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トランプ大統領 もう一つの顔はゴルフ王 米シアトル在住のスポーツライター 丹羽政善(上)

2017/5/16

米ゴルフ場で安倍首相と楽しむトランプ米大統領(内閣広報室提供)

 世界から注目の集まるドナルド・トランプ米大統領。もともと「不動産王」として有名だが、米国などにいくつもの豪華なゴルフコースを所有し、自らも大のゴルフ愛好家として知られている。ゴルフビジネスの視点からトランプ氏のもう一つの素顔に迫った。

■イチローの拠点 日米首脳ゴルフ会場と至近

 現在、イチローが所属するマイアミ・マーリンズがキャンプに利用している施設はフロリダ州ジュピターにあり、2月11日、ドナルド・トランプ米大統領と安倍晋三首相がゴルフを行った「トランプ・ナショナル・ゴルフ・クラブ・ジュピター」までは、車で7~8分の距離だ。

 イチローの取材をしていた2月、マーリンズの関係者とそのゴルフコースの話になり、聞けば昨年のキャンプ中、チームの食事会が同コースのクラブハウスで行われたという。 目下、身売りを目論むマーリンズのジェフリー・ローリアオーナーは、トランプ米大統領の支持者として知られ、昨年11月の選挙前には12万5000ドル(約1438万円、1ドル=約115円)という多額の献金をしている。ローリア氏がフランス大使候補となっている背景にはそんな事情もあるのでは、と報じられているが、大統領の義理の息子家族に球団の売却を試みた経緯なども合わせてたどれば、なぜそこで食事会が行われたのか、さもありなんという話である。

 その場所を改めて地図で確認すると、取材が終ってから立ち寄っても回り道にすらならない近さ。プライベートコースなので様々な制限があるのは承知の上だが、どんなコースか少し見ることぐらいはできるだろうと高をくくっていると、「行くつもりか」と聞いたチーム関係者は、「無理だ」と首を振りながら続けた。

■安倍首相とゴルフ場をはしご

「そこまでたどり着けない」

 ゴルフ場のはるか手前にセキュリティーゲートがあり、訪問者のリストに名前が載っていなければ、行けるのはそこまで。食事会の時も選手がそれぞれ車で行くことは許されず、キャンプ施設に集まってからバスで移動したそうだ。

「あの時であれだけ人の出入りに厳しかった。大統領になった今、一見さんがクラブハウスまで行けるとは思えない」

 もっともである。しかもそのとき、トランプ米大統領はウエスト・パームビーチで週末を過ごしていた。そこでゴルフをしている可能性さえある。「やめておいた方がいい」の忠告には素直に従った。間違ってもブラックリストには載りたくない。

 冒頭の話に戻ると、トランプ米大統領と安倍首相はまず、ジュピターのコースで1ラウンドした後、午後から、トランプ米大統領の別荘がある「マール・ア・ラーゴ」に近い「トランプ・インターナショナル・ゴルフ・クラブ・ウエスト・パームビーチ」へ移動して、さらにハーフを回ったという。

 車で15分程度の距離とはいえ、どうしてわざわざゴルフ場をはしごしたかだが、ウエスト・パームビーチのコースはトランプ米大統領が初めて手掛けたゴルフコースでもある。それなりに思い入れがあるのだとしたら、安倍首相を招いた背景にも、それなりに意味が込められているのかもしれない。

■ゴルフ場を買いあさる

 そのウエスト・パームビーチのコースがオープンしたのは1999年のこと。大学生のときにゴルフを始め、ハンディキャップがシングルの腕前というトランプ米大統領が、不動産投資、土地開発を始めたのが1970年代であり、以来、ホテル、カジノ、航空会社、プロスポーツへと事業を拡大させていたことを考えると、ゴルフに手を出したのは比較的最近といえる。投資に見合うだけのリターンが期待できないということだったのだろうが、2000年代に入ると、ゴルフ場を買いあさり、ゴルフビジネスが事業の柱にさえなっていった。 現在、そのトランプ米大統領が所有するコースは、世界中に17カ所。内訳は、アメリカ国内ではニューヨーク州、フロリダ州など東海岸を中心に12コース。海外では、ドバイに2コース、スコットランドに2コース、アイルランドに1コースの計5コース。17コースのうち10コースがプライベートだ。大統領になったことで、形式上は自分の会社の役職を辞任したことになっているが、息子たちに任せている以上、彼のコースという認識で間違いはないだろう。

■ゴルフ関連の総資産は100億ドル?

「トランプ・ゴルフ」のホームページを見ると、豪華絢爛(けんらん)なクラブハウス、絵はがきのようなコース写真が並び、トランプ米大統領は、ゴルフ関連の総資産は100億ドルだと誇らしげに豪語する。

トランプ大統領のゴルフの腕前はプロ並みという(内閣広報室提供)

 しかしながらそれは、かなり大げさのよう。実際の資産価値はというと意外と低く、米経済誌「フォーブス」(電子版、2016年9月28日)の試算によれば、米国の12コースのうち10コース分の総資産価値は約2億2500万ドルに過ぎず、スコットランドとアイルランドにある3コースを合わせて約8500万ドル。ということは、残る4コースの価値を多めに見積もったとしても総額は5億ドル程度となる。ロイター通信も、ゴルフ場への総投資(買収、改修費用)額が11億ドルなのに対し、資産価値は5億ドルから6億ドルと弾き出している。敷地内のホテル、不動産も含めればその限りではないのかもしれないが、それでも本人が主張する100億ドルには遠く及ばない。

■赤字のコースも

 利益も出ていないとみられている。選挙前、トランプ米大統領が連邦選挙委員会へ提出した書類によると、2015年の総収入は6億9400万ドル。そのうち、ゴルフ関連が2億9600万ドルで総収入の約43%を占める。スコットランドの2コースに関しては、ゴルフ関連の総収入が2300万ドルだったそう。ところが、総収入からして、「1年半分を計算している」などと米メディアに間違いを指摘され、スコットランドの2コースに関しては、「MOTHER JONES」というポリティカル系のブログの調査によると、2015年は360万ドルの赤字だそう。米国内のコースの収益は明かされていないが、実態はスコットランドと似たようなものとの見方が強い。

 参考ながら、彼のコース自体の評価も決して高くはなく、ゴルフ専門誌「ゴルフダイジェスト」が選定し、公平だと定評のある「米国内トップゴルフコース100(2017~18年)」にランクインしているコースはゼロで、資産価値や収益にも少なからず影響があるのかもしれない。

■あのコースも訴訟中

 大統領になったことで、宣伝効果が期待できるとも考えられるわけだが、彼が所有するコースを巡っては訴訟になっているケースが少なくなく、逆に大統領なのに、ということでむしろイメージダウンにつながっている可能性もある。

 安倍首相も回ったジュピターのコースは、まさに係争中。トランプ米大統領が2012年に買収すると、会員規約を一方的に変更し、それまでは退会に伴って入会金が返金されていたが、それを認めなくなった。そのことを不服とした65人のメンバーが訴えると、今年2月1日、フロリダ州の連邦地裁は、メンバーの主張を認めた。入会金を払い戻すよう命じられたトランプ米大統領は控訴する方針だが、退会をのぞむメンバーに対し、「出ていってくれ」という高圧的な、彼の署名入りの手紙を送っていたことも明らかとなっており、分が悪い。

 ただ、彼のゴルフ場を巡る訴訟で一番多いのが固定資産税を巡るもの。評価額が高すぎる、税金も高すぎると異を唱え、訴え出るのである。

 そこでもしかし、矛盾や無理がある。

 ジュピターのコースに関して、トランプ米大統領が選挙前に連邦選挙委員会へ提出した書類では、その価値が「5000万ドル以上」と表記されていた。ところがその少し前、トランプ米大統領の代理人は、そのゴルフ場に対する固定資産税が高すぎるとして訴え、「このゴルフ場の価値は、500万ドルを超えることはない」と主張していたのだ。

 また、2015年9月には、ウエストチェスター(ニューヨーク州)のゴルフ場の固定資産税が47万1000ドルだったことに対して異を唱え、その額のわずか10%、4万7000ドルまで下げるよう訴えた。同様に固定資産税を巡って駆け引きが行われているのは、昨年8月21日付けのワシントン・ポスト紙(電子版)によると、トランプ米大統領が米国内に所有する12コースのうち8カ所。2コースの状況が不明なので、10分の8の確率となっている。

 ここでもあそこでも、という状況だが、米経済、金融情報を提供する「ブルームバーグ」によれば、2000年以降、2016年4月の段階で、トランプ米大統領は個人的に72回も連邦裁判所に訴えられ、彼の会社まで含めれば訴えたり、あるいは訴えられたりしたケースが少なくとも1300回に上るとのこと。固定資産税を巡る争いなど本人が覚えているかどうか分からない。

 なお、そうした様々な話というのは、彼が大統領選挙に立候補したことでクローズアップされたわけだが、選挙中に女性蔑視や、差別的な発言を繰り返したことから、トランプ米大統領所有のコースで行われていた大会が、場所を変えるなど、距離を置こうとする動きも目立つ。

丹羽政善
立教大学経済学部卒業。出版社勤務ののち1995年に渡米。インディアナ州立大学スポーツマーケティング学部卒業。著書に「メジャーの投球術」(祥伝社)、「夢叶うまで挑戦―四国の名将・上甲正典が遺したもの」(ベースボール・マガジン社)がある。シアトル在住。

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