メンズのヘアスタイル 整髪剤の進化とともに流れゆく
より自然に 2度と同じ形はなし
ポマード使い、プレスリー風
前から男性整髪料として広く使われていたのがポマードとチック。髪をオールバックや7.3分けになで付けたスタイルが主流で、米人気歌手エルビス・プレスリーの影響で前髪を盛り上げたリーゼントなども流行した。
1950年代には石原慎太郎氏の小説「太陽の季節」や同名の映画に出演した実弟の裕次郎氏の人気から長い前髪に脇を刈り上げた慎太郎カットのブームが到来する。慎太郎カットでアロハシャツを着た太陽族が街角や海水浴場に出現するなど社会現象を巻き起こした。
60年代になると髪をさっぱりと7.3に分けたアイビーカット、キノコのように膨らませたマッシュルームカットなどがブームに。東京・銀座にはVANのジャケットや綿パンを着たみゆき族が集まるようになった。
この時期に決定的な役割を果たしたのがヘアリキッド。
液体なのでポマードやチックのように油分でベタッとした感じにならず、軽い自然な感じに仕上がるのが特徴。「バイタリス」「MG5」などのヒット商品が発売され、おしゃれに欠かせないアイテムとして若者層に浸透した。
70年代はパーマをかけて髪を短くカットする健太郎カットやサーファーカットも流行。時代がより自然な仕上がりや整髪力の強さを求めるようになり、80年代には俳優の吉田栄作さんに代表されるサラサラヘア、柳葉敏郎さんに代表されるタンタンヘアが人気の高い髪形の二大勢力として君臨する。
サラサラヘアは泡状のヘアフォームを使い、髪の自然な動きを生かしたのが特徴。タンタンヘアはジェルで髪を固めた整髪力重視の髪形。それぞれ爽やかさ、男らしさをより強調した。
90年以降になると髪の流れを作り出すスタイルに関心が集まる。木村拓哉さんや江口洋介さんらに代表されるロン毛、さりげなさが特徴の無造作ヘアは整髪力に優れたヘアワックスに適した髪形といえそうだ。
パウダー成分、ベタ付き克服
日韓共催の2002年サッカーW杯で人気を集めたイングランド代表デビッド・ベッカム選手のソフトモヒカンもヘアワックスが可能にした髪形。頭頂の髪を立てるなどの整髪はヘアフォームやジェルではかなり難しい。
このように整髪剤の流れをまとめると、油分でベッタリと固める「ポマード」「チック」→自然な仕上がりの「ヘアリキッド」→さらに自然に仕上がる「ヘアフォーム」やベタつかずに髪を固める「ジェル」→髪の流れをより出しやすい「ヘアワックス」へと進化してきた。
髪形もそれに対応するように自然でかつ整髪力が高いスタイルへと変化してきたというわけ。クシャクシャした寝癖風の風合いの髪形やサイドの外ハネ、頭頂の髪を立たせるツンツンヘアもワックスの普及がもたらしたヘアスタイルといえる。
2010年以降は「ワックスのベタつきや落としにくさをどう克服するかが課題」(マンダム)。ヘアスタイルの好みも"作っている感"をより薄める方向にシフトしているとみられ、マンダムはパウダーの成分を使った「ヘアジャム」、資生堂は霧状に吹き付ける「フォグバー」などを相次いで投入。新たなヘアスタイルの誕生を促している。
(編集委員 小林明)
[日本経済新聞夕刊2017年3月11日]
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