待機児童ゼロ目標達成、また断念? いらだつ保護者
働く女性増加 「保育園」追いつかず
「費用は高くとも無認可保育園しか道はありません」。マザーネット(大阪市)の保活コンシェルジュが電話で切々と説く。受話器の向こうは育児休業から職場復帰を目指すワーキングマザーだ。地元自治体に入園申請を出したが、希望した認可保育園にすべて落ちて、相談してきた。
保育施設探しを手伝う保活コンシェルジュは同社が企業向けに実施しているサービスだ。社員の待機児童問題に悩む企業24社が契約を結び、職場復帰を目指す約300人を現在サポートしている。
今月は4月入園希望の結果が保護者に通知されるピーク。上田理恵子社長は「『落ちた』という連絡が毎日入る。1次申請で希望園に入れた比率は2割程度。保育園に入りやすくなっている実感はない」と説明する。
市民団体「保育園増やし隊@武蔵野」が2月5日に東京都武蔵野市で開いた交流会に約50人が集まった。ほとんどは保育園への入園希望がかなわず、不承諾通知を市から受け取った保護者らだ。「夫婦共働きで近所に手伝ってくれる親族もいない。それでも入れないなんて、どんな家庭なら入園できるのか」「2次申請しようにも空きがない。引っ越すしかないのか」と口々に不安と怒りをぶちまけた。
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保育園に入れない待機児童は16年4月で2万3553人。保育士の待遇改善や事業所内託児所の建設促進など国も新設・定員拡充をしているが、今年も東京や大阪などの都市部では選に漏れた保護者の嘆きが聞こえている。
「やれば、できます。要は、やるか、やらないかです」。13年4月に安倍晋三首相は会見でこう強調し、17年度末までに「待機児童ゼロを目指す」と宣言した。昨春までに受け入れ定員が約35万人増えているが、期限まで1年余りとなって目標達成断念とも取れる発言がなされ、失望感が広がっている。
1994年に国は緊急保育対策等5か年事業に着手。0~2歳児の受け皿を10万人分拡充するなどと表明した。保育園不足は当時から続く懸案だ。01年5月に首相に就任したばかりの小泉純一郎氏が国会の所信表明演説で「待機児童ゼロ作戦」に取り組むと明言。国が初めて「待機児童ゼロ」を目標に掲げた。
その後も「新待機児童ゼロ作戦」(08年)、待機児童ゼロ特命チームによる「待機児童解消『先取り』プロジェクト」(10年)、「待機児童解消加速化プラン」(13年)と政権は替われど、恒常的な政策課題となってきた。ただ01年以降、待機児童がゼロに近づいたことはない。
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仕事と子育てを両立しやすい職場環境をこの間に企業が整え、保育需要が予想以上に高まった面も確かにある。だが岡山県立大学元教授の増田雅暢さんは「長年実現できていない国や自治体の責任は重い」と手厳しい。
04~06年に内閣府参事官(少子化社会対策)を務め、国の少子化対策を担った。「少子化は深刻。待機児童をその年のうちにゼロにするくらいのスピード感がないと、子育て世代の行動を変えられない」と主張する。
「日本の中心で『保育園に入りたい』と叫ぶ」。希望の保育園に入れなかった保護者らは、こう題したイベントの準備を進めている。3月7日午後に衆議院第2議員会館に集合し、どうすれば保育園に入れる社会が実現するのかを議論する。
「事実上のギブアップ宣言ともとれる安倍首相の発言はとても残念」と主催するワーキングマザーは話す。怒れる保護者の声はいつ政府に届くのか。親にとっては育児を先送りする選択肢はない。
(編集委員 石塚由紀夫)
[日本経済新聞夕刊2017年2月27日付]
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