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妊娠してからでは遅い! 葉酸、母体検診は先手必勝 日経BPヒット総合研究所 黒住紗織

2017/3/17

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 妊活をしている女性の多くが知らないか、もしくは誤解している、「元気な赤ちゃんを産む」ために留意したいポイントがある。1つは栄養成分、葉酸の摂取開始のタイミング、もう1つは母体の検診だ。いずれも、妊娠したことが分かってから始める人が多いようだが、それでは「タイミングが遅すぎる!」。妊活の2つの誤解についてお伝えしよう。

 妊活に関心がある人なら、葉酸が「妊婦のビタミン」と呼ばれていることは知っているだろう。けれど、妊娠してから摂り始めたのでは、最も重要な摂取タイミングには間に合わない。その事実まで知って、正しく実行している人はどれだけいるだろう。

 紹介する1つ目の妊活の誤解は、「葉酸を摂取するタイミング」。

 ブロッコリーやホウレンソウ、枝豆などの緑黄色野菜や鶏レバーなどに多く含まれる葉酸は、赤ちゃんの先天異常のリスクを下げることが分かっている栄養素。ちなみに、日本の先天異常児の発生率は、50人に1人(日本産婦人科医会先天異常モニタリング2014年)程度と、決して少なくない。

 例えば、胎児の神経管(脳や脊髄の発生過程で形成される)は受精後28日から6週末までに完成するが、この間に母体に十分な葉酸がないと、二分脊椎など神経管の先天異常リスクが高まることがわかっている。

 しかし、そもそも妊娠が確定するのは心音が確認される6週目ごろ。さらに、女性自身が妊娠に気づくのも早くて6週目くらいで、7、8週目を過ぎてからのことが多い。だからこの時点で葉酸を取り始める人が多いのだが、そのタイミングでは、できあがっている部分もある、ということだ。

 日頃から十分な栄養がとれていればこんなことを心配する必要もないが、日本人の若い女性、特に20代の栄養状態は、戦前と同レベルという悪い状態にあることが問題視されている。

 妊娠前のみならず、妊婦になってからの平均栄養摂取量を見ても、1日推奨量に対して葉酸の充足率は48%、葉酸と並んで妊娠中に重要な栄養素である鉄は28%、ビタミンDは67%という具合で、母体の栄養不足は甚だしい(平成24年国民健康・栄養調査、日本人の食事摂取基準2015年版より)。

 妊娠を計画している女性に推奨されている葉酸の1日摂取量は640μgで、妊婦になってからの480μgよりも多い。だが、食事だけで必要量を毎日摂るのは難しいため、日本産婦人科学会のガイドラインでもサプリメントでの補給が有効と記されているくらいだ。

 実際、二分脊椎の日本での発症率は増加傾向が続いている。厚生労働省は2000年から妊娠を計画している女性に、「妊娠1カ月以上前から妊娠3カ月までの間、葉酸をはじめ、その他のビタミンなどを多く含む栄養バランスのとれた食事が必要である」と摂取を推進しているが、「妊娠1カ月以上前から」という情報は十分に浸透しているとは言えない。

 国外に目を向けると、米国では92年に1日400μgの葉酸を妊娠が可能な女性が摂取するように勧告が出され、98年からは米国やカナダの政府機関がシリアルやパンなどの日常食品に葉酸を添加するよう推奨。葉酸充足率は上がっている。そして、二分脊椎の発症率は減少傾向に転じている。

神経管の先天異常の1つ、二分脊椎の発症率が、増加傾向を続ける日本(データ:International Clearinghouse for Birth Defect Surveillance and Research.Annual Report 2013より作図)

 妊娠前からの栄養状態が胎児の体の重要な器官の形成に影響を与えるのは、神経管だけではない。「心臓は受精後22日で拍動を開始する。ほかにも多くの器官が、受精後約2週から8週くらいの間におおかた完成してしまう」と国立成育医療研究センター母性内科の荒田尚子医師は話す。十分な量の葉酸は心臓の先天異常のリスクを下げることも分かっている。

妊娠したと気づく6、7週目にはすでに、重要な部分ができ上っている器官も

 また、ビタミンDは卵子の生育に欠かせないため、不足していると、そもそも妊娠しにくくなる。無事に妊娠しても母体のビタミンD不足は胎児の発育に影響し、赤ちゃんが2500g以下の低体重で生まれやすくなるのだ。母体の栄養不足、つまりお母さんの痩せすぎは低出生体重児を招き、小さく生まれた赤ちゃんは、将来、肥満や2型糖尿病、高血圧、心臓病などの病気にかかるリスクが高まることが分かってきている。

 母親が妊娠3か月までに栄養不足を経験すると、生まれてきた赤ちゃんの63歳時点での死亡率が約10%も上昇するということも報告されている。

 このように、妊娠が分かる前からの母体の栄養状態が、妊娠の成立や、赤ちゃんの一生の健康に大きく影響を与えることを最近の科学は明らかにしてきているのだが、現実には、妊娠が分かってから栄養に気を使い始める人が多いのが気がかり。

日本の低出生体重児(2500g未満)の割合は、80年代にはOECD平均より低かったが、近年は先進国で最悪レベルに。(OECDデータ2013より)

 こうした中、2016年秋に妊娠前の女性向けに葉酸・マルチビタミンサプリメント「エレビット」を発売したのがバイエル薬品だ。同社としてはロングセラーの「アスピリン」以来、初めての消費者向け製品として投入した。

バイエル薬品が、発売したプレナタル・サプリメント「エレビット」 90粒入り(30日分)、4500円。葉酸やマルチビタミンなど、妊娠に必要な栄養が十分に摂れる

 「エレビット」は「授かる前から、始める愛情」というキャッチコピーで、妊娠前からの摂取タイミングを明確にメッセージに打ち出し、テレビCMも放映している。「1984年にスイスでの発売を皮切りに、世界の62の国と地域で発売されているサプリメントで、世界でもトップシェア持つブランド。配合内容は国ごとに調整してあり、日本のものは、厚生労働省の栄養推奨量を基準に配合量を決めている」と同社コンシューマーケア事業部のOTCブランドマネージャー、坂田安美さんは話す。

 日本のプレナタル(妊娠前)サプリメントの市場について坂田マネージャーは「ほかの国に比べ、日本では若い女性が、妊娠前から必要な栄養があるということを知る機会がほとんどない。その一因として、妊娠前の女性は婦人科との接点がないため、医師から必要な情報が伝えられないことも大きい」と話す。(妊娠後に受け取る母子手帳には葉酸の必要性が書かれているため、そのタイミングで摂取する人が多いともいわれる)。同社の調査では、妊娠前から葉酸をとっている人は37.8%(25歳から39歳の600人中、妊活中の45人の回答)で、6割以上は重要なタイミングを逸していた。

 さらに、最近は妊娠を計画する前から赤ちゃんを授かる「できちゃった婚」が増加傾向である点も気になる。いまや、25.3%、つまり4人に1人の妊婦が心の準備がないままに、いきなり母親になる時代だ(平成22年度「出生に関する統計」の概況 人口動態統計特殊報告)。こうなると、妊娠する可能性がある女性がみんな、日常的に葉酸など妊娠に必要な栄養素を摂りやすい環境を作っておくほうが危険が減らせる。

 欧米の取り組みを参考に、日本でも鶏卵やパン、シリアルなどに葉酸などの栄養を強化する食品が少しずつ登場し始めてはいた。そこに2015年、医学有識者グループが日本パン工業会に「パンに葉酸を添加して欲しい」といった趣旨の要望書を送ったことがきっかけとなり、ようやく大手メーカーでも取り組みが始まった。

妊娠時の栄養と出生する赤ちゃんに発生する先天異常のリスクを見た146の研究をメタ解析した結果。葉酸やマルチビタミンを摂っていると、摂らない場合に比べ、二分脊椎や心臓奇形などのリスクが抑えられた。(データ:Reproductive health;11,53,2014)

 例えば食パントップの山崎製パンは、16年10月に葉酸やカルシウムを強化した食パン「十二穀ブレッド」や食事パン「ミルクツイストパン」を発売。さらに17年2月には新アイテムとして「ヨーグルト風味スティックパン」も加わり3商品で展開中。スティックパンなら、3本食べると84μgの葉酸が摂れ、妊娠計画中の女性が必要な量(1日400μg)のおよそ、2割が補給できる。

 「販路別でみると、ドラッグストアの取り扱いが多い。販売ボリュームはまだ少ないものの、安定した発注をいただいている。ドラッグストアでは葉酸に関する知識を持つバイヤーの方も多く、葉酸を強化したパンについて一定の理解を得られているが、他の販路については、まだまだ葉酸に関する理解を得られていないところも多い。ドラッグストアの成功事例なども紹介しながら、製品特徴を丁寧に説明し、取扱店舗の拡大に向け活動している」(同社の広報室)。また同社では、さらに葉酸を強化できるカテゴリーをもっと増やせないか、検討中だという。

山崎製パンは、2016年秋に食物繊維の多い雑穀入りの食パンなど2品に葉酸を強化。写真は健康意識の高い女性にアピールする「十二穀ブレッド」
17年2月には葉酸とカルシウムが摂取できる「ヨーグルト風味スティックパン」も追加し、市場を開拓する

 健康な妊娠をサポートしてくれる市場が活性化すれば、女性の妊活の苦労は減り、健康に生まれてくる赤ちゃんももっと増えるはずだ。

■ブライダル検診は甲状腺や生活習慣病も要チェック!

 もう一つの妊活の誤解は「妊娠前の検診」。

 妊娠前に女性が受ける検診といえば、婦人科クリニックなどで実施されている「ブライダル検診」がある。ブライダル検診は、子宮や卵巣などの生殖器管の機能や、性病などの感染症にかかっていないかどうかを調べる、婦人科系の項目を中心にした検診だ。

 「私は受けたから安心」という人も、35歳を過ぎているならちょっと待って。その項目だけでは不十分かもしれない。

 妊婦の平均年齢が若い時代は、風疹や性病などの感染症や婦人科系のチェックだけで妊娠前の検診は十分役割が果たせた。だが、妊婦の高齢化が進むにつれ、生活習慣病や甲状腺異常などが原因で、妊娠が阻害されるケースが増えており、こうした疾病のチェックも必要になってきたのだ。

 「甲状腺異常や糖尿病のような生活習慣病は、35歳を過ぎるとぐんと増える。こうした疾患を持っていることを気づかずにいると、不妊になったり、妊娠しても妊婦や胎児の命が危険にさらされるリスクが高まってしまう」と前出の荒田尚子医師。

 特に昨今、仕事を優先し、出産リミットぎりぎりに不妊治療を始める女性が増えているが、そんな女性に病気があると、治療を優先せざるを得なくなることも。タダでさえ高齢妊活は時間が貴重なのに、治療で大切な時間をロスすることになるとダメージは大きい。

 不妊治療を始めてから、もしくは妊娠してから病気が発覚する事態を減らそうと、妊娠前のカップルを対象に生活習慣病などの内科検診も含めた「プレコンセプション検診」を始めたのが国立成育医療研究センター(東京都世田谷区)のプレコンセプションケアセンターだ。

プレコンセプションケアセンターのWebサイト

 「プレコンセプション・ケア」とは、直訳すると「妊娠前管理」。つまり妊娠を前提としたヘルスケアを指す。プレコンセプション検診では、糖代謝や血圧などの生活習慣病や甲状腺機能のほか、葉酸・カルシウム・鉄などの栄養もチェックする。医師と栄養士によるカウンセリングも行い、健康管理のための啓発にも力を入れる(ベーシックプランは3万5000円、税別)。

 「妊娠前から病気をチェックし、きちんと管理をしたら、先天異常や、妊婦、赤ちゃんの死亡などのリスクが下げられることが分かっている」と荒田医師(グラフ)。

2502人の糖尿病既往女性にプレコンセプションケアを実施した12のコホート研究のメタ解析。血糖値をコントロールすると、赤ちゃんの奇形、早産、周産期死亡のリスクが抑えられた(BMC Pregnancy and Childbirth;10,63,2010)

 しかし不妊治療を受けていても、生活習慣病のチェックまでしてもらえていないケースも少なくないようで、せっかく妊娠してもハッピーな出産に結びつかない場合もあるという。

 婦人科、内科と縦割りの診療科区分のせいで、妊娠前の女性に妊娠準備を踏まえた内科的な検診を行っている医療機関は、残念ながらまだ多くない。妊婦の高齢化という時代の変化に対応した検診を提供する施設が増えてほしい。

 消費者がいますぐできることは、医療者に任せっきりにせず、「自分の妊娠は自分で守る」気持ちで、「私は甲状腺の異常や糖尿病がないか、調べてください」と働きかけることだろう。特に、家族にそうした病気の人がいる場合や、35歳以上の女性は「ハイリスク」の自覚をもつことが大切だ。

 妊娠や出産にはタイミングやリミットがついてまわる。仕事をしながらの忙しい中での妊活なら、なおのこと、正しい情報を手に入れ、先手必勝でハッピーな妊娠・出産を目指したい。

黒住紗織(くろずみ・さおり)
 日経BPヒット総合研究所主任研究員。サンケイリビング新聞社を経て、90年、日経BP社入社。『日経レストラン』『日経ベンチャー』などの記者を経て、2000年より『日経ヘルス』編集部。その後『日経ヘルスプルミエ』編集部 編集委員など。女性の健康、予防分野の中で、主に女性医療分野を中心に取材活動を行う。共著に『女性ホルモンの教科書』(日経BP社)がある。女性の健康とワーク・ライフ・バランス推進員

日経BPヒット総合研究所
日経BPヒット総合研究所(http://hitsouken.nikkeibp.co.jp)では、雑誌『日経トレンディ』『日経ウーマン』『日経ヘルス』、オンラインメディア『日経トレンディネット』『日経ウーマンオンライン』を持つ日経BP社が、生活情報関連分野の取材執筆活動から得た知見を基に、企業や自治体の事業活動をサポート。コンサルティングや受託調査、セミナーの開催、ウェブや紙媒体の発行などを手掛けている。

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