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N響が欧州ツアー 首席指揮者ヤルヴィ語る

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NIKKEI STYLE

NHK交響楽団は2~3月、ベルリンやウィーンなど6カ国7都市で欧州公演を催す。創立90周年を記念した4年ぶりの欧州ツアー。中でもロンドン公演は16年ぶりとなる。率いるのは2015年9月から首席指揮者を務めるパーヴォ・ヤルヴィ氏。N響を世界クラスのオーケストラと自負する同氏に、欧州公演の主要演目となるショスタコーヴィチとマーラーの交響曲について質問し、出発直前に同じ曲目を演奏した東京と横浜の2公演を聴いた。

欧州ツアーの試金石となった東京・横浜公演

N響が公演するのは、いずれも欧州各国の首都や主要都市の名門オーケストラが本拠地としているコンサートホールだ。2月28日のベルリン・フィルハーモニーから始まり、ルクセンブルク、パリを経てアムステルダムのコンセルトヘボウ、ロンドン、ウィーンのコンツェルトハウスと巡り、3月8日のケルン公演まで続く。特に16年ぶりのロンドンでは、名門のロンドン・フィルハーモニー管弦楽団とフィルハーモニア管弦楽団が本拠地とするロイヤル・フェスティバル・ホールで23年ぶりに演奏する。

欧州公演を率いるパーヴォ・ヤルヴィ氏は、旧ソ連エストニア共和国の首都タリンで世界的指揮者ネーメ・ヤルヴィ氏の長男として生まれた。現在は米国籍で54歳。フランクフルト放送交響楽団首席指揮者、パリ管弦楽団音楽監督、ドイツ・カンマーフィルハーモニー管弦楽団芸術監督を務めるなど、世界屈指の指揮者として高い評価を受けている。N響とはリヒャルト・シュトラウスの交響詩シリーズのCD録音も続けている。首席指揮者に就任して約1年半のタイミングで、これまでのN響での成果を欧州で試す。

演目にはパーヴォ・ヤルヴィ氏が得意とする作曲家の名前が並ぶ。「私のレパートリーの中心にある」と言うショスタコーヴィチ、マーラー、シベリウスの3人だ。いずれもパーヴォ氏がこれまで盛んにその作品を指揮してきた思い入れたっぷりの作曲家だが、「N響に非常に合っている」とも言う。今回の欧州公演ではショスタコーヴィチの「交響曲第10番ホ短調作品93」、マーラーの「交響曲第6番イ短調《悲劇的》」、バイオリン独奏にジャニーヌ・ヤンセン氏を迎えてシベリウスの「バイオリン協奏曲ニ短調作品47」を演奏する。このほかにモーツァルト「バイオリン協奏曲第3番ト長調K.216」、ロンドン公演のみ特別に演奏する武満徹の「弦楽のためのレクイエム」もある。「日本のオーケストラだから日本人の作品も1つ入れたいと思った」と同氏は武満作品を選んだ理由を話す。

パーヴォ氏の指揮でN響は出発に先立つ2月17、18日、NHKホール(東京・渋谷)でシベリウス「バイオリン協奏曲」とショスタコーヴィチ「交響曲第10番」、同22、23日には横浜みなとみらいホール(横浜市)で武満の「弦楽のためのレクイエム」とマーラー「交響曲第6番」をそれぞれ演奏した。二大演目のショスタコーヴィチとマーラーの交響曲を中心に、この事前2公演の様子から欧州ツアーの概要が浮かび上がってくる。本公演までにさらに磨きをかけると思われるが、少なくともショスタコーヴィチの「交響曲第10番」はパリやウィーンの聴衆を十分にうならせるだけの完成度にすでに達している印象だった。以下、パーヴォ氏のコメントを交えながら、2公演を振り返る。

「ショスタコーヴィチの交響曲はN響に合う」

――指揮者にとってショスタコーヴィチはどんな作曲家か。

「旧ソ連に生まれ育った私にとってショスタコーヴィチの音楽は重要なレパートリーだ。父(指揮者のネーメ・ヤルヴィ氏)はレニングラード音楽院で学び、指揮者のエフゲニー・ムラヴィンスキーに師事した。そのムラヴィンスキーはショスタコーヴィチの多くの作品を指揮し、『交響曲第5番』などを初演した人物だ。そんな縁があり、私自身も7、8歳の頃にショスタコーヴィチに会っている(ショスタコーヴィチはパーヴォ氏が12歳の1975年まで存命だった)。彼は私にとって生きている巨人だった」

――ショスタコーヴィチの「交響曲第10番」をN響と欧州で演奏する理由は何か。

「彼の交響曲は背景が分からないと理解が難しい。音楽的要素が強いので単に演奏するだけでもそれなりの形になる。だがショスタコーヴィチが生きた時代のスターリン政権がどんなものだったのか、ソ連とは何だったのか、戦争はどうだったか、それらを知らないと内容が分からなくなる。彼の音楽の中には様々なヒントも潜んでいる。彼自身やスターリン、様々な人々のこと、民族音楽を作品に取り入れている。このため旧ソ連で育った私がショスタコーヴィチの交響曲を日本のオーケストラと欧州で演奏するのは論理にかなうことだ。私は彼の音楽から聴きたい具体的なものをN響から引き出せると思っている。彼の交響曲はN響に合っているからだ。『第10番』は技術的には非常に難しいし、身体的にもハードな曲だ。N響はそうした演奏を可能にするエネルギーを十分持っている」

2月17日のNHKホール。ショスタコーヴィチの「第10番」は非常にテンションの高い演奏となった。交響曲の典型といえる4つの楽章から構成されている。スターリンの死後直ちに完成した1953年作曲の現代作品ながら、交響曲の古典的構造がくっきり浮かび上がるシャープな演奏だ。マーラーの影響を受けた交響曲作家ショスタコーヴィチの基盤に、古典派やロマン派のドイツ音楽もあることを思い起こさせる。サバリッシュやホルスト・シュタインらドイツ人指揮者の指導を受け、長年ドイツ音楽を得意としてきたN響の特性を生かしているのかもしれない。

第1楽章では序奏部の低音弦によるつぶやくような暗いテーマから、展開部の大音量で鳴らすクライマックスまで、強弱の幅が極めて大きい表現を徹底し、この曲のダイナミックな持ち味を出していた。第2楽章は一般に「スターリンの肖像」と呼ばれる5分足らずの高速のスケルツォ。圧制者の凶暴を描いたといわれるが、そうした想像をしなくても、縦のリズムが精密に刻まれ、切れ味の鋭い演奏が楽しめる。打楽器奏者らの大胆かつ正確な演奏が目覚ましく、完成度が高い。

第1、第2楽章で多様な楽器群による大音量の総奏が圧倒したのとは対照的に、第3楽章では木管楽器1本だけの単線的で静かな長い旋律が印象に残る。よく耳を傾けなければ聞こえないほど小さな音色まで繊細に表現している。フルートやオーボエのソロの魅力をうまく引き出す指揮ぶりだ。各楽器の独奏のレベルが上がっていることをうかがわせる。楽団員には「ビジュアル音楽堂」で取り上げた演奏家が何人もいる。首席ホルン奏者の福川伸陽氏、モルゴーア・クァルテットのメンバーでもある首席チェロ奏者の藤森亮一氏やビオラ奏者の小野富士氏らだ。第1コンサートマスターのバイオリニスト篠崎史紀氏はもちろんのこと、独奏者としても活躍が目覚ましい個性的な楽団員がたくさんいる。そこから自由度の高い柔軟な演奏が生まれてくるようだ。

そして最後の第4楽章。ユーモラスな味わいの旋律をクラリネットが吹き、絢爛(けんらん)豪華なクライマックスへと高速で突き進んでいった。終盤では「ドミートリイ・ショスタコーヴィチ」のイニシャルによる「DSCH(レ―ミ♭―ド―シ)」の音型が浮き彫りになる。終結部のティンパニの連打も豪快だ。旧ソ連の暗い歴史絵巻ではなく、生命力に満ちて熱量の大きい現代のショスタコーヴィチが欧州でどう迎えられるか。

自由度が高く思い切りのいいマーラー「第6番」

――マーラーの「交響曲第6番」をどう解釈してN響を指揮するのか。

「バッハを含めたドイツ音楽の最終的な形、頂点、それがマーラーの交響曲群だ。マーラー死後の時代にはドイツ音楽の影響がほとんど無くなってしまう。十二音技法やセリーなどいろんな手法が試されるようになるが、それもマーラーが『交響曲第9番』で(ドイツ音楽の系譜の中での)新しいことをすべてやり尽くしてしまったからだ。そうした中でこの『第6番』はマーラーにとっても非常に変わった交響曲だ。第2楽章『スケルツォ』と第3楽章『アンダンテ』の演奏順が定まっていなかったり、(『英雄は運命によって3回打ちのめされ、最後の一撃でついに倒れる』とマーラーが語ったといわれる逸話に従えば)第4楽章で3回打ち鳴らされるべきハンマーが2回しか打ち下ろされなかったり。そうした問題を別にして、この交響曲のテーマは『愛』だと私は考えている」

――マーラーの「第6番」を指揮するポイントは。

「愛が最大のテーマであり、妻アルマへの愛、裏切られた気持ちなど、様々な感情が込められている。歌詞の無い巨大なオペラだ。だから作品の背後にある人間関係も熟知していないと演奏できない。作品に精通し、様々な楽器のハーモニーやリズムがきちんと連携して初めて曲になる。一方で(音を合わせるだけでなく)各楽器の奏者一人ひとりの自由度も必要になる。最大規模の楽器編成であり、オーケストラの実力を試すのにふさわしい作品だ」

2月22日の横浜みなとみらいホール。マーラーの「交響曲第6番」では、N響メンバーの自主性や自由度、柔軟な演奏がいつになく目立った。中庸のテンポできっちりと行進曲のリズムを刻んでいく中で、金管や木管、打楽器の響きが生き物のように立ち上がってくる。確かに百花繚乱(りょうらん)の派手なオペラを見ている感じ。それぞれの楽器が子供のように感情をさらけ出して叫び合う。マーラー特有の、管楽器の口を上げて吹く奏法も、ホルンやトロンボーン、クラリネットなどでしっかり実践していた。

ウィーン世紀末や厭世(えんせい)観といったマーラーを巡る暗い固定観念を払拭するような、生命力に満ちたきらびやかな演奏だ。「第6番」には「悲劇的」という表題が付けられている。この日の公演ポスターにも「悲劇的」が明記されていた。しかし、パーヴォ・ヤルヴィ氏の「第6番」の解釈はむしろ後続の作品「交響曲第7番《夜の歌》」に近い。ワルプルギスの夜、真夜中に始まる悪魔たちの宴会の響きが聞こえてくる。どの楽器も思い切り鳴らしている。奏者一人ひとりが自他の鳴らす音楽にいい意味で酔っている雰囲気がある。

かつてマーラーの交響曲は、大掛かりな編成ゆえに、ライブで容易に聴ける音楽ではなかった。それが最近では主要演目として頻繁に演奏される。そんな食傷気味の状況を打破する新鮮なエネルギーをN響は発散した。自由度を高めたせいか、逆に縦のリズムが揺らいだり、吹き間違いかと思われるメロディーラインもあったりした。だが神経質に陥らず、演奏を楽しみながら突き進む熱気も日本のオーケストラにはあるということを、欧州で証明できるのではないか。弦楽器や木管楽器が描く叙情的な旋律、手加減無しに振り下ろされるハンマーの打撃音2発、たそがれの輝きのような金管群の響きなど、N響のマーラー「第6番」には交響曲の魅力がたくさん詰まっている。

(映像報道部 シニア・エディター池上輝彦、槍田真希子)

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