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WIRED創刊編集長の未来本 「八重洲本大賞」で再び光 八重洲ブックセンター本店

2017/3/17

 ビジネス街の書店をめぐりながらその時々のその街の売れ筋本をウオッチしていくシリーズ。今回は定点観測している八重洲ブックセンター本店だ。秋口からの強力本が長く売れ筋上位に並んでいたが、今月はずいぶんと趣が変わった。強力な新刊が出たのかというとそうではない。同書店の独自の販促策で、これまで前面に出ていなかった本に新たな光が当たり、売り上げを伸ばしているのだ。

■自主企画の賞で再浮上

 その本はケヴィン・ケリー『〈インターネット〉の次に来るもの』(服部桂訳、NHK出版)。昨年7月の刊行だから、すでに手に取っている人も多いだろう。著者は米国のサイバーカルチャー雑誌「ワイアード」の創刊編集長で、この分野きっての論客だ。テクノロジーの不可避的変化が向かう未来を、ビジネスに即した形で見通した本として刊行当初も様々なメディアの書評で取り上げられ、大きく話題になった。それが半年以上たった今、ふたたび光が当たっているのは「八重洲本大賞」を受賞したためだ。

 この賞は同書店の書店員や出版社の営業担当者、編集者らにテーマを決めて本を推薦してもらい、2段階の選考を経て大賞作を選ぶもの。いわば「本屋大賞」の単独書店チェーン版だ。テーマに沿って推薦を募るところがみそで、今回は「未来」をテーマにビジネス書だけではなく絵本や小説、哲学書や科学書など多彩な107タイトルが集まった。まず11タイトルを一次選考で選び、その中から十数人の選考委員による順位点を合計して選ばれたのが『〈インターネット〉の次に来るもの』だった。同率1位だったニック・レーン『生命、エネルギー、進化』(斎藤隆央訳、みすず書房)との同時受賞だ。

八重洲本大賞に推薦された107タイトルを並べる。絵本やフィリップ・K・ディックのSF小説もある

 「もともと売れていないわけではなかったが、発表に合わせて今月初めから八重洲本大賞のコーナーをつくって展開したところ、大きく動いた」と副店長の木内恒人さんは話す。両書をメーンに一列の書棚を全部使って推薦のあった107タイトルを並べた「八重洲本大賞」のコーナーは総合フロアの1階にあって、なかなか壮観だ。名前入りで推薦の弁を書いた手書きの店頭販促(POP)などが貼られ、店ににぎわいをつくり出している。試行段階なので「第0回八重洲本大賞」としているが、好評のため今後も続ける考えだ。

■「動詞」でとらえる今後30年の変化

 内容は「今後30年を形作ることになる12の不可避なテクノロジーの力」について、その展望をデジタルの世界に生きてきた経験と思索によって語りつくしたものだ。12の力とはすべて動詞の進行形で表される。「becoming(ビカミング=なっていく)」「cognifying(コグニファイニング=認知化していく)」「flowing(フローイング=流れていく)」……という具合だ。「テクノロジーを高度に取り込んだ自動車は交通サービスに変わり、(中略)それが自動運転か自分で運転するかにかかわらず、この交通サービスは常に柔軟で、カスタマイズされ、アップデートされ、他とつながり、新しい利便性をもたらすのである」。こんな未来図だ。インターネットが始まったときから30年の猛然とした変化を、失敗も繰り返しながら生き抜き、考え抜いてきた思索の跡が随所に示され、読み手の思考を刺激してくれる。

■別のおすすめ企画の本も上位に

 それでは先週のベスト5を見ておこう。

(1)小さな会社の財務 コレだけ!古田土満著(日経BP社)
(2)経済で読み解く織田信長上念司著(ベストセラーズ)
(3)「言葉にできる」は武器になる。梅田悟司著(日本経済新聞出版社)
(4)座右の書『貞観政要』出口治明著(KADOKAWA)
(5)野村證券第2事業法人部横尾宣政著(講談社)

(八重洲ブックセンター本店、2017年3月5日~3月11日)

 1位は人気会計士による経営計画と月次決算のつくり方を伝授する本。まとめ買いで1位に躍り出た。2位は経済評論家の「経済で読み解く」シリーズの最新刊。同店で著者イベントが開かれ、売り上げを伸ばした。3位は今年1月に始めた書店員によるおすすめ本企画「八重洲ブックチョイス」の1冊。昨年夏の刊行以来続く売れ筋だが、この企画でもう一段売れ行きを伸ばしている。冒頭の本はこの表には入っていないが、9位に食い込む。自主企画で息長い売れ筋をつくる同書店の施策は、一定の成果をあげているようだ。

(水柿武志)

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