心身がラクになる、「考え方のクセ」の直し方
ストレスの影響を強く受ける人ほど、自律神経が乱れがちになる。「考え方のクセ」を変えることで、ストレスの対処法を身に付けよう。
思考の偏りを見直してストレスを増大させない
日常生活で直面する多様なストレス。その対処がうまくいかないと、自律神経のバランスが乱れ、倦怠感や抑うつ症状など、さまざまな不調が現れることも。
「自律神経を乱しやすい人のストレスの受け止め方は、大きく2タイプに分かれます。ストレスを大きく膨らませる神経症タイプと、ストレスを無視して頑張りすぎる過剰適応タイプ。2タイプを併せ持つ人もいます」と話すのは、山王病院心療内科部長の村上正人さん。
どちらのタイプにも、背後には「ストレスの受け止め方の偏り」があるという。そこで村上さんが勧めるのが「考え方のクセ」の修正。「自分のストレスが増大するとき、どんな考え方に陥っているかを見極めることで、"クセ"が見えてきます」。無意識にやってしまいがちな言動から思考の偏りを自覚し、少しだけ角度を変えて捉え直すことで、ストレスにうまく対処でき、心と体がラクになるはず。
【自律神経を乱しやすい2つのタイプ=「神経症タイプ」と「過剰適応タイプ」】
TYPE1 神経症タイプ:心の不調が起こりやすい
ささいな出来事や人間関係のストレスに強く反応し、問題を膨らませてしまうタイプ。「やる気の低下、慢性的な疲労感などが出やすいですが、重い体の症状が出ることはさほどなく、むしろメンタルの不調が前面に出てきます」。不安や緊張が強く、イライラや落ち込みに悩みやすい。
[おすすめの思考法]:何事も「2:1」で許す
小さなストレスに対して、「私はダメ」「あいつは許せない」と全否定で捉えがちな神経症タイプは、「物事も人付き合いも、2:1で捉えるとラクになります」と村上さん。相手の許せない部分が「2」あるとして、許せる部分を「1」見つけてみることで、気持ちが少し落ち着くはず。
TYPE2 過剰適応タイプ:体の不調が起こりやすい
「何事も完璧にこなしたい」「目標を達成したい」と思うあまりに頑張りすぎてしまうタイプ。「自分はストレスに強いと思い込んでいるので、休みたい、眠りたいという欲求を封じ込めてしまう。心よりも体に不調が表れます」。頭痛、下痢や腹痛、生理不順など、症状は多岐にわたる。
[おすすめの思考法]:「いい加減」力を鍛える
「過剰適応タイプは、心の底で『自分の存在を他人が受け入れてくれる』という自信が持てないために、高い評価を得たくて無理をしがちです」。「不完全でもいい」「ありのままの自分でいい」と今の自分を捉え直し、全力で頑張らない"ちょうどいい加減"を見つけるよう意識して。
【神経症タイプの「考え方のクセ」と、その直し方】
クセその1:「0か100か」思考
・こんなことを言いがち →「あの人のすべてが嫌い」
・こう変えよう →「あの人のここはいいけれど、ここは苦手」
物事を0か100か、良いか悪いかの両極端で捉えるため、一度「嫌い」と思った人とは接する時間すべてがストレスになる。"完璧な人間などいない"と考え、苦手な部分と許せる部分とを分けて捉えてみよう。
クセその2:「全部ダメになる」思考
・こんなことを言いがち →「結婚しなければ、絶対幸せになれない」
・こう変えよう →「結婚しなくても、幸せに生きる道はある」
たった1度の失敗で「私はいつも失敗する」など、良くないことが1つでもあると「人生すべてがそうなる」と強く思い込んでしまう。偏ったものの見方に気づき、「別の考えはない?」と見直してみて。
クセその3:「ネガティブ探し」思考
・こんなことを言いがち →「彼からLINEの返事が遅いことがあって不安…」
・こう変えよう →「きっと仕事で忙しいんだろう。録画したドラマでも見て待っていよう」
物事のネガティブな面に敏感で、悲観的なストーリーを描く。褒められても「たまたまうまくいっただけ」と、後ろ向きに解釈しがち。悪い面ばかりを探さずに、いい面を見つけるクセを身に付けよう。
クセその4:「~べき」思考
・こんなことを言いがち →「上司は部下の気持ちに配慮するのが当然。あの人は上司失格!」
・こう変えよう →「上司も忙しいんだから、部下の気持ちに気が回らないこともあるよね」
「~すべき」「~でなくてはならない」といった思い込みが強いため、自分にも他人にも厳しくなりがち。「人は失敗することもある」「世間の常識が正しいとは限らない」と、柔軟に考える意識を持とう。
クセその5:「自分のせい」思考
・こんなことを言いがち →「商談が成約しなかったのは、私の営業力が足りなかったせいだ」
・こう変えよう →「成約しなかったのは、取引先のタイミングと合わなかったからだ」
仕事や人間関係でうまくいかないことがあると、自分の言動と強引に関連づけて自分を責め、罪悪感にさいなまれてしまう。自分にばかり原因を求めずに、「別の要因もあったのでは?」と視点を変えてみて。
【過剰適応タイプの「考え方のクセ」と、その直し方】
クセその1:パーフェクト思考
・こんなことを言いがち →「資料は完璧に作らないと、気が済まないんだよね」
・こう変えよう →「不完全な資料でも、ポイントが伝わればいいかな」
仕事に対して目標を常に高く掲げていて、それを達成できない自分を許すことができない。それぞれの仕事で求められていることは何かを客観視してみて、高すぎる目標は「適正なレベル」に下げる工夫を。
クセその2:サイボーグ思考
・こんなことを言いがち →「1~2日くらい徹夜しても、体には影響はないよ」
・こう変えよう →「体を壊したら仕事もできなくなるから、無理せず休まないと」
頑張ろうと思う気持ちが強すぎるあまり、疲れや眠気を感じなくなって無理をしてしまい、体調を悪化させる原因に。自分の体力を過信せず、適度に休むことで仕事の効率も上がることを認識しよう。
クセその3:外見コンシャス思考
・こんなことを言いがち →「見た目を磨いていないと、周囲に評価されない」
・こう変えよう →「自然のままでも、周囲の評価は変わることはない」
周囲の評価が気になる人ほど、仕事内容だけでなく外見にもとらわれがち。少々手抜きに思えるくらいの服装やメイクでも相手の態度が変わらないことを実感すれば、さほど周囲の反応も気にならなくなる。
村上正人さん
順和会 山王病院 心療内科部長。日本大学医学部卒業。心身症、ストレス関連疾患、慢性疼痛などの心身医学を専門とする。国際医療福祉大学教授、日本自律訓練学会副理事長も務める。共著に『最新版 自律神経失調症の治し方がわかる本』(主婦と生活社)など。
(ライター 柳本操)
[日経ウーマン 2017年3月号の記事を再構成]
健康や暮らしに役立つノウハウなどをまとめています。
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