千葉県の名物「鉄砲漬」 ウリの中にはトウガラシ
漬物(6)
前回登場した「鉄砲漬け」。なぜ鉄砲か?
千葉県内にはタケノコの鉄砲漬(筍の中にトウガラシ)、菜の花の鉄砲漬(瓜の中に菜の花。トウガラシなし)などなどいろいろな鉄砲漬があるようです。
鉄砲漬自体は他の地域にもあるものなのでしょうか? 他の地域ではどんなものを鉄砲漬と呼ぶのでしょうか?
また、ぬかみそ漬には地域性があるのでしょうか?(千葉県出身ななさん)
茨城県との県境にある千葉県の小見川町に行ったことがある。地元のスーパーを覗くと各種鉄砲漬けが並んでいた。もちろん買わなかった。赤い殺意が入っているからである。
デスク抗議 恋人!
清水圭一編『たべもの語源辞典』を開いて鉄砲漬けを探す。残念ながら収録されていない。しかし「鉄砲焼き」の解説がある。「魚・鳥の肉に唐辛子味噌を塗って焼いたものである」。「鉄砲和え」は「ぶつ切りにしてゆでたネギと、魚・貝などを辛子酢味噌であえたものである」とし、「唐辛子がきくとか、辛子がきくということで、『鉄砲』の名をつけたのである」と書いている。
ということは鉄砲漬けもトウガラシがポイントであろう。昔の人はなぜトウガラシを「鉄砲」と呼んだのであろうか。それはトウガラシが生命にもかかわるキケンなものであることを知っていたからに外ならない。昔の人は偉い! この辞典に収録されている項目は、相当歴史がある食べ物ばかりなので、あるいは千葉以外にも鉄砲漬けがあるところが存在する可能性がある。ご当地鉄砲漬けについてメールを。
デスク猛抗議 ぬれぎぬだ! 赤い恋人に謝罪せよ! ネットで調べる限り、「鉄砲=トウガラシ」ではありません。銃砲と銃弾の関係、つまりは筒状のものに別の小さな素材を入れた漬物の総称として鉄砲漬けと呼ぶようです。うりを銃身にうど、わらび、ふき山菜などを詰めたもの、たけのこの芯の部分をくり抜いて菜の花を詰め込んだもの、メロンの中にゴボウやニンジン、ナンバンを詰め込んだもの、さらにはイカに野菜を詰めた「鉄砲漬け」などが多数あります。
ベティー隊員 デスクのお腹にはタバスコがいっぱい詰まってるような気がする。
野瀬 さっきの辞典ではデスクの言う説について「という説もある」のひとことで片付けている。もしそうなら「鉄砲焼き」「鉄砲和え」の説明がつかないじゃん。
デスク素朴な疑問 じゃ、通販で売ってる赤い恋人抜きの「鉄砲漬け」はすべて経歴詐称?
野瀬 知らん。
ここで前回、エミーによる「パンタグラフのない電車」発言についてデスクが言及していたが、それに関してメールをいただいている。
ここで終わったら、ちろこさんは怒るであろう。だって、漬物に関するお話が山のように書いてあるのに、ここしか紹介しなかったら何のために貴重な時間を使って書いたんだってことになる。で、ちろこさんメールの続き。
林みかん著『東北漬け物紀行』に青菜の説明がある。
「青菜は山形特産の野菜で、正式には『山形青菜』という。アブラナ科に属する菜類で、ルーツは中央アジア原産の芥子菜。中国で品種分化され、日本には9世紀に『タカナ』が、明治中期に『多肉タカナ』が入ってきた。現在、高菜と呼ばれているのは、タカナや多肉タカナが土着化したり交雑したりしたもので、産地によって少しずつ特性が異なる。山形県には明治41年に多肉タカナである青菜の種子が導入され、以降、交雑を避けて全県的に栽培されてきた」
高菜と青菜は親戚筋らしい。
半ライス大盛りさんは、この青菜が好物なのだそうである。酒の友、ご飯の友として青菜と一緒に人生を歩いている。
さて、名古屋から岐阜や長野の漬物文化を観察する。
あるお店で「ぬか漬け」以外に確認できたのはこれだけ。どれもこれも初めて見たものばかりです。
・べったら漬けor麹漬けのもと
・粕漬けのもと
・味噌漬けのもと
「粕漬けのもと」は味噌のように茶色いです。これを使えば、奈良漬(森口漬?)が家でできちゃう! すごいです。
また「味噌漬けのもと」の袋には「野菜の漬け方」と「肉・魚の漬け方」とに分けた使用説明が書いてあります。そうですよ、なんでも味噌で漬けていいんですよ。というか、味噌で漬けるべきなんですよ。そういうことですよね?
こういうことは、たぶん、名古屋というよりは、その奥に広がる岐阜や長野の山間部の影響が大きいんじゃないかと感じます。保存食作りに長けていて、種類が豊富というのは。上に挙げた「もと」のメーカーはいずれも岐阜と長野でした。また、スーパーに並ぶ既製品の漬物の産地にも同様の傾向があります(日野みどりさん)
さまざまな「もと」が売られているものである。東京じゃあ、買えそうもないものばかり。西京漬けを作る西京味噌なら近くのスーパーで売っているが。
岐阜、長野の皆さんはこのような各種「もと」を使って多彩な漬物ライフを楽しんでおられるの? おせーて。
さて、北海道にはこのような食堂がある。
ご飯と味噌汁とおかずと納豆がセットされた定食で、漬け物が取り放題です。漬け物の種類がそのときで変わるようで、だいたい10種類ほどあります。しかし、ここの食堂をやっているおばちゃんたちはチャレンジャーで、ありもしない漬け物を作っているようです(コーヒー漬けというのも過去にはあったようです)。
おにぎりで話題になったHTBの番組「おにぎりあたためますか」の番組でも、ここの食堂のおばちゃんと共同で新しい漬け物を開発してました。たぶん、限定的に商品化されてこの食堂で販売されたはずです。
添付した写真は、食事のセットです。真ん中においてあるお皿にのっているのがバイキング形式で取り放題の漬け物たちです。このときは普通の漬け物ばかりでした(今は佐賀市民のわしさん)
「おつけもの食堂」という、工夫がなさすぎるようでかえってインパクトが出てしまった名前が好きである。コーヒー漬けはぜひ食べてみたい物件である。私が属する部の一角に「コーヒー焼酎」のラベルが張られた瓶が手つかずのままほこりをかぶっている。コーヒーの取り扱いは大変難しい。
デスク告白 先日前橋支局長から群馬の名物にしようと作ったという、地元の特産食材を使った焼酎をいただきました。むぎ焼酎とこんにゃく焼酎とねぎ焼酎。むぎはともかく、こんにゃくとねぎ――。勇気をふるってねぎ焼酎をいただきましたが、グラスに注いだ焼酎からは強烈なねぎの香りが鼻孔をつきます。某立ち食いそばチェーンのねぎ取り放題を入れすぎてしまった後に出るゲップのような感覚でした。
野瀬 たとえは汚いが、すごくリアル。
ベティー隊員大混乱 こんにゃくで焼酎? こんにゃくに香りってあった? こんにゃくに味あった? こんにゃく焼酎がどうしても理解できません。お目めが3回転しました。
最後はこのメール。
いい会社にお勤めであるらしい。
(特任編集委員 野瀬泰申)
[本稿は2000年11月から2010年3月まで掲載した「食べ物 新日本奇行」を基にしています]
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
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