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自身が最も注文の多いライダー、「Arai」社長に聞く ヘルメットの科学(5) 北岡哲子日本文理大学特任教授

日経テクノロジーオンライン

2017/3/13

アライヘルメットの母体となった「新井広武商店」の社屋。1950年に設立(写真:アライヘルメット)

 これまで4回に渡ってお伝えした連載「ヘルメットの科学」の最終回は、アライヘルメットの新井理夫社長へのインタビューから特に印象に残った話題を紹介する。

 筆者がインタビューに伺った日の朝、悲惨な自動車事故を多くのテレビ局や新聞が報道した。二輪車と四輪車が交差点で衝突し、四輪車に乗っていた全員が焼死したという、あまり例を見ない重大事故だった。

 この悲劇的なニュースを受け、新井社長は「二輪車に乗っていて一番難しいことは止まること。きちんと止まれるようトレーニングすることが大事」と、朝礼で社員に訓示した。

 「二輪車は、四輪と違って体の周りに防護してくれるフレームやパネルがないから、二輪車ライダーは特に危険を事前に察知し、避けられるようにしなければなりません。リスクを予知可能になるには、高い感性や本能的なカンが必要になります。二輪車は真剣に乗れば乗るほどそれらの能力を鋭く磨いていくことができる乗り物であり、そのことがリスクコントロールを可能にするのです」。これが、新井社長の持論である。

 「いつの日かリスク回避能力が低下し、もうこれ以上は危険だと感性で察知したら、バイク乗りを即やめるつもりです。ただ、バイクは降りても、リスクコントロールのアシストのためのヘルメットは、可能な限り社会に提供し続けたいと思っています」

 「メットの理想形を誰よりも理解しているのはバイク乗りだし、その存在を誰よりも自分が求めているからです。そしてたとえ1人でも、アライでなければダメだというライダーがいらっしゃる限り、挑戦を止めることはありません。挑戦を諦めない限り、自分が消えてもアライのヘルメットは生き続けますから」

 朝礼でのリスクコントロールについての訓示も、二輪車ライフに限らず生きること全般に広がる。どこにリスクが潜んでいるか、次の瞬間に何が起こるか分からないのは、バイクも人生も同じだ。大切なのは、何かが起きたとき、迅速に対処できる能力を身に付けておくこと。すなわち知恵、スキル、直感、感性が磨かれるような生き方をしなければならないことを、ヘルメット造りを通して社会に示しているように思えた。

■規格は誰を守るものか

 「ヘルメット造りで重要な要件の1つに、国の規格があります。スポーツでいえばルールです。各国によってその基準は異なるのですが、規格に適合したヘルメットを造ることは、逆にメーカーを守ることにもなるのです。もし、ライダーが事故に遭って最悪の結果になっても、かぶっていたヘルメットが規格に適合したものであれば、メーカーは責任を問われません」

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