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スーダンの「恋人たちの聖地」 奇岩・タカ山

旅する写真家のひとり言(2) 渋谷敦志

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NIKKEI STYLE

世界各地を飛び歩く写真家の渋谷敦志氏。ハードな取材現場の周辺で、ふと目に留まった風景や人々、心に浮かんだ思いなどを写真とともに伝えていただきます。2回目の旅先は14年前、「世界最悪の人道危機」といわれた紛争の舞台となり、現在も緊張が続くスーダンです。

◇   ◇   ◇

米国に新しい大統領が誕生したとき、ぼくはアフリカのスーダンにいた。「アメリカ・ファースト」。就任早々、大統領はテロ対策の一環として、すべての難民の受け入れを停止するほか、アフリカと中東の特定7カ国の市民の米国の入国を禁止する大統領令を発表した。その7カ国にはスーダンも含まれていた。

「ムスリム・バン(イスラム教徒の入国禁止)だ」と抗議の声をあげる人々の姿を英BBCが報じていた。そのライブニュースを、ある意味で米国から最も遠い場所の一つといっていいダルフールの町の宿泊先で、ババリアというノンアルコールビールを飲みながら凝視していた。

14年前、「世界最悪の人道危機」といわれた紛争の舞台となったダルフール。今でも国連とアフリカ連合(AU)による停戦監視団(UNAMID)が大規模な平和維持活動を展開していることはあまり知られていない。

この地を駆け足ながら見て回り、生存していくのに日々必死な人たちの現実を目の当たりにすると、「米国という強大な国家にとって、この国が一体どれほどの脅威になるのだろうか」と思わずにはいられなかった。

こんな時代だからこそ、ダルフールの大地から、こう叫びたい。「ヒューマニティー・ファースト!」

ぼくはこうしていつも、カメラを介して現実の世界と相対しながら、自分と世界との距離を測っている。そして、心の中の世界を見つめるアングルが知らぬ間にいびつになっていることに気づく。世界はどの角度から見るかで全然違った姿を見せる、と最初に体で知ったのがアフリカだった。今もその延長上の旅を続けている。

緊迫のダルフールとは違うスーダン

ダルフールから首都のハルツームに一度戻った。スーダンで居候させてもらっている友人夫婦と、週末を利用して、カッサラまで1泊2日の小旅行をすることにした。撮影で海外に行くと観光なんてあまりしないけれど、ダルフールではなんだかんだ緊張していたので気分転換したかったし、ダルフールとは違うスーダンの一面にも興味があった。

早朝5時半にハルツームを車で出発、ガダーレフという大穀倉地帯を抜け、ひた走ること9時間、特徴的な形をした山が視界に入ってきた。そこがカッサラだ。

エリトリアとの国境近くにあるカッサラは、スーダン人には新婚旅行で行く町として有名で、町のシンボルである奇岩「タカ山」のふもとにあるカフェテリアでデートするのが定番なのだという。友人夫婦は結婚してまだそれほどたっていなかったので、タカ山で2人の蜜月写真を撮ってあげるのもいいと思い、ホテルに荷物を下ろし、さっそく「タカ山」に向かった。

「ニーハオ」とあちこちで声をかけられるのはハルツームでも同じだが、カメラを首に下げて歩いていると、「なぜ私の写真を撮らないんだ?」とやや不満そうな顔をする人がいるのは意外だった。一般的にスーダンは写真撮影には厳しいのだが、カッサラはどこか異国的な雰囲気があってほっとする。

タカ山のにぎわいは想像以上だった。友人同士や家族連れが多かったが、その中で新婚のカップルは見ていてそうとわかるものだ。手をつなぎ、肩を抱き合いながら自撮りするカップルもあった。「ハルツームでも見ない。時代が変わったのか」と友人が驚くほどのウキウキした空気がタカ山のふもとを覆っていた。カッサラの町を見渡せるところで腰を下ろし、コーラを飲みながら、砂漠のかなたに沈む夕日を眺めた。明後日から再び、あの夕日の向こうに行くのだなと、と気持ちを引き締めた。

翌日の夕日は、カッサラからの復路、車窓から眺めた。どこまでも続くアフリカの大地を車で移動しながら、窓の外の流れ行く風景を見る時間が好きだ。その時、いつも決まって同じ自問をしている。「あれ、そもそもこの旅は何が始まりで、なぜ今も続けてるんだっけ?」

「エチオピアで一番大変なところに行かせて」

初めてアフリカに来たのは、大学を卒業してフリーで写真家を始めた1999年だ。念願だった国境なき医師団(MSF)の仕事でエチオピアに行く機会に恵まれたのだが、これがとにかく大変だった。

エチオピアでMSFはいくつものプロジェクトを実施していたが、そのどれを見たいのかとフランス人の現地代表に聞かれたので、「一番大変なところに行かせて」とリクエストしたら、エチオピアは山がいいという。「タフな旅になるが、とても美しいところだ。同行はできないが、最後の晩さんをおごらせてもらう。少しは悪いと思っているんだよ」と、なにやら意味深長なことを言う。レストランでミートスパゲティをほおばっていたときは、まだ何のことかわかっていなかった。

岩盤をくりぬいてつくった教会群が世界遺産にもなっているラリベラから、車で標高2500メートルくらいの地点まで移動した。「アビシニアへようこそ」。現地の案内人と合流した。そこからは徒歩で、5日間あまりの行程だという。

装備は最低限で、カッパと傘、ビスケット、あとはキヤノンの一眼レフカメラとフィルムが100本ほど。完全に準備不足だった。気温は日中でも10度前後。雨がしとしと降り続いた。初日から疲労困ぱいで、写真を撮る余裕もなくなり、10分に1回くらいの割合で、もういい、フィルム半分捨てたい、ラーメン食べたいなど誰も聞いてくれない泣き言をつぶやきながら、ただ歩いた。

山道は崩れ落ち、雨が急流となって行く手を阻む。流されれば、間違いなく死ぬ。荷物やカメラを現地の人に預け、ぼくはドンキー(ロバ)にまたがった。「ドンキーはけっして落ちない」という。ほんまか、とぼやきながらドンキーに命を預けて川を渡る。

「こんなことして、いったいどこに行くというのだろう」。そんな根本的な疑問が湧き始めた3日目に、ようやく最初の目的地の村に到着した。そこには、布をまとった人々が何百人も、雨の中、体を震わせながら、ぼくたちの到着を待っていた。彼らに食料を配り、子どもたちに麻疹のワクチンを接種するのがミッションだったのだ。

どこか凜とした王のたたずまい

人々は飢えていた。しかし、ファインダー越しに見る人々はどこか凜(りん)とした王のたたずまいだった。厳しい自然を生き抜いてきた人たちの強烈な生命力の発露に触れた。「生きたい、生きたい」、そんな肉感を伴った声を聞きながら、ぼくはひたすらにシャッターを切った。その後も食事も睡眠もなかったが、疲れを忘れて撮影に没入した。

あれから18年。ぼくはまだアフリカを旅している。もう20回以上だが、空港の出入国は今も緊張する。バゲージはロストする。車を止められ罰金という名の賄賂をせしめられる。四輪駆動車もスタックするほどの悪路くらいは問題じゃない。銃を向けられ凍りついたこと、スパイ嫌疑で拘束されたこと、食中毒で死にかけたこと、強盗で機材全てを強奪されたことを思えば。

アフリカを旅することは大抵疲れるし、うんざりすることの繰り返しだ。それでも、ごくまれにだけど、そんな苦労の経験が一気に報われるような瞬間に出合うことがある。自分の生命力が躍動するようなあの感覚は生きる糧になる。そんな感覚をアフリカは今も与えてくれるから、ぼくはこりずにまた帰ってくる。「こんなことして、いったいどこに行くというのだろう」という自問を繰り返しながら。

渋谷敦志(しぶや・あつし)
写真家。1975年大阪府生まれ。立命館大学在学中に1年間、ブラジル・サンパウロの法律事務所で働きながら写真を本格的に撮り始める。2002年、London College of Printing(現London College of Communication, University of the Arts London)卒業。著書に『回帰するブラジル』(瀬戸内人)など
・個人サイト http://www.shibuyaatsushi.com/

前回掲載「『地雷を踏んだらサヨウナラ』の地、カンボジアの今」では、写真家を志すきっかけとなった場所、カンボジアでの出会いと思い出を語ってもらいました。

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