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サービス産業型のマネジメント とがった個性生かして ダイバーシティ進化論(出口治明)

2017/3/18

 還暦でライフネット生命を開業する前は30年以上、大手生命保険会社でサラリーマンをしていた。入社は1972年。当時は皆、新三種の神器といわれた「3C」(カラーテレビ、クーラー、自動車)がほしくて懸命に働いていた。社会が発展途上にあるときは皆が欲しがるモノがあり、それを作れば売れる。製造業が中心の工場モデルで日本経済は高度成長を遂げた。

 それから40年余り。社会は豊かになり、人々の意識は変わった。モノではなくサービスを求めるようになりニーズは多様化。何が売れるのか、もはや3Cのような答えはない。市場が多様化したなら、供給側もダイバーシティ(多様性)を進め、新たな価値を次々と創出していくしかない。

 しかし、日本は変われないでいる。正社員の年間総労働時間はこの四半世紀2000時間と高止まりし、企業は長時間働く社員を評価する。国際通貨基金(IMF)の見通しでは17年の日本の成長率は0.8%。ユーロ圏の半分の水準だ。2000時間働いて夏休みは1週間で0.8%成長の日本と、1500時間働いて夏休みは1カ月、1.6%成長のユーロ圏。どちらがいいかは明らかだろう。

 「骨折り損のくたびれもうけ」状態を脱するには、工場モデル型の社会構造を根本から変える必要がある。サービス産業型の今の社会では、多様な人材が活躍することでしか企業は成長しない。高度成長期の神話にすがる幹部には、アップルの設立者スティーブ・ジョブズの伝記を読んでもらいたい。とがった個性を持つ異質な存在こそがイノベーションを生み出すのだ。

 マネジメントに求められるのは、部下の適性と能力を見極め、得意とする仕事をやらせることだ。適性を欠く仕事を根性論でやらせるのは、本人にも組織にもマイナスでしかない。

 優れたダイバーシティマネジメントの担い手として歴史好きの僕が想起するのは、モンゴル帝国の5代皇帝クビライだ。十字軍の時代にあっても「思想や宗教など目に見えないものを理由に人の首を斬ったらもったいない。できることをやらせたほうがいい」と語り、人種や宗教を問わず優秀な人材を登用して繁栄を築いた。

 社会慣習や常識にとらわれず自分の頭で考え抜いて正しいと思ったことをやり抜く。いまだ高度成長期の成功体験から卒業できない日本が、そのリーダーシップに学ぶことは多い。

でぐち・はるあき 1948年生まれ。72年日本生命に入社、ロンドン現地法人社長、国際業務部長などを務める。退社後、2008年にライフネット生命を開業し社長に就任。13年から現職。『「働き方」の教科書』、『生命保険入門 新版』など著書多数。

〔日本経済新聞朝刊2017年3月13日付〕

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