マネーコラム

カリスマの直言

NYダウは「3万ドル」を目指す(澤上篤人)

日経マネー

2017/3/20

PIXTA

日経マネー

澤上篤人氏(撮影:大沼正彦)

澤上篤人(以下、澤):ニューヨーク市場でダウ工業株30種平均が1月末に2万ドルの大台を超えた。それをどう判断するか、市場関係者の間で、色々な意見が出ている。トランプ大統領が何を言い出すか知れないから、大台乗せ達成で売っておこうという考え方もある。逆に「それいけ、どんどん」で高値追いの投資家もいる。

 われわれ長期投資家は、全く別の視点でマイペース投資を続けるだけのこと。今回は、そのあたりを草刈と話し合ってみよう。

■1000ドル超えが目標の時代もあった

澤:1950年代そして「黄金の60年代」といわれたあの頃は米国産業界がまばゆいほどに光り輝いていた。しかし、66年を境にダウは700ドル前後から1000ドル超を行ったり来たりするボックス相場に陥った。

草刈貴弘(以下、草):60年代後半からは、戦後の高成長時代に比べて成長率が低下したようですね。それにもかかわらず賃金上昇が続き、インフレのマグマをためていた。そこに為替の変動相場制導入やオイル・ショックが重なって米国経済が地盤沈下を起こし始めたわけですね。

澤:そのボックス相場が70年代に入ってもずっと続き、79年には有力誌ビジネスウィークが「株式の死」と題した大特集を組むほど米国の株価は長期低迷した。その頃はダウ平均の1000ドルちょっとが株価上昇の限界、とあちこちでいわれたものだ。

草:これはよく出てくる話ですね。ただし株式への悲観論の底打ち合図として注目されます。リスクオフのムードが強かった2012年にも「株式の死亡宣告書を書くべき時が来た」と著名投資家がコメントして話題となりました。

澤:その通り。実際に1982年から突如ダウは上昇し始めた。長いこと低迷していた反動もあってか、あれよあれよという間に2000ドルを超え4000ドル、8000ドルを突破していった。そして2000年には1万1722ドルを付けるまでに上昇した。17年余りで、何と約15倍の上昇である。株式の死とかいわれていた80年代からは誰も想像し得なかった上昇ぶりだ。

 その後、IT(情報技術)バブル崩壊で高値から37%も下げ、当時もまた1万ドルの壁とかいわれたものだ。それが、再び上昇に転じ2007年には1万4164ドルの高値を付けた。それが、08年のリーマン・ショックで叩き売られた。ショック後の底値で見ると何と54%もの急落である。そこから約9年、今年になってついに2万ドル突破となったわけだ。

草:米国の株式市場は、ITバブルや住宅ローンバブルといったものが起こっても、次の上昇でしっかりと前回のピークを越えてくるところがすごいですね。日本は残念ながらいまだに過去の栄光です。

澤:この30年間、米国経済は病んでいるとか産業が空洞化しているとか、さんざんいわれてきた。それでも平均株価はジリジリと上昇していったのだ。いずれ将来、3万ドル超えだってあり得よう。

さわかみファンドCIOの草刈貴弘氏(左)

■長期投資家はずっとプラスだった

澤:長々とダウの歴史的な推移を振り返ったのには理由がある。自分は長期投資家として46年間、世界の運用マーケットで生きてきて、この歴史のほとんどを実体験してきた。

 その上で、あえて主張したいことが幾つかある。まず、1960年代に始まるボックス相場でダウが700ドルから1000ドルの間を行ったり来たりした16年半においても、個別企業を選別するわれわれ長期投資家は、そこそこの運用成績を上げていた。

草:市場全体はボックスでも個別企業は違いますからね。

澤:あの当時、名門といわれた米国企業が次々と消えていった。最後の頃には、IBMですらも経営危機に襲われたものだ。一方、インテル、マイクロソフト、アップル、シスコシステムズ、オラクル、デルといった新興企業がグイグイとのし上がっていった。

草:長期的な利益成長の可能性を丁寧にリサーチしていれば、平均株価の低迷など関係ないということですね。新たに勃興する企業が、マクロとは関係なく成長していくわけですから。

澤:82年8月から米国経済の復活が公式に宣言された92年8月までに、ダウは4.4倍となっている。その間、米国経済は双子の赤字やら失業の増加やらで、とても株式投資なんて積極的にできる状況になかった。それでも結果としては4.4倍の上昇だ。

 一方、92年以降、米国の景気が好転してから00年1月までのダウの上昇は3.3倍だ。多くの投資家は景気回復を見て買いを考えるが、それでは出遅れだということを見事に実証してくれた。

草:確かに景気回復宣言より前の方が成長しているとは驚きですね。その間にはブラックマンデーもあった。皆が悲観している時ほどチャンスがあるわけですね。

澤:われわれ長期投資家は株価低迷時も逃げることなく、しっかり選別投資していた。さっきの例だと4.4倍×3.3倍で15倍となった株価上昇局面をフルに享受した。ずっと買っていたから、とんでもない追い風を背に運用成績を一気に伸ばすことができた。

■さわかみファンドに当てはめてみよう

 設定来から17年5カ月がたつ「さわかみファンド」は日本経済が長期低迷とジリ貧に喘ぐ中、年率複利で4.7%の成績を残している。日経平均株価などインデックスに対しては、2倍以上の差をつけている。

 振り返れば、ちょうどニューヨーク市場が長期低滞し、ボックス相場を続けていた頃とそっくりである。この教訓は、さわかみファンドにピッタリと当てはまる。今後も、日本経済や株価が低迷したところで、年率4.7%ぐらいの成績は出るだろう。もし、92年以降の米国のように、どこかで景気や株価が大きく上向いてきたら、さわかみファンドの成長は一気に跳ね上がるはずだ。

草:セミナーなどでよく質問されますが、日本経済は大丈夫ですかとか、日本企業ってどうなんですか、と聞かれます。もちろん楽観は禁物ですが、これから成長させる余地はまだまだあるはず。企業だって日本を飛び出して世界で成長を続ける企業が山ほどある。悲観の時に投資をしておけば、追い風が吹いた時にものすごく大きなリターンを得られる。

澤:長期投資って、本当にいいものだよね。

澤上篤人(さわかみ・あつと)
 1973年ジュネーブ大学付属国際問題研究所国際経済学修士課程履修。ピクテ・ジャパン代表取締役を務めた後、96年あえてサラリーマン世帯を顧客対象とする、さわかみ投資顧問(現さわかみ投信)を設立。

草刈貴弘(くさかり・まさひろ)
 2008年入社。ファンドマネジャーを経て13年から最高投資責任者(CIO)。

[日経マネー2017年4月号の記事を再構成]

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