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“ゴルフ王”トランプ大統領 業界に追い風も 米シアトル在住のスポーツライター 丹羽政善(下)

2017/5/17

トランプ大統領と安倍首相の「ゴルフ会談」(内閣広報室提供)

 世界から注目の集まるドナルド・トランプ米大統領。もともと「不動産王」として有名だが、米国などにいくつもの豪華なゴルフコースを所有し、自らも大のゴルフ愛好家として知られている。ゴルフビジネスの視点からトランプ氏のもう一つの顔に迫った。

■スポンサーが尻込み

 トランプ氏が所有するドラルリゾート&スパで行われていた世界ゴルフ選手権の大会は、今年から舞台をメキシコに移した。同リゾートのブルーモンスターコースは、1962年から2006年まで米PGAの大会を主催した名門。2007年から世界ゴルフ選手権が行われていたが、トランプ米大統領が選挙中にイスラム教徒の入国禁止などを訴えると、米PGAツアーなどは懸念を表明している。場所を移したことに関して米PGAツアーは、政治的なことが理由ではないとしているものの、「スポンサーがつかない」と明かしており、トランプ米大統領の所有コースで行われる大会に名前を連ねることは、大統領の差別的な発言を肯定することと消費者に受け取られかねず、スポンサーが尻込みしたようだ。

 2015年には、ロサンゼルスにあるトランプ米大統領のコースで行われる予定だった米スポーツ有線局「ESPN」のイベントも場所が変更された。同時期、米PGAは、やはりロサンゼルスのコースで行われる予定だった四大大会の勝者による「グランドスラム」をキャンセルした。いずれも、トランプ米大統領のマイノリティーに対する発言を憂慮してのことと報じられた。

■全英オープン開催も見送り

 そうした中でトランプ米大統領にとって最大の誤算はターンベリーだろうか。過去に全英オープンを4度開催(1977年、1986年、1994年、2009年)した名門を2014年に買収したが、全英オープンの開催地を決める権利を持ち、世界のゴルフ組織の中でも、もっとも力があるとされるR&A (ロイヤル・アンド・エンシェント・ゴルフクラブ)も彼の選挙中の発言に懸念を示し、当初は2020年が有力といわれていたターンベリーでの全英オープン開催を見送った。

 世界の様々な国、民族、宗教など、その多様性を背景に発展したゴルフの世界とトランプ米大統領の排他的な考えとは、根本的に異なる。無理に開催すれば、大きな反発も予想され、トランプ米大統領がオーナーであるうちは、ターンベリーに全英オープンが戻ることはないかもしれない。

■女子プロ、感謝する人も

 その一方、今年7月に行われる女子の全米オープンは、そのままトランプ米大統領が所有するニュージャージー州ベドミニスターの「トランプ・ナショナル・ゴルフ・クラブ」でそのまま開催される予定だ。理由の一つとして、変更するとしても準備が間に合わない、といった事情があるようだが、実のところトランプ米大統領は、昔から女子ゴルフをサポートしており、女子プロゴルファーのナタリー・ガルビスなどは、選挙期間中に応援演説を買って出た。

 そのとき彼女は、かつてウエスト・パームビーチのコースで女子PGAの大会が行われていたころ、トランプ米大統領が、選手らを「マール・ア・ラーゴ」に泊め、至れり尽くせりでもてなしてくれたエピソードを明かし、さらに自らの慈善事業を積極的に支援してくれたと話している。もちろん、女子プロの中にも全米オープンのコースの変更を訴える人がいたが、ガルビスのようにトランプ米大統領を女子ツアーを支えたパトロンと捉え、感謝する選手は少なくないようだ。

■ゴルフ経営にプラスの影響も

米ゴルフ場で意気投合するトランプ大統領と安倍首相(内閣広報室提供)

 さて、最後になったが、トランプ米大統領が、ゴルフビジネスに与える影響について触れておくと、一部のゴルフメーカーは、アメリカでの国内生産を迫られることで、これまで199ドルで販売できたキャディーバッグが500ドルになってしまい、誰も買わなくなる、という危惧を抱いているようだが、ゴルフ場を経営する側は、コース管理において厳しい環境基準を満たすために多額の出費を迫られており、規制緩和を望む声もある。

 また現在、プライベートクラブなどでのグリーンフィーは経費としては認められていないが、税金の控除対象になるのでは、という期待もある。いずれもトランプ米大統領自身がゴルフ場経営を行っていることから、自分に有利に導くなら、その恩恵にあずかれるかも、というわけである。

 2月2日付のゴルフ・ダイジェスト(電子版)に掲載されていた「トランプが大統領になったことは、ゴルフビジネスにとって良いことか、悪いことか?」という特集記事の中では、米PGAのポール・レビー社長がこうコメントしている。

「ホワイトハウスにゴルファーがいることは、いないよりも悪くはない」

 選挙中、トランプ米大統領はオバマ前大統領のことを「ゴルフのし過ぎだ」と批判。その限りでは、ゴルフ業界に冷水を浴びせた形になったが、3月9日付の「ニューヨーク・タイムズ」紙(電子版)は、「この5週間、トランプ米大統領が、ウエスト・パームビーチの別荘で週末を過ごしたのは4回。安倍首相とのラウンドも含めて、7回はゴルフをしている」と伝えており、そのことは、彼らを安心させたに違いない。なにしろ、オバマ前大統領は8年間で333ラウンドをしたそうだが、トランプ米大統領はそれを4年間で、更新しそうな勢いなのである。

 ちなみにトランプ米大統領が、ウエスト・パームビーチで週末を過ごすと、その度にセキュリティーなど、約300万ドルの経費がかかるという。もちろんその原資は、税金。「私は、1ドルの給料しか受け取らない。長い休みも必要ない」と話してきたトランプ米大統領だが、随分と経費がかかり、就任以来、3月6日の時点で、バケーションの日数が31%に達したそうだ。

丹羽政善
 立教大学経済学部卒業。出版社勤務ののち1995年に渡米。インディアナ州立大学スポーツマーケティング学部卒業。著書に「メジャーの投球術」(祥伝社)、「夢叶うまで挑戦―四国の名将・上甲正典が遺したもの」(ベースボール・マガジン社)がある。シアトル在住。

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