これぞ世界最高峰のおもてなし 全室スイートの船旅
客船クルーズのススメ(2)
その手厚いホスピタリティーから、シルバーシー・クルーズの運営する客船は「世界最高峰」とされる。クルーズ船の大型化が進むなか、あえて1万6800~3万6000トンと小ぶりなサイズにとどめ、その分、質の高いサービスを展開。乗船客1.3人に対してスタッフ1人を配し、「ノーと言わない」をモットーにゲストを迎えている。同社の客船「シルバー・スピリット」に乗り、約540人の乗船客とともに、ポルトガル・リスボンからスペイン・バルセロナまで、7つの寄港地をめぐった。
部屋ごもりしたくなる最高のリラックス空間
シルバー・スピリットの客室は、全室がスイートルーム。自分の客室に入ると、花の色と香りが迎えてくれた。新しいクルーズが始まると、コチョウランなどの生花を客室にしつらえて、乗船客の緊張をほぐしてくれるのだ。どの部屋もオーシャンビューなので、青い海を眺めながらのんびり過ごすのも気持ちいい。
大理石張りの格調高いバスルームには、足をのばしてゆったりとくつろげるバスタブを完備。客室のアメニティーグッズは、「ブルガリ」「サルヴァトーレ・フェラガモ」「サバメッド」のいずれかから選ぶことができる。寝室にはヨーロッパ各国の王室御用達ブランド「プラテージ」のベッドリネンを採用。また、パソコンを持ち込めば客室でインターネットが楽しめるなど、長旅にうれしい配慮がいたるところにちりばめられている。
24時間対応のルームサービスで料理を取り寄せれば、客室が自分だけの洋上レストランに早変わり。きめ細かなテーブルセッティングに加え、好みに応じて料理に細かい調整を利かせてもらえるのがうれしい。
おすすめなのがバトラー(執事)サービスを活用すること。「アイスペールに氷を入れて持ってきて」といったお願いも、すぐにかなえてもらえるほか、乗船後のスーツケースの荷ほどきからクローゼットの片づけ、ディナーに向けた靴の手入れなど、行き届いたサービスを享受できる。
チップや食事などの支払いにわずらわされない「オールインクルーシブ」
外国航路の高級客船というと、日本人にとってはチップが悩みの種。しかし、この船ではチップやレストランの食事代などをクルーズ代金に含めた「オールインクルーシブ制」を採用。面倒なチップ計算や支払いにわずらわされることがない。バーの料金もクルーズ代金に含まれているので、気がねなく飲んで食べて、のびのびとくつろいだ時間を過ごすことができるのだ。また、船内にはジムやスパ、図書館なども完備している。
食事は、客船クルーズの大きな楽しみだ。各社の客船は、それぞれ趣向を凝らした料理を提供してけんを競っている。そのなかでも、シルバーシー・クルーズの客船は別格といえるだろう。世界的な権威があるホテルとグルメの会員組織、「ルレ・エ・シャトー」に認定されたレストランがあるのだ。
ルレ・エ・シャトー認定レストラン「ル・シャンパン」には、一歩中に入ると、思わず背筋がのびてしまう格調高い雰囲気が漂っている。素材は寄港地の近郊で仕入れた最高のものを厳選して使用。エグゼクティブシェフのリカルド・ドッティさんがプロデュースした、芸術品のような料理をいただくことができる。このレストランは予約制で、別料金が必要だが、特別な思い出づくりに、乗船中に一度訪れてはいかがだろう。
魅力あるレストランが目白押し
予約が不要で、いつでもふらりと訪れることができるオープンシーティング制のレストランも魅力的だ。メーンダイニングの「ザ・レストラン」では、ルレ・エ・シャトーのマスターシェフが手がけた厳選メニューを提供。オーダーが入ってから調理するので、できたてを味わえる。メニューは仕入れ状況によって日替わりになるので、毎日通っても飽きることがない。旬の素材を使ったアラカルトの数々を堪能できる。また、上質なテーブルウエアやキャンドルなど、乗船客をゆったりとくつろがせる気配りが細部まで行き届いており、心地良いひとときを過ごすことができる。
日本をはじめとするアジア各国の創作料理を提供しているのが「セイシン」だ。店名は、日本語の「精神」を冠したもの。刺し身の盛り合わせをメーンに、肉と魚のいずれかのコースを選ぶことが可能だ。店内中央にあるシェフカウンターには、その日の食材がずらりと並んでいるので、オーダー前にのぞいてみることをおすすめする。
気軽にボリューム満点の食事を楽しみたいなら、「ザ・グリル」へ。やわらかいフィレミニョン(牛ヒレ肉の尾の先端に近い部分)やエビなどを、熱した石板の上で豪快にグリルしていただくことができる。ソースはわさびしょうゆのオーダーも可能だ。ディナー時は最上階のデッキが食事の場となる。また、朝と昼には店名を「プール・グリル」と変え、ハンバーガーやピザといったカジュアルな料理を提供している。
ルレ・エ・シャトーは、パリに本部があるホテルとレストランの会員組織。独自に設定した高水準の規定を満たす、世界60カ国以上、約550のホテルとレストランが加盟している。卓越性と独自性を重視しており、毎年、全世界から数多くの入会申請があるものの、認定されるのは20~30軒ほど。また、入会後も3年に1度の覆面審査会をクリアしなければ資格を失ってしまう。つまり、ここの会員に名を連ねているのは超一流の証なのだ。
ちなみに、クルーズ船で認定を受けたのは、シルバーシー・クルーズの客船だけである。
パーティーが互いのきずなを深めてくれる
スタッフは誰もがにこやかでフレンドリー。例えば朝食のために客室を出てレストランに向かうと、到着までに幾人ものスタッフと言葉を交わすことになる。表情やしぐさも含めて常に「ウエルカム」の気持ちを表現しており、ゲストへの心配りが徹底されているのを感じる。
船内で開かれる各種のパーティーでもそれは変わらない。回を重ねるごとに、スタッフと乗船客、そして乗船客同士のきずなが深まっていく。キャプテン(船長)主催の「ウエルカムパーティー」は出港2日目の夜に開かれる。ドレスコード(服装規定)はフォーマルなので、参加者すべてが思いきりおしゃれを満喫。女性の装いは、黒いシンプルなデザインのフォーマルドレスか、膝丈のカクテルドレスが人気のようだ。靴も黒いものが多い。幅広いコーディネートに使いまわしが利く黒は重宝するのだろう。
きらびやかな貴顕淑女たちに見とれていると、ウエーターが笑顔でトレーに載せたフィンガーフードをすすめてくれた。あちこちで親しげにスタッフと話している乗船客も少なくない。あるアメリカ人乗船客は、「この船が好きで何度も乗っているから、スタッフとは顔なじみなんだ」と話してくれた。このほか、初めてシルバーシー・クルーズの客船に乗った人を対象にした「ファースト・タイマーズ・パーティー」や、甲板のプールデッキを会場にした「ディナー・アンダー・ザ・スターズ」といったパーティーもあり、それぞれ趣向を凝らした演出が楽しめる。
ショーラウンジやプール、ビューティーサロンもある
この船には、パーティー以外にも夜を満喫できる仕掛けが満載だ。1930年代のサパークラブ(食事も提供するナイトクラブ)をほうふつとさせる「スターズ」で生演奏を聴きながらタパス(小皿料理)を楽しむ。毎夜10時に開演する「ショーラウンジ」でバラエティー豊かなショーを観賞する。夜遅くまでオープンしている「パノラマラウンジ」でカクテルをいただくなど、好みに合わせてさまざまな楽しみをチョイスできるのがうれしい。
連日のごちそうで摂取したカロリーが気になるなら、甲板にあるプール&ジャグジーや、トレーナーが常駐する室内のフィットネスルームで体を思いきり動かすのもいい。ビューティーサロンで疲れを解きほぐすマッサージを受けたり、潮風に吹かれながら1周約200メートルのデッキを散歩したりするのも、気分転換におすすめだ。
寄港地で訪ねる数々の名所
寄港地ごとの観光も非常に魅力的だ。今回の船旅では、リスボンからバルセロナまで、7つの寄港地をめぐった。列車では足をのばしにくい場所でも、船旅なら訪れやすいのがうれしい。シルバーシー・クルーズが寄港地ごとに用意したオプショナルプログラムに参加すれば、ガイドつきで名所旧跡などの見どころをまわることができる。世界遺産のアルハンブラ宮殿や、島全体が世界遺産のイビサ島、建築家アントニオ・ガウディが手がけた高級アパート「カサ・ミラ」など、心打たれる美しい景色の中に実際に身を置く非日常感は、間違いなく一生の思い出となるだろう。
(エフジー武蔵)
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