味噌・納豆・酢 伝統発酵食の健康効果と食べ方のコツ
ここまで分かった 発酵食品(3)
前回「乳酸菌は生きて腸に届く?ビフィズス菌との違いは?」の記事で、菌数のピークとおいしさのピークが一致する発酵食品の代表例として「ヨーグルト」や「納豆」、菌数のピークが過ぎたあとに熟成期間をおいたほうがおいしくなる発酵食品の例として「味噌」を挙げた。今回はこの味噌をはじめ、納豆、酢など、「細菌系の発酵食品」の健康効果[注1]について知っておきたい情報をお届けしよう。
[注1]発酵食品には、細菌が働くもの、カビが働くもの、酵母が働くものの大きく3種類ある。詳しくは「ヨーグルトと納豆 微生物が生きてる発酵食品の魅力」を参照。
味噌汁を毎日飲む人は胃がんの死亡率が低い
まず味噌についてだが、味噌は、製品として完成した時点で菌数のピークを過ぎているためヨーグルトほどは生きた乳酸菌は期待できないものの、発酵によって生まれたその他の成分から、さまざまな健康効果が期待できるという。
「発酵によって生じたリン脂質の一種のレシチンは高血圧の予防に効果があり、リノール酸には心臓や脳髄中の毛細血管を丈夫にする働きがあることが分かっています」(小泉さん)
また、味噌には抗がん作用も期待されている。「1981年に国立がんセンター研究所(当時)の平山雄博士によって発表された『味噌汁を飲む頻度と胃がんの死亡率との関係』の調査結果によると、味噌汁を飲む人と飲まない人を比べると、とくに男性では全く飲まない人の胃がん死亡率は、毎日飲む人に比べて約50%も高い。心筋梗塞、肝硬変などの場合にも同じような傾向がみられます[注2]」(小泉さん)
このほかにも、味噌には、コレステロールの抑制、老化防止、美肌効果、消化促進効果などがあることが報告されているという。
「味噌はたんぱく質が豊富で、米味噌では13%、麦味噌では10%、豆味噌では17%ほど含まれ、しかも、発酵により消化吸収されやすい形になっています。日本人が長い間、ごはんと味噌汁という質素な食事でも健康でいられたのは味噌のおかげ」と小泉さん。
「最近、塩分を気にして味噌汁を敬遠する人が少なくないですが、1日1杯は味噌汁を飲むように心がけたいものです。味噌から生きた乳酸菌を得たい場合は、味噌汁を煮立てないようにするといいでしょう」(小泉さん)
[注2]Takeshi Hirayama. Relationship of soybean paste soup intake to gastric cancer risk. Nutrition and Cancer. 1982;3:223-233.
現代人に欠かせない納豆のすごいパワー
続いては納豆だ。第1回「ヨーグルトと納豆 微生物が生きてる発酵食品の魅力」で、納豆は生きた菌を生食できる点で高い整腸作用が期待できると述べた。それは、納豆菌が腸内で悪玉菌の繁殖を防ぐからだ。しかし、納豆の健康効果は整腸作用だけではない。
「蒸した大豆に納豆菌を繁殖させた納豆は、元の蒸し大豆よりもビタミンB2が10倍も増えています。また、納豆はビタミンB1、B6などその他のビタミンB群も豊富です」(小泉さん)。ビタミンB群は体内で主に補酵素として働き、エネルギーの代謝をサポートする。つまり、ダイエットや皮膚の新陳代謝に欠かせない栄養素といえる。
また、「納豆には2つの重要な物質が含まれています。1つはナットウキナーゼ。これは納豆に特有の酵素で血栓を溶解する働きがあります。もう1つはアンジオテンシン変換酵素阻害物質。こちらは血圧上昇作用のあるアンジオテンシン変換酵素の働きを妨げる物質で、血圧降下作用を持っています」(小泉さん)
さらに、納豆はあるビタミンが豊富な点も見逃せない。
ビタミンKだ。「ビタミンKは骨を形成するたんぱく質であるオステオカルシンをつくるために必要で、骨の健康に欠かせません」(小泉さん)
納豆は味噌と同様にたんぱく質が豊富なため、古くから日本人のたんぱく質供給源としての役割を担ってきたと小泉さん。しかし、生活習慣病や骨粗しょう症の予防に役立つ成分も満載なので、現代人こそとりたい発酵食品ナンバーワンといえるかもしれない。
単なる調味料とはいえない健康効果を持つ酢
前回「乳酸菌は生きて腸に届く?ビフィズス菌との違いは?」の記事で、乳酸菌やビフィズス菌がつくる「酢酸」について述べたが、酢酸を含む発酵食品には「酢」もある。酢の酢酸は酒に酢酸菌が繁殖してできたものだ。
酢の酸っぱさのもとは酢酸やクエン酸をはじめとする多種類の有機酸だが、「昔から伝えられてきた酢の健康効果が、科学的に検証されてきている」と小泉さん。エビデンスがある健康効果だけでも、ざっと次のようなものがあるという。
【酢の健康効果】
●疲労回復 糖と一緒にとると、失われたエネルギーが素早く補充でき、疲労物質を減らす。
●食欲増進 酸味と香りが食べたい気分を刺激し、唾液の分泌を盛んにする。
●便秘解消 消化液の分泌をよくし、腸のぜん動を活発にする。
●骨粗しょう症予防 食品からカルシウムを溶出させ、骨への吸収を高める。
●血圧降下 血圧を上昇させるホルモンの働きをセーブする。
●血糖値上昇抑制 糖の分解を穏やかにし、膵臓(すいぞう)の負担を軽減する。
●ビタミンCの破壊防止 酸素や食品中の酵素に作用して分解を防ぐ。
酢にはこれだけの健康効果があり、「これらの効果は1日大さじ1杯(15ミリリットル)とれば得られるという。それならば、とらない手はないだろう。
「酢の消費は『西高東低』です。西日本は東日本に比べて暑いために、さっぱりした味を好み、食品の保存性という観点からも酢を大切にする食文化が育まれたのでしょう。反対に、食塩は『東高西低』です。酢をよく利用する地方は、塩分摂取が抑えられているともいえます」(小泉さん)
酢は単なる調味料とはいえないほどの健康効果があるので、積極的に活用してほしいと小泉さん。次回は、塩こうじやカツオ節など、日本の食卓に欠かせない「カビ系の発酵食品」について解説しよう。
東京農業大学名誉教授。1951年生まれ。1973年東京農業大学農学部醸造学科卒業。1997年東京農業大学教授に就任。専門は発酵食品学。発酵食品の科学的な成分変化と機能性に関する研究を行ってきた。著書に「NHKあさイチ 驚きの効果 ハチミツ&酢のパワー (生活実用シリーズ)」(NHK出版)、「元気がほしいカラダには酢が効く!―酢の健康パワーと痩身効果」(学習研究社)などがある。
(ライター 村山真由美)
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