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ライバルは他球団にあらず、ベイスターズ躍進の戦略 横浜に染み出す「コミュニティボールパーク」(上)

スポーツイノベイターズOnline

2017/3/20

横浜DeNAベイスターズのイベント「DREAM GATE CATCHBALL」では、横浜スタジアムのグラウンドを無料開放してキャッチボールができる(写真:YDB)

 2016年シーズンの年間観客動員は約194万人。DeNAが買収する直前の2011年シーズンと比較して76%増と急成長し、今や2万9000席の収容人数に対して稼働率が9割を超える人気球団に生まれ変わった「横浜DeNAベイスターズ」。日本のプロ野球団では初となる数々の施策が奏功した結果だが、2017年シーズンは横浜市の協力のもと、当初より掲げていた地域密着の「コミュニティボールバーク」化構想を加速させる。同社経営・IT戦略部部長の木村洋太氏と、同構想の実現のために参画しているオンデザインパートナーズ代表取締役の西田司氏に、これまで、そして今後の取り組みを聞いた。(聞き手=日経BP社デジタル編集部 内田泰)

――横浜DeNAベイスターズは、スタジアムのシート改修や数々のイベントなどを仕掛けることで、この5年間にNPB(日本野球機構)の全球団のうち、最も観客動員が伸びている。「コミュニティボールパーク」化構想の達成度は、現時点でどの程度まで来ているのか。

横浜DeNAベイスターズ 経営・IT戦略部部長の木村洋太氏

木村 観客動員については、2012年シーズンから積み上げてきた実績はあるが、やり切った感はまだない。達成度といっても、今の“箱(スタジアムの収容人数)”の中では埋まっているものの、そもそも以前は横浜市の人口(約370万人)を考えると、収容人数が小さいにもかかわらず、お客様が入っていなかったという認識だ。

西田 「コミュニティボールパーク」化構想は、これまでスタジアムに来ていたファンだけでなく、足を運んだことがない人にもスタジアムに来てもらい、そして楽しんでもらうことを目指している。野球ファンでなくても、スタジアムに来れば新たなコミュニケーションが生まれるような場にしたい。

 こうした考えのもと、「新しい観戦スタイル」の提供を目的に、シート色のチームカラーである青への統一(現在、全体の9割)や、シートの改修を進めてきた。例えば「スカイバーカウンター」は、以前は稼働率が低かった内野立ち見席をバーカウンターの様な席に変更。10リットルのビールサーバーが付いて、飲みながら観戦できる大人向けのシートだ。

10リットルのビールサーバーが付く大人向けの「スカイバーカウンター」(写真:YDB)

 「プレミアムテラス」では、仲間とテーブルを囲みながら観戦できる。スタジアムに居酒屋のような空間をつくった。実はシートの向きによっては野球がよく見えないが、それでも人気は高い。

「プレミアムテラス」では、仲間とテーブルを囲みながら観戦できる(写真:YDB)

 「ベースボールモニターBOXシート」は、試合のハイライトやリプレー、ブルペン映像などが見られる専用モニターが付属する野球好きなグループ向けのシートだ。バックネット裏に位置しているので、ピッチャーのボールの軌道を見たり、モニターでリプレー映像を見たりして、「今のはストライクじゃないのか?」などとファン同士で野球談議ができる。

専用モニターが付属する野球好きなグループ向けのシート「ベースボールモニターBOXシート」(写真:YDB)

――これまでスタジアムに来たことがなかった人たちに訪れてもらうために様々な仕掛けをしてきたが、何を重視しているのか。

木村 野球ならではの楽しみ方がちゃんとできるかどうかを考えながら取り組む必要がある。例えば、バスケットボールやサッカーの試合では観客はプレー中、常に集中する必要がある。でも、野球には常に独特の“間”がある。その競技特性を生かすことが大事だと思う。

 横浜スタジアムの外野席には、長年ベイスターズを応援してくださっているファンの方々が多くいるが、もともとお客様があまり入っていなかったという事情もあり、我々の取り組みに理解を示してくださる方も多い。失敗を恐れずに、新しい事に挑戦しやすい環境にあった。

■グラウンドでキャッチボールしてから出勤

オンデザインパートナーズ代表取締役の西田司氏

西田 DeNAベイスターズの社員の人たちと話していて面白いのは「ライバルは他球団ではない」とよく言うことだ。横浜中華街やディズニーランドなど、人が集まる場所がライバルだという。

 やはり、純粋な野球ファンのためだけに球団を運営していると集客には限界がある。純粋な野球ファン以外を取り込む仕掛けが重要になる。

 先ほどのシート以外の取り組みの一つが、2015年シーズンに始めたフォトスポット「DREAM GATE」だ。通常、スタジアムが立地する横浜公園から内部は見えないが、選手の練習時などにバックスクリーン下の搬入用のドアを開けて、練習風景を外から見られるようにした。写真も撮影できるよう「フォトスポット」化したのだ。

選手の練習風景を外から見られるフォトスポット「DREAM GATE」(写真:YDB)

 その反響が良かったこともあり、2016年シーズンには「DREAM GATE CATCHBALL」を始めた。ナイトゲームが開催される朝7~8時半までの時間帯にグラウンドを無料開放し、キャッチボールができるようにした。親子でキャッチボールを楽しんでから 会社に行くという“エクストリーム出勤”ができる。

木村 DREAM GATE CATCHBALLのオープニングイベントを実施したときは数百人が集まった。

――「コミュニティボールパーク」化構想を進めるにあたって、本家の米メジャーリーグ(MLB)のスタジアムなどを数多く視察されたと聞いている。

木村 社内で議論していてよく名前が出るのは、サンディエゴ・パドレスが本拠地にしている「ペトコパーク」。公園の中に野球場があるようなイメージだ。外野席の一部は観客席がなく、スタジアムが立地する公園から内部が見える。試合が無いときは、誰でも無料で見られる仕掛けだ。ただし、試合があるときは公園への入場が有料になる。

 ピッツバーグ・パイレーツの本拠地「PNCパーク」は、街の景色の一部としてスタジアムが存在している。

 またシアトル・マリナーズの本拠地「セーフコフィールド」は、外野のスタンド前にバーベキューができるスペースがある。お肉を焼いている人は、野球に集中していると肉が焦げてしまう。だから、野球に集中しなくてもいい。空気感を楽しめればいいという発想だ。

西田 実は、ペトコパークは横浜スタジアムを参考にして設計した、という話がある。なぜなら、スタジアムが公園内にある「パーク・イン・パーク」だからだ。

木村 でも、実際に行ってみたらペトコパークの方が、“一体感”という点で上だった。横浜スタジアムは公園とスタジアムが分離していて“要塞”みたいに見えるが、ペトコパークはまさに公園と一体化している。これが、我々がDREAM GATEを始めることにつながった。

(次回に続く)

[スポーツイノベイターズOnline 2017年2月10日付の記事を再構成]

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