有森裕子 東京マラソン、新コースの見所・走りどころ
「東京マラソン2017」の開催日である2月26日(日)が、いよいよ間近に迫ってきました。私の引退レースは2007年の第1回大会だったので、もう10年も前のことになるのかと思うと感慨深いものがあります。
2020年の東京五輪開催を控え、3万5000人以上のランナーが東京の地を駆けめぐるこの大会は、国内のみならず、世界中から注目されていると思います。そんな中、今回の一番のニュースは、なんといっても、第10回という節目にコースが大幅に変更されたことでしょう。
スタート地点は例年通り新宿の東京都庁ですが、皇居前や、終盤に銀座から有明方面へ向かうコースが消滅。浅草・雷門や品川の折り返し地点は変わらないものの、両国から門前仲町に続く折り返し地点が設けられました。そしてフィニッシュ地点が、有明の東京ビッグサイトから、なんと東京駅前の丸の内(行幸通り)になります。日本の首都・東京を象徴する歴史的なレンガの駅舎を背に、ランナーたちはフィニッシュゲートをくぐるわけです。
新しいコースは、終盤の大歓声が期待できる!?
以前のコースでは、終盤の佃大橋から湾岸エリアの晴海・有明方面に進むにつれ、市街地から離れた道が増え、応援の数が減っていきました。フィニッシュゲート付近は、設営とセキュリティーの関係で一般の応援の方が入れないエリアがあったため、ラストスパートをかけるランナーに声援が届きにくく、やや盛り上がりに欠ける印象を受けていました。
日本の中枢となる東京駅の目の前がゴールとなる今大会は、セキュリティー面こそ厳しくなり、どこまでランナーの近くで応援できるか分かりませんが、間違いなく多くの人々が注目するでしょう。大手町の大観衆の中、学生ランナーが感動的なフィナーレを飾る箱根駅伝のように、終盤の大声援はランナーたちの大きな力になるはずです。幸運にも当選され、丸の内で感動的なフィニッシュ体験ができることを、ワクワクしながら待ち望んでいる参加者も多いと思います。
折り返し地点が増え、最後の豊洲・有明エリアがコースから外れたことで、応援する側も、広域にわたって移動しなくて済むので、目的のランナーを何度も応援することができるかもしれません。私もスタート地点には必ずいますが、その後、どのエリアに移動すれば、少しでも多くのポイントで声援を送ることができるのか、思案中です。
東京駅がフィニッシュ地点になれば、地方から参加する人にとっても好アクセスとなり、帰りやすくなります。周辺にはたくさん飲食店があるので、帰る前に打ち上げをする人も多いでしょうね(笑)。
初めてのコースで重要なのは「高低差」を調べること
さて、新コースですから、全ての参加者にとって初めてのコースになります。初めてのコースを走る場合、事前にどれだけコース情報を調べ、準備をしたかがカギになります。折り返し地点や給水ポイント、トイレの設置場所、「沿岸コースだから風が強い」「石畳で走りにくい」といったコースの特徴、関門の制限時間などを事前に調べておくと、対策を立てやすくなります。
可能な限り、自分の足でコースをたどってみたり、地図アプリを利用して沿道の風景を眺めてみるなど、事前にイメージを膨らませておけば、当日あわてることも少なくなります。また、絶景ポイントや観光名所などを調べておけば、マラソンそのものをさらに楽しめるでしょうし、美しい景色が目に入ってくれば、自然と力も出てくるでしょう。
何よりも必ず調べておきたいのは、"高低差"です。どの地点でどれほどの距離の上りや下りがあって、高低差はどれくらいなのかを、事前にインプットしておけば、「後半に急な上り坂があるから、前半のスピードをやや抑え、これぐらいの時間設定にしよう」といったペース配分を考えやすくなります。走っている最中も、「この上り坂は〇mだから、もう少し踏ん張れば平坦になる」などと先が見通せるので、モチベーションが上がるきっかけになります。
どれだけ準備しても"想定外"の出来事が起きるのがマラソンの面白さですが、最低限の準備をしておくだけでも、不安を軽減してスタート地点に立つことができます。
終盤のアップダウンと強風がなくなり、高速レースに
東京マラソンのコースは高低差が比較的少なく、初心者でも走りやすいコースだといわれてきました。それでも昨年までは、終盤の35km過ぎから4つの橋を渡るエリアで細かなアップダウンが続きました。終盤のスピードの落ち込みは激しく、一気に足が動かなくなる人も多かったのではないかと思います。
2017年の新コースは、その終盤の高低差がなくなり、湾岸エリア特有の強風に悩まされることもなくなるため、高速レースになると予測されます。タイムの狙いやすい大会になれば、世界中から力を持ったランナーが集まり、大会そのもののレベルも上がります。五輪や世界陸上を狙う日本のマラソンランナーは、ぜひ日本記録を狙ってほしいですし、自己ベスト更新を狙う市民ランナーにとってもさらに人気が上がる大会になるはずです。
では具体的に、新コースをどう考えて走ればいいでしょう。
スタートの新宿から市ケ谷~飯田橋間の5km地点まで、約30mの高低差がある下り坂が続くのは、今までと同じ。下りで気持ちがいいからと、オーバーペース気味にならないように注意したいところです。その後はフィニッシュまでほぼ平坦なコースが続くので、時間配分を考え、ランニングウォッチを見ながら自分のペースで走ればいいと思います。
余談になりますが、私は現役の頃、ある程度の高低差があるコースの方が得意でした。高低差があるポイントでギアチェンジを図るなど、勝負を仕掛けやすかったからかもしれません。そう考えると今回のコースでは、「この地点でラストスパートをかけよう」といった、自分なりの目印を決めて仕掛けることが必要になるかもしれませんね。
どのマラソン大会もそうですが、東京マラソンは特に、例年、天候に恵まれないことが少なくありません。私も第1回大会を走った時、あまりの寒さに生まれて初めてアームウォーマーをつけました。現役時代のマラソンで最も寒かった大会といっても過言ではないでしょう。今年1月に京都で開催された全国女子駅伝のように、大雪の中での開催例もあるので、防寒対策をしっかり行い、都心を駆け抜ける楽しさを思う存分味わっていただきたいです。
応援する側にとっても、今まで以上に応援しやすく、見どころ満載な大会になるはずです。2020年の東京五輪閉幕後も、「走ってみたい」と思われるような、世界中から注目され続ける大会であるように、みんなでしっかり盛り上げていきましょう。
元マラソンランナー。1966年岡山県生まれ。バルセロナ五輪(1992年)の女子マラソンで銀メダルを、アトランタ五輪(96年)でも銅メダルを獲得。2大会連続のメダル獲得という重圧や故障に打ち勝ち、レース後に残した「自分で自分をほめたい」という言葉は、その年の流行語大賞となった。市民マラソン「東京マラソン2007」でプロマラソンランナーを引退。2010年6月、国際オリンピック委員会(IOC)女性スポーツ賞を日本人として初めて受賞した。
(ライター 高島三幸)
[日経Gooday 2017年2月17日付記事を再構成]
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