マネーコラム

カリスマの直言

トランプ政権下でドル安は進まない(武者陵司) 武者リサーチ代表

2017/3/13

トランプ米大統領=AP

「トランプ氏のドル高けん制の真の狙いは、通商取引で譲歩させて中国の経済的な台頭を抑えることにある。政権が本気でドル安を追求するとは思えない」

 メディアによる厳しいトランプ米大統領への批判とは裏腹に、米国株式は史上最高値圏で推移している。インフラ投資や減税など、トランプ政権の政策への期待の高まりに加え、経済指標が大きく改善しているのが株高の背景だ。

 景況感の改善は日本も含めて世界的な現象だ。銅や鉄鉱石、原油などの国際商品市況も上向いている。しかしながら、トランプ政権の保護主義的な貿易政策を理由に、日経平均株価は1万9000円台半ばで推移する。昨年来の高値圏ではあるものの、米国株に比べ上値が重い印象だ。

 日本の市場関係者は「再び日米摩擦が起きるのではないか」「それによって不当な円高圧力がかかってくるのではないか」という不安が拭えないためだ。

 確かにトランプ政権の為替スタンスは読みにくい。異例にフレンドリーであった2月の日米首脳会談以降、トランプ氏は過激な対日批判を封印した。このため、円高懸念もいったん薄らいだが、米の貿易赤字への不満はくすぶっており、「トランプ氏がいつまた批判の矛先を日本に向けるかわからない」と日本の市場関係者は警戒している。

■保護貿易を強力に推進すれば、ドル高になる可能性

 とはいえ、トランプ氏のドル安誘導はうまくいかないだろう。政権の狙いとは逆の方向にドルが動く可能性があるためだ。保護貿易を強力に推進すれば、米国の貿易赤字が減ることをマーケットが先回りして織り込んでしまい、むしろドル高になるだろう。

 トランプ政権は国境税を導入してメキシコからの輸入品に20%の税をかければ、メキシコからの輸入品の価格競争力が低下すると考えているようだ。しかし、これを実行すればドルは弱くなるどころか、強くなるだろう。かえって米国の価格競争力が低下する事態になりかねない。結局のところ為替を使って、米国に工場を取り戻すという政策は失敗に終わるだろう。

 もとより、為替はファンダメンタルズ(経済の基礎的条件)によって決まる側面が大きい。米国景気は世界で最も良好で、米連邦準備理事会(FRB)は金融を引き締めようとしているわけで、明確にドル高環境だといえる。

 長期トレンドで見ても、米国の国際収支は大幅に改善している。情報ネットインフラにおいて圧倒的な競争力を持つ米国企業は、財の貿易ではなく、今やインターネット、ソフト、情報に関連する直接投資とサービス輸出で稼いでいるからだ。

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