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うつ回復、企業が「職場復帰プログラム」 生活時間管理を手助け 家族もフォロー

2017/3/13 日本経済新聞 夕刊

日産が自社でリワーク講座を開くために設けた森の里ワークトレーニングハウス(神奈川県厚木市)

 仕事の負荷によるうつ病発症が社会問題となるなか、うつ病にかかった社員に対する職場復帰に取り組む企業が増えている。目立つのは、休職から復職後までの道筋を示す「職場復帰プログラム」を設けるケースだ。ただしこのプログラムをうまく活用するには、休職中の家族によるフォロー体制が欠かせない。現場を追った。

 2月半ば、土曜日の午後。東京都千代田区内のビルに、大手製造業をうつ病で休職中の36~54歳の男性5人が集まった。この企業では、NPO法人うつ・気分障害協会(MDA―JAPAN、東京・品川)に委託し、もう一度働けるよう支援する「リワーク講座」を設けている。

 進行役を務めるのは同協会理事長で保健師の山口律子さんだ。この日のテーマは「家族に言われてつらかったこと・してもらってうれしかったこと」。男性の一人は「いつ復職できるかと聞かれたり、調子が悪いのに外に出ようと誘われたりするのがつらい」と発表した。別の一人は「励ましを手紙でもらったのがうれしい。自分のペースで読める」と続けた。

■病状などで3期

 こういった職場復帰プログラムは、病状などによって、おおむね3期に分けられる。(1)主治医の指導で病院や家庭で静養する時期(2)主治医が復職可能と判断した後、休職しながら受けるリワーク講座期(3)休職明け後に「残業なし」など配慮のもとで働く復職後プログラム期――だ。

 2015年12月から一定規模以上の事業場への「ストレスチェック」導入が義務化された。予防だけでなく、早めに病気に気づくこともできるだろう。治療の成否は(1)から(3)へと流れに乗れるかどうか。そのカギは「(2)のリワーク講座期にある」と山口さん。

 実は主治医は病気には詳しくても、企業の勤務実態などをよく知らないことが多く、治療が終わるとすぐ就業可能の判断をしがち。山口さんは「それでは病気が再発しかねない。復職の前にリワーク講座が必要」と強調する。

 日産自動車は、うつ病の回復期の社員向けに、外部に委託し「12のリワーク講座を用意、対象社員に必ず受講をすすめている」(同社)。12年には神奈川県厚木市内に自社施設の「森の里ワークトレーニングハウス」を新設した。ここでは、共同作業などを体験する3カ月程度の自前のリワーク講座も開く。

 この施設の立ち上げを担当した日産の安全健康管理室の栗林正巳さんは「主治医が復職できると判断した時点では、社員が発揮できるパフォーマンスは本来の能力の6割程度。これを引き上げ、1日8時間就労に耐えられるようにするのが目的」と話す。復職の成功率は「森の里」の参加者が8割弱、委託講座への参加者で6割強で、それ以外の人では半分程度に下がる。

 もちろん企業側の取り組みは重要だが、それ以上に大切なのが(1)~(2)の時期の家族の対応だ。MDA―JAPANでは本人向け講座だけでなく、家族向け講座も開く。

 山口さんは家族に対して「休職した直後は、ともかく休ませることが大事」と話す。この段階では本人が「つらい」ことを避けるなど、まるで「子ども帰り」しているように見えても、頑張ろうとしても頑張れないといううつ病の本質を理解する必要がある。配偶者が仕事を持ち、細かな対応が難しいなら「本人を実家に戻すのもよい」という。

■焦り激励は禁物

 しかしリワーク講座が始まる頃、家族の役割が変わる。まず、夜10時までに寝て朝決まった時間に起きるなど、生活時間の管理を助ける。家族も睡眠日誌を付けるとよい。服装にも気を配り、Tシャツやトレーナーなどすぐ横になれる物は避け、寝てばかりの生活を卒業させる。食事時間も一定にし、トイレに行きたくなる時間を調節する。

 早寝・早起き・つめをきれいにする・あいさつ――。山口さんは「小学生のようだが、くらしの中で当たり前にやっていることが普通にできることは、仕事に戻る上で非常に重要だ」と強調する。

 ただ、企業が家族をどこまで指導できるかは難しい。日産は、うつ病による休職が決まった時点で家族あてに、焦って本人を叱咤(しった)激励しないことなどを要望する文書を渡している。これ以上は法的にも実務上も立ち入れないからだ。この時期の家族の役割は極めて重要。MDA―JAPANなど専門団体や医療機関とよく相談しよう。

 ◇   ◇

 コンピューターを使うことによる精神的な失調「テクノストレス」が問題とされてきた情報産業で、うつ病などで休職した後、職場に復帰した人の割合が増えている。情報産業労働組合連合会が2016年5月に実施した「ソフトワーカーの労働実態調査」で分かった。

 「過去3年に休職した人のほぼ全員が復職した」企業は45.3%。11年の33.5%から11.8ポイント改善した。同労連政策局部長の宮原千枝さんは「メンタル面での異常発見と防止に早く対応をする企業が増えているようだ」とみる。一般に福利厚生などが遅れがちな従業員数100~299人の小規模事業場の復帰率は53.9%。1000人以上の事業場の3倍良かった。

 だが、派遣で働く「客先常駐者」のメンタル管理などが新たな課題として浮上している。宮原さんは「実態を聞き、分析する必要がある」と話す。

(礒哲司)

[日本経済新聞夕刊2017年3月13日付]

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