
当初は大型化に否定的な声も挙がった初代MINIクロスオーバーだが、今やMINI販売台数全体の40%を占める人気モデルであり、現在のMINI人気のけん引役でもある。これはまた、それまでのMINIのイメージにとらわれすぎず、ラインアップを充実した戦略が成功だったことも意味する。クーペやロードスターなど日本では支持されなかったモデルの存在すら、チャレンジ精神の表れとして顧客に好意的に受け止められ、第3世代MINIの成功につながっていると感じる。
次なるチャレンジであるMINIクロスオーバーPHVが、どのように受け止められるかも興味深い。何しろMINIの上級モデルであるクーパーSDとPHVモデルのクーパーS Eの価格差は約4万円でPHVのほうが安いという戦略的な価格になっている。装備差が具体的に明かされていないので、単純に「安い」という判断はできないが、それでも上級グレードの予算でPHVが選べる点に注目するユーザーはいるだろう。
とはいえクーパーS DもクーパーS Eもグレード的には同等の立ち位置の上級グレードだ。SUVらしいトルクフルを生かした走りやMINIらしい活発な走りを望むならクーパーS Dのほうが良いかもという考えもよぎる。またパワーと4WDをそこまで求めないなら、エントリーとなる1.5Lのクリーンディーゼルエンジンのクーパー Dを選べば、PHVより80万円も安いわけで、それもまた魅力的にも思える。指名買いのファンに支えられているMINIにとって、それでもPHVは武器となるのか。ユーザーの選択結果が最初に現れる今秋が楽しみだ。
(文・写真 大音安弘)
[日経トレンディネット 2017年3月13日付の記事を再構成]
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