相続・税金

ぼくらのリアル相続

選んだら二度と後戻りできない「相続時精算課税」 税理士 内藤 克

2017/2/24

PIXTA
「先生、うちでは非課税になる110万円以下の額で毎年少しずつ子供に生前贈与をしているのですが、まとめて贈与しても税金がかからない方法があるらしいですね?」
「もしかして相続時精算課税のことですか?」
「そうそう。2500万円まで贈与税がかからないと聞きました。究極の節税策じゃないですか」
「非課税ではなく、課税の繰り延べなんですよ。しかも、うまくはまればいい制度なんですが……」
「なんか、ネットで見ると税理士さんは皆この制度について消極的ですよね?」
「ええ、これを選択すると税理士としてフレキシブルに対応できなくて……」

 相続時精算課税は2003年1月1日から導入された制度ですが、実際にこの制度を活用している相談者の方はあまり見かけません。

 効果のある節税策には副作用がつきものですが、この相続時精算課税については副作用というよりも、状況の変化に対応できない(一度選択してしまうと後戻りできない)という難点があります。そのため安易にお勧めできないというのが税理士の本音なのです。どういうことかというと、一度この制度を選択してしまうとその贈与者(例えば父親)からの贈与に関しては、贈与税の基礎控除110万円を生かした暦年贈与を今後「永久に放棄」することになってしまうからです。今後何か有利な方向への制度変更があった時にも、贈与をなかったことにして対応することはできません。

■長所は課税の繰り延べ効果だが……

 この制度は、「60歳以上の父母または祖父母から20歳以上の子孫への贈与をした場合に、2500万円までは贈与税の対象としない」「その代わり贈与者(父母や祖父母)が亡くなって相続が発生した時に、その贈与額を相続財産に加算して相続税の対象とする」というものです。2500万円を超える部分の贈与に対しては累進課税ではなく一律20%の贈与税を納税することになり、その納付額は相続発生時に相続税から控除されます。

 課税のタイミングを贈与の時点から相続の時点にスライドさせるものであるため、課税の繰り延べ効果があるといえます(同じ税目ではないので、厳密に言えば繰り延べではありませんが)。ちなみに相続時の財産が基礎控除の額以下であった場合は相続税がゼロになるため、すでに納付した贈与税の還付を受けることができます。

 税理士がためらうのは、納税者自身が過去にこの制度を選択していたことを理解していないか、もしくは忘れている場合に、それを知らずに相続対策をアドバイスした新しい税理士がトラブルに巻き込まれてしまうのではないかという懸念があるからです。

■親がアパート経営しているような場合は有効

 例えば、子供が親からお金を出してもらってアパート経営を始めるとしましょう。出してもらう方法としては (1)その家を親名義にしてもらう (2)親から借り入れる (3)110万円以下の額で暦年贈与してもらう (4)相続時精算課税により贈与してもらう――の4つがあります。

 (1)の親名義にした場合は、「不動産の価格が下落して贈与税の負担が軽減されたから、名義変更をしよう」もOKですし、(2)の親から借り入れた場合は「残債が減ってきたから債務免除を受けて、贈与税を払っておしまいにしよう」と、暦年贈与に切り替えることもできます。しかし、(4)の相続時精算課税を選択した場合は既に贈与が成立しているので、どうにも変更ができません。

 メリットのあるケースとして考えられるのは、親がアパート経営をしている場合(土地建物を親が所有)です。建物名義を精算課税贈与で子供に移転すれば、その後の家賃は子供に入ってくるため、不動産所得を低コストで子供にシフトすることができます。本来ならば親が不動産所得に対する所得税を払ったあとのお金を、子供が贈与税を払いながら受け取るのですが、所得の低い子供に不動産所得がシフトすれば、所得税の節税と贈与税の節税のダブルメリットを享受できます。

 建物部分の価値はほとんど変動しないため「あとで値下がりして大失敗した」ということはありませんし、土地まで贈与してしまうと税負担が増えてしまいますので建物名義までにしておくのがいいでしょう。

 このように相続時精算課税がピタリと当てはまる場合もあるのですが、ざっくり言えばそういうケースは少なく、包丁に例えれば小回りの利くペティナイフ(暦年贈与)に対し、大振りの牛刀のような使いにくさがあります。個々の考え方や資産状況によっても有利不利が決まってきますので、相続時精算課税を使う際には相続対策に詳しい税理士の助言を受けながら慎重に行う必要があるのです。

内藤 克(ないとう・かつみ) 税理士法人アーク&パートナーズ 代表・税理士。1962年生まれ、新潟県長岡市出身。97年に銀座で税理士・司法書士・社会保険労務士による共同事務所を開業。2010年に税理士法人アーク&パートナーズを設立。弁護士ら専門家と同族会社の事業承継を中心にコンサルティングを行っている。事例中心のわかりやすい講演にも定評あり。「士業はサービス業である」ことを強く意識し、顧客満足度を追求。日本とハワイの税法に精通し、ハワイ税務のコンサルティングも行っている。趣味はロックギター演奏。

相続・税金