歯磨き後のうがいは少なめに 「歯ケア」6つの新常識
30~40代のうちに身に付けたい歯の健康習慣(2)
前回「やるとやらないで大きな差 プロによる歯の定期メンテ」の記事でもお伝えした通り、歯のメンテナンスは、単にお口の中の健康だけでなく、様々な病気のリスクを下げるためにも重要だ。歯科医院で行う定期的なお口のチェックやメンテナンスとともに不可欠なのが、家でのケア。今回は、ホームケアの上手なやり方について日吉歯科診療所汐留(東京・港)の熊谷直大院長に教えてもらった。
家では何をすればいい?
歯科医院でのメンテナンスと、歯磨きなどのホームケアは、お口の健康を守るための車の両輪だ。特にホームケアは毎日のこと。歯を磨かない人はいないが、"自己流"では磨き残しや力の入れ過ぎで、かえって歯や歯ぐきを傷めるなどの弊害が起こることもある。
「やるとやらないで大きな差 プロによる歯の定期メンテ」の記事で説明したように、歯並びや磨きグセなどはその人その人で異なる。だからこそ、まずは自分に合ったメンテナンスの仕方をプロに教わることから始めたい。
その前に、まずは今のやり方が正しいのか、Q&Aで見てみよう。
【Q】ブラッシングはその時の気分で好きなところから磨いていい?→×歯磨きの順番を決めるのがコツ
「ブラッシングの際は、磨き残しがないように、歯磨きの順番を決めておくのがコツです。例えば、図1のように内側の上の左の奥歯から右の奥歯、下の右の奥歯から左の奥歯。次に外側の上の左の奥歯から右の奥歯、下の右の奥歯から左の奥歯。最後に奥歯のかみ合わせの部分、といった順番を決めることが大切。磨く際は1本ずつ丁寧に磨くように心がけてください」と熊谷院長。
磨きにくいところは、ポイントブラシといわれる毛束が1つのブラシを使い、鏡を見ながら奥歯の奥や、歯と歯の間、歯と歯ぐきの間をなぞるように磨くといい。
磨けているかどうかを家でチェックしたいなら、ドラッグストアなどで売っている染色液で確認する手もある。
【Q】歯磨き後のうがいは少ない方がいい?→○お口の中にフッ素を残すことが大切
基本的に歯磨きのタイミングは食後と就寝前がいい。食後がいいのは食べカスを取り去り、細菌の繁殖を抑えられるからだ。さらに、「歯磨きの際は、フッ化物(フッ素)が入った歯磨き粉を使い、うがいは少なめにしてお口の中にフッ化物を残すほうが、虫歯予防に効果的」と熊谷院長は言う。
食事をすると、食べ物を取り込んだ虫歯菌が出す酸によって口の中が酸性に傾き、歯の表面のミネラルが溶け出しやすい状態になる。一方、食べ物をかみ始めると、唾液中の重炭酸塩の量が増え、これによって口の中が中和され、溶け出したミネラルが歯の表面に戻る。「溶けたミネラルが歯の表面に戻るときに、歯の表面にフッ化物があると、歯の修復が効果的に進み、硬くて溶け出しにくい構造になるのです」(熊谷院長)
特にうがいを少なめにするといいのは就寝前だ。寝ている間は唾液の分泌量が落ちるため、口の中の細菌が増殖しやすい。一方で寝ている間は、歯磨きによって歯の表面に付けたフッ化物がその後の食事などで失われることがなく、お口の中にフッ化物を長く留め置くチャンスでもある。就寝前はしっかりとブラッシングした後、うがいを少なくしてフッ化物を歯の表面に残すとよい。「味の強くないフッ化物入り歯磨き粉がおすすめ。味が強いとたくさんうがいをして、フッ化物がすべて洗面台に行ってしまうからです」(熊谷院長)
【Q】デンタルフロスは使った方がいい?→○歯ブラシだけだと約40%も歯垢(しこう)が残る!
実は歯ブラシによるブラッシングだけでは約40%も歯垢が残るというデータもある[注1]。同じデータでは、ブラッシングにフロスを併用すると約85%、ブラッシングに歯間ブラシを併用すると約95%の歯垢が除去できた。
「歯と歯の間は歯垢がたまりやすく、歯周病や虫歯ができやすい部位でもあるが、歯ブラシは歯間部には届かない」(熊谷院長)ためだ。だからこそ、デンタルフロスや歯間ブラシといった歯間清掃用具を併用することが重要というわけだ。
フロスは、1日1回、全ての歯間部を磨くことが目標。1日に2回歯磨きするなら、最初に上の歯、次に下の歯というように分ければ負担感が減る。
フロスを使う時のコツは、ゆっくりと斜めにフロスを動かしながら歯間に通すこと。力を入れて一気に通すと、勢い余って歯ぐきを傷つける恐れがあるからだ。片方の歯の側面について3~4往復させる。
糸巻きタイプや柄付きのタイプなど、様々な種類があるが、初心者にも使いやすいのはY字型の柄付きタイプ。奥歯の歯間部や、舌側にもフロスをしっかり入れることができる。水で洗えば何度も使える。
[注1]日本歯周病学会誌、1975;17:258-64.
【Q】必ず歯間ブラシを使った方がいい?→×歯間部のすき間が小さい時は無理に使わなくていい
歯間ブラシを使うのは、歯間部のすき間が大きい時。まだすき間がない、あるいはすき間が小さいのに無理に歯間ブラシを使うと、歯ぐきを傷めてしまう。また、すき間の大きさに合わせて適切な歯間ブラシのサイズを選ぶことも大切。無理に大きなものを使わないようにし、まずは小さいサイズから試そう。
歯間ブラシを使う場合には、歯間部にブラシを挿入したら、2~3ミリメートルのストロークで2~3回ゆっくり動かす。歯の外側と内側の両方から行うといい。奥歯はL字タイプが使いやすい。
熊谷院長は、「適切な歯間清掃用具の使い方、選び方なども、まずは歯科医院で教わるのがいい」と話す。
【Q】たばこを吸うと歯周病になりやすい?→○喫煙は歯周病や虫歯のリスクを上げる
「喫煙は、ヤニで歯が汚くなるだけでなく、歯周病や虫歯のリスクも上げます。口腔・咽頭がんのリスクも、非喫煙者の3倍という報告も。喫煙者本人だけでなく、受動喫煙した人にも影響があります」と熊谷院長は警鐘を鳴らす。さらに喫煙は、歯ぐきのメラニン色素の沈着や、口臭なども起こす。
なぜこうしたことが起きるかについては様々な原因が考えられるが、一つは喫煙すると唾液の分泌が減ることだ。これにより口の中をきれいに保つ作用が弱くなる。また、歯にヤニが付くと、そこに歯垢が付着しやすくなるため、歯周病や虫歯が助長される。また、ニコチンや一酸化炭素の影響で血行が悪くなることや、喫煙による免疫力の低下も歯周病が起こりやすくなる原因と考えられる。
【Q】よくかむと歯周病や虫歯を防げる?→△よくかむと、唾液の分泌量が増え、口の中がきれいに保たれやすくなる
よくかんでいるだけで歯周病や虫歯を必ず防げるわけではないが、防ぎやすくはなる。「よくかむと、唾液の分泌量が増え、口の中がきれいに保たれるからです。また、歯のエナメル質にできた小さな傷も、唾液によって修復されやすくなります」と熊谷院長。
よくかむには、食事の際にかみごたえのある食材を選んだり、ひと口当たりのかむ回数を決めるといい。
また、「食習慣で留意すべきなのは、間食を頻繁にしないこと」と熊谷院長。食べ物を食べるごとに口の中は酸性に傾く。唾液の力でそれを徐々に中性にしているが、頻繁に間食すると唾液が中性にするのが間に合わず、歯が溶けやすくなるからだ(図2参照)。
お口の健康を保つには、何より生活習慣が大切だ。最初は面倒に感じる丁寧なブラッシングやフロスも、一度正しいやり方を習得すれば、その気持ちよさにやめられなくなるはずだ。将来の全身の健康のためにも、しっかりとホームケアを行いたい。
【おわび】2017年3月21日公開の本記事にあった「食後すぐの歯磨き、実はNG」に関し、日本小児歯科学会等の専門家による最新の見解では定説とはされていませんでした。該当部分を訂正し、見出しを修正するとともに、おわび申し上げます。
日吉歯科診療所汐留 所長。2005年新潟大学歯学部卒業、2006年タフツ大学歯科大学院審美歯科専攻課程修了、2009年タフツ大学歯科大学院歯科補綴専門課程修了。米国歯科補綴専門医。2009年から日吉歯科診療所 歯科補綴専門医、2010年タフツ大学歯科大学院修士課程修了、2010年~15年タフツ大学兼任講師、2012年米国歯科補綴ボード認定専門医、2013年から新潟大学非常勤講師、2015年~2016年東京工業大学非常勤講師、2016年から現職。
(ライター 武田京子)
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