空撮派に人気のドローン 知っておきたい、初めの一歩
拡大を続けているドローン市場。ニュースで、配送業や農業におけるドローン利用の実証実験などを目にすることも多い。矢野経済研究所の調査によると、2015年に1兆2410億円だった世界市場規模は、2020年までに約2兆3000億円に拡大。年平均の成長率を12.9%と予測する。
産業向けだけではなく、趣味やレジャーとしてもドローンは浸透している。特に人とは違った映像を撮りたいと考えて手を伸ばす人が増えているという。
ただし興味はあっても「ドローンって何ができるのか」「どこで触れればよいかわからない」というように、その入り口でちゅうちょしている人も多いことだろう。どんな人がドローンを購入しているのか、初心者向けにどんな製品があるのか、そして飛ばす前に知っておくべきことは何か。ドローンを買う前に知っておきたい知識を探った。
購入者のほとんどが「空撮をしたい」
ドローンをはじめる人は、何を目的に購入するのだろうか。
「レースをしたいという人も中にはいますが、お客様のほとんどは空撮に関心がある人です。登山が好きで山々を撮りたい、今度海外旅行に行くなどの理由で、ドローンの購入を考えるようです」
そう語るのはビックカメラ新宿西口店の柁原将人さん。この店舗では2016年秋頃にドローンコーナーを2階売り場の入り口に移動し、売り場面積も拡大した。ドローンに興味を示す年代は30~40代ぐらいが中心だが、結婚式で撮影したいという若いカップルも多い。売り上げは右肩上がりで増えているという。
多くの人にとって、ドローンへの関心は空撮をしたいという目的とほぼイコールのようだ。2年ほど前からドローンに興味を持ちはじめた群馬県在住の二川真士さんもその一人。「元々自然が好きなので、いつも通っている森や山を空から見てみたいというのがきっかけ。本格的なドローンを手に入れてからしばらくは、飛ばすだけでワクワク・ドキドキの連続だった」と語る。
ドローンを使えば、日常では見ることができない上空からのダイナミックな光景を撮影することができる。ひと昔前であればプロの写真家などごく一部の人にしか撮影できなかったが、ドローンの登場によって空撮がとても身近になった。最近では、ドローンによる自撮画像をSNSにアップしている人も多い。
「『空飛ぶ絶景400日』がマスコミで取り上げられたこともあり、新婚旅行に持参したいという声もよく聞きます」と語るのは、DJIストア新宿店の佐々木孔明さん。『空飛ぶ絶景400日』(朝日新聞出版)は、新婚旅行でドローンを片手に世界一周旅行をした夫婦の撮影記録集で、BBCニュースなどでも放映されて話題になった。
DJIストア新宿店は、ドローン販売で世界最大手であるDJIが2016年10月にオープンした国内初の公式店舗。佐々木さんによると、1日に来客が30~40人程度、そのうち6~7割がドローンに触れたことがない初心者だという。「新宿という場所柄、ビジネスに活かしたいという相談もありますが、一般の人は空撮を目的に興味を示す人が圧倒的ですね」
まずは飛ばせる場所と法律を知ることから
ドローンで撮影をするときに気をつけたいのは、どこでも飛ばせるわけではない、ということだ。ビックカメラの柁原さんもDJIの佐々木さんも、購入を検討する人には、まず「撮影できる場所は限られている」と注意喚起をするという。
2015年4月、首相官邸にドローンが落下した事件を契機に、同年末に改正航空法が施行された。
原則として飛行禁止な場所を整理すると、(1)地表から150メートル以上の上空、(2)人口密集地域、(3)空港周辺の3カ所があげられる。
(2)の人口密集地域というのは、「人口密度が1平方キロメートル当たり4000人以上の地域」。東京23区はほぼ飛行することができない。また、公共施設や公園では、自治体が条例によってドローン禁止を定めていることも多い。このような禁止エリアで飛行する場合は国土交通省への許可・承認が必要となる。
ただし、上記の飛行禁止が適用されるのは重量が200グラム以上の機体の場合。200グラム未満は「模型飛行機」と区分され、改正航空法の適用外とされる。そのため、199グラム以下のトイドローン、マイクロドローンと呼ばれる商品も多く販売されている。初心者にとっては、200グラム以上の本格的なドローンを購入するか、200グラム未満のトイドローンで試してみるかが、大きな選択肢となるだろう。
「トイドローンの種類も増えてきたので、まずは199グラム以下の機体で練習してから大きなドローンの購入を検討するのもよいでしょう」と梶原さん。ただし、200グラム未満であっても(4)国会議事堂などの重要施設では小型無人機等飛行法によって飛行を禁止されている上、(5)文化財や宗教施設、公園では重量に関係なく禁止している場所も多い。
さらに飛行可能な場所でも、日中に飛行すること、イベントやライブ、運動会などで人が集まる場所の上で飛行させないことなどの細かな規定がある。「規制やマナーはきちんと守るようにしましょう」と柁原さんは呼びかける。
重量200グラムが分けるおすすめの機体
初心者向けのドローンはどのようなものがあるのだろうか。
柁原さんのおすすめは2016年10月に発売された「DOBBY」。重量は199gで改正航空法の適用外、大きさは片手に収まるほどで持ち運びも便利だ。ウリは4K画像の撮影が可能なこと。顔を検出して自動的にピントを合わせる「顔認識モード」がついており、多彩な自撮りを楽しむことができる。「これまで撮影できるドローンのネックは持ち運びだったのですが、DOBBYは小さなポーチにも入る。自分で楽しむだけの空撮ならこの機体で十分という声も多いです」(柁原さん)
一方、佐々木さんのおすすめはDJIから販売されている「MAVIC PRO」。こちらは200グラム以上の機体だが、DOBBYと同様、小さく折り畳むことができるのが特徴だ。「DJIのPHANTOM 4は性能が高く人気でしたが、持ち運ぶためには旅行バッグとは別にどうしても機体用のカバンが必要だった。MAVIC PROはその点を解消した上に、ほとんどPHANTOM 4と同じ性能性や撮影能力を持ちます。初心者にも上級者にもおすすめできる1台です」(佐々木さん)。前に登場した二川さんの愛機もこのMAVIC PROだ。
性能的には一定の高度で飛ぶ、自動で障害を回避する、タップするだけで被写体を追従してくれるといった高度な自律制御機能を備えており、初心者にも扱いやすい。そして1200万画素のカメラなど、上級者やプロでも納得できる撮影性能を持つ。DJIストア新宿店のみならず、多くのショップでMAVIC PROは入荷待ちの状態が続いているという。
しかし実売価格は12万円台後半と、決して安い買いものではない。まずは199グラム以下の商品でドローンに慣れて、その性能やできることに納得できなくなったら200グラム以上の機体を検討する、というのがリスクの少ないドローン選びかもしれない。
ドローンの操作は車の運転と同じ。独学では危険
ドローンに興味がある初心者の中には、「自分でも安全にコントロールできるのだろうか」という点が心配な人も多いだろう。
ビックカメラ新宿西口店には、小規模ながら体験コーナーを用意しており、休日などでは順番待ちになることもあるという。昨年以来、こうした体験コーナーを設置している大型量販店も多くある。また、DJIストアでも自社商品の試し飛びが可能だ。試し飛びを目的としてストアを訪れる初心者も多いという。
しかしこうした店舗内では、飛ばせる距離が数メートルと限られている。それ以上の体験をするには、所有している人に借りるか、カルチャーセンターのようなところで学ぶしかドローンに触れる機会がないというのが実情だった。
そうした中、東京都内で貴重なドローン体験カフェとして2016年11月にオープンしたのが、墨田区にあるライオンズファシリティ。23区内初のドローン練習場であり、ドローンのショールームも兼ねている。練習場は屋内施設で、1時間3240円(会員価格)で貸し出している。練習場を使用する客は、すでにドローンを所有していたり仕事で従事していて練習したい人が半分、もう半分はドローンに初めて触れる人だという。初心者の人には、初回お試しフライトとして無料でドローン体験を行っている(説明時間を含めて約30分間)。
「ドローンの操作は車の運転といっしょで、独学では危険だし守るべきルールもある。また、初めての操作が屋外だと、機体を紛失するリスクもある。本来はドローン経験者が横について指導するのがいい」と語るのはライオンズファシリティの取締役でドローン部門の"提督"を名乗る南海絢史さん。ライオンズファシリティでは機体をレンタルして練習することもできるし、購入した機体の初期設定や操作方法の助言も有料で行っている。また、講習会やファンの交流会、屋外でのイベントも積極的に行っていく予定だ。
「特に都心ではドローンを練習する場所もファン同士が交流する機会も限られており、そうした場所を提供したかったし、そこに事業としての可能性も感じている」(南海さん)という言葉のとおり、人口密集地では練習したくても練習する場所がないというのが現状だ。今後ドローンがどこまで普及するかは、ライオンズファシリティのような「場所と機会」を提供するサービスがどれほど広がっていくかがカギになるかもしれない。
(文 滝沢弘康=かみゆ)
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