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自身が最も注文の多いライダー、「Arai」社長に聞く ヘルメットの科学(5) 北岡哲子日本文理大学特任教授

日経テクノロジーオンライン

2017/3/13

 「だから一般論ですが、メーカーというものは規格を取得した時点で安心してしまい、それ以上を目指さなくなるのが常です。これは自らの成長をストップさせてしまうこと、すなわち“死”です」

 「しかし、アライは、ずっとその先にあるものを探してきました。実際の事故においては、規格に合格していたヘルメットをかぶっているからといって、絶対に安全・安心とは言えません。そこで守りきれないもの、残念な結果を極力減らすためにはどうしたらいいのか。いつもどんな時も、それが頭にあって離れることはないのです」

■生まれながらのヘルメットメーカー

 「この日本で初めてヘルメットを造り上げた人間を父に持った者の使命、まさに運命ではないかと思います。アライでなくて、一体誰がやるのか。アライでなければできない、唯一無二の存在であり続けたい」

 先代社長で創業者の新井広武氏は小学校しか卒業していないにもかかわらず、日本で初めて繊維強化プラスチック(FRP)の帽体と発泡スチロールのライナーを用いた現在のヘルメットの原型を創り出した。かの本田宗一郎氏が2輪車を造るときに相談に来たという、まさにものづくりの鑑(かがみ)のような人だった。アライヘルメットは、日本のヘルメットの規格ができる前からヘルメット造りを手掛けてきたのだ。

 その人を父親として生を受けた理夫社長には、覚悟を持った人間の芯の強さを、取材中のどの瞬間にも感じた。

■社長自ら「注文の多いライダー」

 「ヘルメットは改良しても、それが果たして安全面で効果がある改良だったのか否かは、事故後に判断する以外に方法はありません。だから、前例がなく今まで見たこともない画期的な効果のあるシステムが突然出現するなんてことはあり得ません」

 「できることは、実績と事実を細かく見直して、ここをチューンアップしてみれば少しプラスになるかもしれないというポイントを見つけ出し、少しずつ改良を続けていくしかないのです。それがひいては全ての成長につながります」

 安全性の追求に対して妥協することのない理夫社長自身が、“最も注文の多いライダー”。「これができれば、次はこれもできるはず」と課題は尽きることがない。それに応える形で、社員のチャレンジ精神も養われ、前へ前へと行く推進力が生まれるのであろう。

(おわり)

[日経テクノロジーオンライン2016年12月21日の記事を再構成]

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