入れ替え自在の付箋ノート… 女子高生発ヒット文具
細い字を書き続けられるシャープペン「クルトガ」や、ペンを立てられるペンケース「ネオクリッツ」など、近年、ティーンズたちの学校の机の上で、次々と文房具のヒットが生まれている。彼らの使い方を観察すると、次に来る文房具が予想できるかもしれない。
「今の10代を見て、我々の時代と最も違うと感じるのは、彼らがデジタルに慣れ親しんだ世代ならではの使い方をすること」と、アサツー ディ・ケイで若者のマーケティング集団「ワカスタ」を運営する藤本耕平氏は分析する。
デジタルデータを一瞬でコピー&ペーストし、順序を入れ替えることに慣れた10代が多用するのが、付箋。覚えたいことをすべて付箋に書き、ノートに貼り付けて自由に入れ替える「付箋ノート」を女子高生がインスタグラムに数多くアップして話題になった。付箋は、"入れ替え前提"の感覚に沿ったアイテムだといえる。
「教科書やノートに、びっしりと小さな付箋を付けていることが多い。これも、情報を検索できるデジタル世代の特徴で、開きたいページを探すための許容時間はどんどん短くなっているといえる」(藤本氏)
一方、彼らを指導する教師もデジタル世代に移行している。「資料をパソコンで作り配布するスタイルの授業が増えていて、すぐにとじるための2穴パンチが活用されている」(藤本氏)。プリントを貼りやすくするスタンプ式ののりや、パンチの穴をかわいく補強するシールもティーンズ向けの商品だ。デジタル世代なのに、アナログな紙の管理を余儀なくされるというアンビバレントな状態が、新たな文房具のニーズを生み出しているというわけだ。
自分が好きなものはこれ、自己主張しやすい文房具
彼らが文房具のヒットの発信源となりやすいのはそれだけではない。
「今の若者は、これが好きという軸をしっかりと持っている傾向がある。昔と違い皆の憧れの商品に飛び付くということは少なく、カスタマイズできるものが好まれる」と藤本氏は言う。
象徴されるのが、100円均一のケースやエビアンのペットボトルを、自分流にデコレーションする"スクールDIY"だ。かわいい色や柄があり、自由に"デコれる"マスキングテープが活躍。中高生の間でブームが続くテープ状シール「デコラッシュ」(プラス)も、種類が増えている。「趣味をファッションで表現するのは目立ち過ぎるが、文房具ならそれをしやすい」(藤本氏)。
こうした心理をつかむため、文房具メーカーは驚くほど多彩な色や柄のバリエーションをそろえる傾向がある。「高校生の筆箱に入っていることが多い」(サンスター文具)という、ペン型はさみの「スティッキールはさみ」は、発売中の色や柄が56種類もある。選ぶのに迷いそうだが、「親友と同じ柄で少し違う色を持ち、それをSNSにアップして親友であることをアピールしたいというニーズがある」(藤本氏)。
好みをアピールしたいという気持ちは、俗にいう「痛(いた)バッグ」にも表れる。バッグに自分の"推し"のアイドルやアニメキャラの缶バッジ、マスコットなどをびっしり付けて愛情を表現するという行為だが、次は「痛ペンポーチ」が登場。サンスター文具はこれをサポートする商品「Apiru」を発売した。前ポケットの全面が透明なビニールになっていて、マチが広いため立体的なものを飾りやすい。さらに、前ポケット内の生地をファスナー外に出せる構造で、缶バッジを取り付けやすいという、至れり尽くせりな商品だ。
「若者の○○離れ」とひとくくりにされがちだが、彼らの文房具を見るととても消費意欲が薄いとは思えない。次のトレンドを知るキーワードは、ペンケースの中に潜んでいる。
(日経トレンディ編集部)
[日経トレンディ2017年3月号の記事を再構成]
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