ドイツで1位の実力 VWの小型SUV「ティグアン」
フォルクスワーゲン・グループ・ジャパンはコンパクトSUV「ティグアン」をフルモデルチェンジし、2017年1月17日に発売した。税込み価格は360万~463万2000円。
2015年9月の「フランクフルト国際モーターショー」で世界初披露され、同年10月の「東京モーターショー」ではPHEV(Plug-in Hybrid Electric Vehicle)コンセプト「ティグアンGTEコンセプト」が日本初公開。2016年春に欧州で発売されてから1年を待たずに日本にも導入されたのだが、国内外メーカーからライバルとなるコンパクトSUVが続々登場したこともあり、なぜかやや待たされた印象を受けてしまう。
MQB採用の初SUV
新型ティグアンはVWの幅広い車種で部品を共有し、生産性の向上とコスト削減を狙うモジュール化技術であるMQB(Modulare Quer Baukasten)を採用した初のSUVだ。すでにコンパクトカー「ゴルフ」と上級モデル「パサート」には採用されており、どちらも出来が良く評判が良いだけに、ティグアンの完成度も期待されていた。何しろティグアンは、これまでに世界中で280万台以上が販売され、ドイツ国内では9年連続SUVセグメントで1位に輝いたモデルでもあるからだ。
エクステリアは最新のVWデザインを採用。水平基調のフロントマスクでボディーのワイド感を強調し、全長が先代プラス70mmの4500mm、全幅が同プラス30mmの1840mmまでサイズを拡大している。ただし、専用外装をもつRラインのみ、先代比プラス50mmの1860mmとなる。また全高は同35mm低い1675mmに抑え、ワイド&ローのプロポーションになり、かなりスポーティーな印象に変わった。またサイドビューもロングホイールベース化と上下2本の直線的なキャラクターラインにより、伸びやかなデザインになっている。
全長が伸びた分はすべて車内の快適さにつなげた
今回のサイズアップはデザイン的な効果だけでなく、欧州でコンパクトSUVに関心のある層の要望にも基づいているという。小さくても不満なく使える広さが求められているわけだ。
よってボディーの拡大分はそのままキャビンスペースの拡大に反映され、スポーティーで質感の高いデザインのインテリアとともに、乗員すべての居心地が良くなるように工夫されているという。全長のプラス70mm分はすべてホイールベースの拡大に当てられ、室内長は26mm長く、後席の足元は29mm広くなるなど、後席の居住性が向上。また後席のスライド量を180mmとゆとりを持たせ、後席使用時でもラゲッジスペースは615Lを確保。これは先代比145L増で、さらに後席を畳めば最大1655Lまで拡大できる。
日本ではFWDのみ発売
同社がブルーモーションテクノロジーと呼ぶ低燃費技術を採用したパワートレインは、1.4L TSIエンジンと6速DSGを組み合わせた前輪駆動仕様(FWD)の1タイプのみ。最高出力150ps/5000rpm~6000rpm、最大トルク25.5kgm/1500~3500rpmを発揮する。従来型にも搭載されていたアイドリングストップ機能の「Start/Stopシステム」および「ブレーキエネルギー回生システム」に加え、今回新たに気筒休止機能「ACT(アクティブシリンダーマネジメント)」を採用した。この結果、JC08モード燃費は、先代1.4Lモデル比1.7km/L向上の16.3km/Lをうたう。
なお現時点では日本で発売されるのはFWD仕様のみとなるが、本国では高出力の2.0L TSIエンジン仕様やAWD仕様である「4MOTION」もあるので、今後のバリエーション拡大も期待できる。
コネクティビティ機能の強化とは
新型ティグアンで同社が最も強調するのが、コネクティビティ機能の強化だ。「つながるSUV」をキャッチフレーズに掲げ、純正インフォテイメントシステムの全てでVWのモバイルオンラインサービス「Volkswagen Car-net」を標準搭載する。これはスマートフォンを利用するシステムで、スマホをUSB接続すると、「Apple CarPlay」「android Auto」の車両用スマートフォンアプリを車載モニターで操作できるようになるというもの。
さらにナビゲーション機能付きインフォテイメントシステム「Discover Pro」を装備したモデルでは、テレマティクス機能「Guide & Inform」を標準装備。オンライン施設検索、オンラインVICS交通情報、駐車場検索と空き状況、ガソリンスタンド検索と価格情報などが利用できる。こうしたオンラインサービスを活用することで、車載ナビだけでは得られない、プラスアルファの情報が提供されるというものだ。なお、オンライン接続には専用端末は搭載されておらず、スマートフォンやWi-Fiルーターなどのユーザー所有の機器を介して行う。
渋滞時は部分自動運転を実現したシステム搭載
安全機能としては、同社が「Volkswagenオールイン・セーフティ」と呼んでいる機能を搭載している。全車速追従機能付きACC(Adaptive Cruise Control)、リアビューカメラやアラウンドビューカメラ、駐車支援システム、歩行者検知対応シティエマージェンシーブレーキを含むプリクラッシュブレーキシステム、アクティブボンネットなどが全車に標準搭載。
上級グレードでは、車線維持をサポートするレーンキープアシスト、ハンドルとアクセルおよびブレーキを複合的に制御することで、部分自動運転を実現した渋滞時自動追従支援システムであるトラフィックアシスト、左右後方からの接近車両を知らせるリアトラフィックアラートなどを標準で装備している。エントリーグレードでもこれらの上級モデル用のアイテムはオプションで装着できるという。
グレード構成は、エントリーのコンフォートライン、装備を充実したハイライン、上級装備を備えスポーティーな内外装の仕様となるRラインの3タイプ。前述の通り駆動システムとパワートレインは全車共通なので、違いは装備内容だけとなる。
輸入車1位の座を奪還するにはブランド力の信頼回復が急務
ティル・シェア社長によれば、ティグアンの日本仕様車はオンロード仕様で、スタイリッシュかつスポーティーなオンもオフも楽しめるオールラウンダーなモデルだという。想定するユーザーは平日は都市部で働き、週末は郊外へでかけるような、アクティブな30~50代、特に小さな子どものいる家庭の男性中心だ。
VWはこのティグアンを皮切りに新型モデルを次々と導入する予定としており、すでに本国でマイナーチェンジし発売されているコンパクトカー「up!」と「ゴルフ」シリーズの導入を明言。さらにゴルフには、導入が延期されていたEV仕様の「e-GOLF」も含まれる。
2016年はグループ全体の販売とVW乗用車ブランドの販売はプラス成長となったものの、米国での排ガス不正問題の影響を受け、中国やアジア・太平洋地域を除く世界の市場では厳しい数字となったVWグループ。その影響は日本でも表れ、輸入車1位の座は2年連続メルセデス・ベンツに奪われ、さらに今年はBMWが2位へと浮上し、昨年は3位に甘んじる結果となった。長年守り抜いてきた1位を奪還するには信頼回復が急務であることは間違いない。
このためVWグループ全体、乗用車ブランド部門、それぞれ企業戦略を打ち出しているが、日本法人でも経営ビジョン「Road to 2020」を作成し、その一つとして顧客との接点を増やす、現在の全国キャラバンなどに踏み出している。長年日本で愛されている輸入ブランドだけに、こうした地道なイベントに一定の効果はありそうだ。
懸念される点は今年のオールニューモデルが現時点でティグアンだけということ。VWが作り込んだ人気カテゴリーのSUVだけに販売台数はある程度期待できるだろうが、もともと輸入車1位の座にあった日本市場での復権をティグアンだけに頼るのは厳しいだろう。今やミニバンまで用意するBMWや、メルセデスのフルラインアップ戦略の影響も大きい。ただ依然としてドイツ車、輸入車エントリーとしては価格面だけでなく、店舗の多さや総合性能の高さでVWならではの魅力はある。
今は一歩一歩、着実な歩みを進めていくしかないだろう。
(ライター 大音安弘)
[日経トレンディネット 2017年1月31日付の記事を再構成]
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