アート&レビュー

エンタウオッチング

広瀬すず 伝えることへの覚悟でつかんだ主演女優の座

日経エンタテインメント!

2017/3/21

 今年の日本アカデミー賞では優秀主演女優賞(『ちはやふる-上の句-』)と優秀助演女優賞(『怒り』)をW受賞。3月11日には主演映画『チア☆ダン~女子高生がチアダンスで全米制覇しちゃったホントの話~』が公開と、広瀬すずの女優としての存在感が急速に増している。

(写真:アライテツヤ)

 女優としての転機の1つは、初の主演作『学校のカイダン』(2015年1月期)だ。それまで、演技では代表作と呼べる作品がなかった彼女をなぜ抜てきしたのか。『学校のカイダン』でプロデューサーを務めた、日本テレビの福井雄太氏に聞いた。

 「『学校のカイダン』は、スクールカーストの最下層にいる主人公の春菜ツバメが、思いを言葉にして伝えることで殻を破り、階段を1歩ずつ上がっていく物語です。ツバメと一緒に女優としての階段を駆け上がってくれる方と仕事をしたいと考えていました。たくさんの女優さんに会ったんですが、広瀬さんにお願いした一番の決め手は、『お芝居で何をしたいか』と質問したところ、『私は伝えたいんです』と答えたことです。『誰かの心に届いたら素敵なことだと思います』と。

 手練手管でうまい展開のドラマを作っても、見てくださる方は頭がいいし、感受性豊かなので伝わらない。僕は、本当に伝えたいことをダイレクトに伝えなければと思っているんですね。広瀬さんの言葉を聞いて、一緒に戦っていける人だと感じたんです」

 『学校のカイダン』では、各回のテーマがツバメのスピーチに込められていた。そこで福井氏は、撮影前に広瀬と議論の時間を設けた。

 「彼女は、是枝裕和監督の『海街diary』を終えて(15年6月公開だが撮影は14年)、『学校のカイダン』の撮影に入りました。『海街diary』では、是枝監督が何を求めているかと考える演技だったのではと思います。『学校のカイダン』では、『あなたがどう伝えたいかを考えてほしい』と、各話で伝えたいメッセージを彼女に話し、それについて彼女が思うことを返してもらいました。彼女は素直で一生懸命で、僕も楽しくなって、スタジオの廊下でずっと話し込んでいました(笑)。

 スピーチのシーンは、毎回長ゼリフで大変だったと思うんですが、彼女は負けず嫌いなので全部覚えてきました。負けず嫌いというのは、負けないという覚悟だと思うんですね。主人公という、テーマを背負った役を演じることの覚悟というか。第1話のスピーチを聞いたとき、度肝を抜かれたんですよ。この人は覚悟を持ったなと。彼女、終わった後、『どんなお芝居したか、覚えてないんです』といったんです。たぶん、無茶苦茶になるくらいにエネルギーを吐き出していたんですよね。理屈じゃなく響くような。広瀬すずが主人公だと、芝居で共演者やスタッフの心をつかんだんです。

 最後の頃は、別人でしたね。覚悟ができ、背負い、どうすれば伝わるかをずっと考え、伝えることの喜びを知り、主人公でいることに何の迷いもない。最初、集団の中の1人だった子が、最終的には何十人いても目がいく存在になっていました」

■1年で急激な成長を遂げる

 福井氏は、16年1月期のドラマ『怪盗 山猫』でもヒロインに広瀬すずを起用した。

 「1回で終わらせたくないなと思っていたんです。『山猫』の撮影の際は、『カイダン』のようには話し込んだりはしませんでした。台本にこちら側の思いを込めていれば、受け取って外さない演技をしてくれる。何か課題を与えたいのに、悔しいかな、僕が考えているものより、いいものが出てくる(笑)。

 彼女の良さは、おごらず、1つに一生懸命に向かっていくところ。違う役を演じるたびに吸収して、勉強することが無限にあることを分かっている。彼女が伝えたいと思い続ける限り、お客さんにいろいろなものを届ける女優さんになっていくんじゃないかなと思います。その中の1本として、またご一緒できればと思っています」

(日経エンタテインメント! 羽田健治)

[日経エンタテインメント! 2017年3月号の記事を再構成]

アート&レビュー