ママ支援 人気の秘密、一歩引いた男性目線
家事代行など子育て中の母親向けの支援サービスで、男性が企画・運営するものに人気が集まっている。「働く女性」という当事者から一歩引いたところでニーズを探る。男性だからこその強みや、気づきとはどんなものか。男性発のサービスの運営現場を探った。
ママ相談アプリ コネヒト
「女性同士が不安を打ち明け共感できる場をつくることに、ニーズがあると感じた」。こう語るのは、スマートフォン(スマホ)アプリ「ママリQ」を通じ、先輩ママから出産や子育てで戸惑う女性向けに無料でアドバイスを提供するコネヒト(東京・港)の大湯俊介社長(28)だ。島田達朗最高技術責任者(CTO=28)と二人三脚で2012年に創業した。
今では出産する女性の7人に1人が会員登録するアプリに育ったが、創業当初はデザイナー支援など女性とは関係のない事業を展開。低迷が続き、心身の健康問題とスマホを結ぶ事業への転換を模索するなか、「子育てに直面する女性こそ悩みが深い」と対象を絞り込んだ。
「一歩引いた目線で物事を考えられるのが強み」(大湯氏・島田氏)。女性自身が女性向けサービス開発を行う場合、自らの経験や思いが先行することも少なくない。サービスが事業として成り立つか、社会にどう求められているか冷静な判断をする際、「当事者ではないこと」(大湯氏)が生きてくる。
コネヒトでは、2週間に1度、利用者にインタビューして必要とされる情報をデータ分析する。アプリを通じた利用者間のアドバイスの質の検証も含め、サービス向上や開発につなげている。
母親たちの生活、想像する
一方、「当事者ではない分、世の中の母親たちの生活を想像する力も必要」(大湯氏)。女性として子育てに直面し、悩んだ経験がないからこそ「女性社員は気軽に自分たちの意見に反論もできる。サービス向上や事業拡大をする上で重要」という。月に1度は社内で社員・スタッフとワークショップを実施。社内制度や今後の事業展開、家計の消費など、毎回、様々なテーマを話し合う。
今後は「ママだけでなく、家族という幅広いテーマを軸に事業展開を進めていく」(大湯氏)のが目標だ。島田氏も「生活になくてはならないものをサービスとして作っていきたい」と話す。
家事代行 CaSy
「妻の妊娠をきっかけに家事を手伝うようになったのが起業の出発点」。家事代行サービスのCaSy(カジー、東京・千代田)を2014年に立ち上げた経緯を、公認会計士としてベンチャー企業と関わってきた加茂雄一・最高経営責任者(CEO=34)が語る。NTTデータで金融システム開発を担当した経験を持つ池田裕樹・最高技術責任者(CTO=38)とグロービス経営大学院大学で出会い、100以上のビジネスプランを共に練るなか、家事代行に行き着いた。
加茂氏が家事代行サービスの価格を調べるとサービス水準に比べ価格が高かったり、求める内容に答えるにはスピード感が欠けているところも少なくなかった。女性の社会進出や共働き世帯が増えているのに、既存の家事代行サービスは使いづらい。解決策を提供することで、自分だけでなく同世代の夫婦やシングルマザーの手助けになると思い起業することにした。
CaSyでは、家事代行サービスが1時間2500円と相場の半額を実現。加茂氏がクラウドソーシング事業を手掛けるベンチャーと交流があり、池田氏がデータ活用の知識が深いことを生かし、「クラウドソーシングの活用などシステム化による運営の効率化」(池田氏)ができた。
月1回の意見交換、気軽に
同社には社員とスタッフを含め1300人が働くが、約9割は女性。コミュニケーションをこまめに取るため、「しゃべり場」と呼ばれる社員やスタッフ同士の意見交換の場を月に1回設けている。そこで出されるアイデアを事業運営にきめ細かく反映する。例えば、女性社員から「仕事の実績・能力に合わせて家事代行時に着用するエプロンの色も変えてはどうか」と提案があった。女性スタッフらのモチベーションを引き上げるのは時給アップだけではないことを実感した。
男性ならではの苦労もあった。「もともと家事の知識は乏しかったので、女性社員に常に色々教えてもらっている」(池田氏)。その際、気にかけているのは、加茂氏、池田氏が2人同時に女性社員と向き合うようにしていることだ。同じ発言でも、とらえ方が異なることもある。事業の方向性が分かれないようにするためもあるが、何より「1人より2人でいる方が心強い」(加茂氏)。社員の里田恵梨子さんも2人同時にいることで「気を張らずに話せて、アイデアを気軽に相談することができる」と話す。
女性の社会進出を追い風に、今後は「家事代行サービスの品質向上をさらに進めていく」(加茂氏)という。
サービスの提供者、柔軟な発想が必要に
インターネットやスマホサービスは男性・女性の区別なく広く利用されているが、サービスを供給するネット業界を見渡すと男性技術者による開発がほとんどだ。男性が多数を占める中で、女性に焦点をあてた事業を展開しようとすれば限界もある。
母親支援サービスを提供するコネヒトやCaSyの男性起業家は、必要以上に「男性だから気づくこと」にこだわらないところが奏功したようだ。当事者でなければ分からないことがあることを前提に、女性社員の意見を取り入れながら訴求力を高めている。
女性といっても、シングルマザーやキャリアウーマンなど生活環境は様々。さらに家事代行は男性の単身世帯の利用も見込まれる。利用層が様々に広がるなか、サービスの提供側者も柔軟な発想が求められる。
(南雲ジェーダ)
〔日本経済新聞朝刊2017年2月25日付〕
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