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18歳アイドルの「突然死」にみる死因特定の難しさ

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NIKKEI STYLE

日経Gooday(グッデイ) カラダにいいこと、毎日プラス
経済や株式のニュースと一緒に流れてくる有名人の病気のニュースや訃報。闘病生活に思いを馳せるだけでなく、明かされた情報から、私たちは学ぶことがあるはずです。このような報道から何を受け取ればいいか、病理医の榎木英介さんが読み解いていきます。

「18歳のアイドルが突然死した」というニュースは、世間に衝撃を与えた。

2017年2月8日に亡くなったのは、アイドルグループ「私立恵比寿中学」のメンバーだった松野莉奈さん(18)。イベントがある大阪に向かう途中の列車内で体調不調を訴え、帰京し病院受診後に自宅療養していたが、翌朝自宅で容体が急変した。救急隊が到着したときは心肺停止状態だったという。その後搬送先の病院で死亡が確認された。

数日前まで家族旅行に行くなど元気な18歳がどうして突然死するのだろう。疑問を抱いた人も多く、一時的には「インフルエンザ脳症で亡くなった」という流言がウェブに拡散した。

2月10日になって、所属事務所は、松野さんの死因を「致死性不整脈の疑い」と発表した。

致死性不整脈とは何か

ここで致死性不整脈とは何かについて触れたい。

致死性不整脈とは、その名の通り、死に至る不整脈だ。不整脈とは心臓のリズムの異常で、様々なものがあり、多くは死に至ることはない。

致死性不整脈は不整脈のなかで、放置すれば短時間で死亡する可能性の高い不整脈とされる。頻脈性不整脈として心室細動、持続性心室頻拍(ひんぱく)、トルサード・ド・ポワンツが、徐脈性不整脈として房室ブロック、洞不全症候群が挙げられる。

厚生労働省の人口動態調査(平成27年)によると、2015年に15歳から19歳で亡くなった人の数は1220人と非常に少ない。同じ年に亡くなった人は全ての年齢を合わせると129万444人だから、わずか0.09%だ。15~19歳で亡くなった1220人のうち、病死は427人にすぎない。このなかで、心臓、血管などの循環器系の病気で死亡した人は78人だ。

このうち致死性不整脈で亡くなったのは、「その他の伝導障害」1人、「心停止」2人、「発作性頻拍(症)」2人、「その他の不整脈」9人となっている。

若い人が致死性不整脈で亡くなることは極めてまれではあるが、発生すれば本人、家族にとっては悔やんでも悔やみきれない。

アメリカの心臓関連学会は、若い運動選手の、心臓が原因となる突然死を防ぐために、運動時に胸の痛みなどがあったり、失神・めまいを経験したことがある、近親者に50歳未満で心臓の病気にかかり死んだ人がいるといったことを事前にチェックするように勧めている。読者の皆さんや家族、知人でこれらに当てはまる病歴がある場合は、循環器専門の病院を受診してほしい。

こんな病歴があれば循環器の精密検査を
<個人歴>
1. 運動に伴う胸の痛み/不快感/こわばり/高血圧
2. 原因不明の失神/めまい
3. 運動に伴う過度のおよび説明できない呼吸困難/疲労または動悸(どうき)
4. 心雑音が以前からある
5. 全身血圧の上昇
6. 過去にスポーツへの参加を制限されたことがある
7. 医師の指示により心臓の検査を受けたことがある
<家族歴>
8. 50歳未満で心臓病に起因して死亡(突然かつ予期しない死亡)した親類が1人以上いる
9. 50歳未満で心臓病による障害がある近親者がいる
10. 家族に肥大または拡張型心筋症、ロングQT症候群または他のイオンチャネル障害、マルファン症候群、臨床的に有意な不整脈、遺伝的心臓病をもった人がいる

「致死性不整脈の疑い」にみる死因特定の難しさ

しかし、なぜ「疑い」という言葉がついており、断定していないのだろうか。

私は病理医として、この死因を聞いたときに、「ああ、解剖などをしたけれど死因が分からなかったのだろうな」と思った。実は私も、「致死性不整脈の疑い」という死因を使ったことがあるからだ。

亡くなったときに心電図をつけていれば、致死性不整脈が発生したことが分かるが、今回の松野さんのように、救急隊が駆けつけたときに心肺停止状態だった場合は、致死性不整脈の発生は分からない。

松野さんが解剖されたという報道はないが、もし解剖されたならば、以下のような手順で死因を調べたものと推定する。

まず、突然死を来す疾患の有無を検索する。具体的には、肺の血管に血の塊がつまる肺血栓塞栓症、大動脈の壁が割け、その隙間に血液が入り込む大動脈解離や、急性心筋梗塞、脳出血や脳梗塞の有無、気管に物がつまっていないか、臓器が死んでいないか、出血がないかなどを確認する。また、肺炎などの感染がないかも確認する。こうした突然死を来す病気が目で見てなかったことを確認した場合に、暫定診断として「致死性不整脈の疑い」とするのだ。

これはあくまで暫定であり、その後それぞれの臓器の標本をつくって顕微鏡で確認する。急性心筋梗塞は発症直後には目で見ただけでは分からないことも多いし、思わぬ持病が明らかになることもあり、暫定診断が覆ることもままある。

また、致死性不整脈という診断を確定させるには、心臓のリズムを生み出す場所である洞房結節(どうぼうけっせつ)や、洞房結節から発せられる刺激の通り道である刺激伝導系を顕微鏡で見て、何らかの異常がないかを確認する必要がある。まれにこうした部分に小さな出血があることや、細胞が死んでいることが分かったりする。もちろん、心臓を動かしている筋肉である心筋の様子も見ることになる。若い人に致死性不整脈を引き起こす「不整脈源性右室異形成症」の場合、心筋が脂肪に置き換わっている。また、本人が気が付いていない「肥大型心筋症」などの先天性の病気が隠れている場合もある。このように、致死性不整脈を引き起こした可能性のある病気の有無を検索することも必要なのだ。

しかし、若い人に致死性不整脈を引き起こすブルガダ症候群は、遺伝子の異常であり、顕微鏡で心臓の組織を見ても分からない場合がある。亡くなった方が過去に心電図の検査を受けていない場合は、様々な突然死の可能性を否定して、最後に残ったものを致死性不整脈とする「除外診断」をせざるを得ない場合も多い。

こうして、全身の様々な臓器を見て、かつ、亡くなるまでの臨床的な経過と照らし合わせて初めて死因は確定する。死因をめぐって医師同士が激論になることさえあるのだ。

死因の特定は、決して容易ではない。しかし、こうしたことはあまり知られておらず、「インフルエンザ脳症」といった診断名が拡散したり、致死性不整脈が死因として確定したかのような報道がなされたりするのだ。

死因究明に関心を

多くの人が死因の特定が難しいことを知らないのは、当然なのかもしれない。病気で亡くなる人を解剖する病理解剖は年間1万件程度。犯罪の可能性がある遺体を解剖する司法解剖、遺族の承諾で行う承諾解剖、死因が分からない遺体を監察医が解剖する行政解剖をあわせても、解剖される人は年間の全死者129万人のうちの2~3%にすぎない。

多くは体の外からご遺体をみて死因を決めているのみで、間違っていることも多々あるだろう。

作家の海堂尊氏は、こうした状況を「死因不明社会」と呼んでいる。隠された病気が見逃されたり、犯罪が見逃されたりする状況は、人々の安全にとって脅威だといえるが、そもそもそれが脅威だという認識は乏しい。

松野さんの死をめぐる憶測は、こうした死因究明に対する人々の認識の程度を露呈したといえるだろう。

残念ながら、医療において死は敗北とみなされ、死んだ人間に予算や人材をかけるくらいなら、生きた人を助けたほうがよいという医療関係者は多いだろう。しかし、診断や治療の質のチェックがなければ、医師の技量は向上しないし、医療の発展はないだろう。

日本を含め、東洋では遺体を解剖されることに抵抗感がある人が多いという。病魔に苦しんだ身内を切り刻まれたくない、と言えば、多くの人が納得するだろう。これは、「千の風になって」遺体から魂が抜けていったあとは抜け殻とする西欧各国の死生観とは異なる。

こうした死生観を大切にしつつ、死因究明をするには、死亡時画像検索(Ai)[注1]ももっと活用されるべきだろう。解剖する、しないの二者択一ではなく、たとえ解剖しなかったとしても、各科の医師が集まるカンファレンス(M&M〔mortality & morbidity〕カンファレンスと呼ばれる)ももっとやるべきだろう。

今後、松野さんのような志半ばでの若い死を防ぐためにも、医療における死因究明にもっと光が当たらなければならない。

[注1]死亡時画像検索(Ai):CTなどの画像診断装置を使って亡くなった方の画像を撮影することを通じ、解剖をせずに死因を検索する手法。

参考資料

・日本心臓財団「不整脈とは」・AHA/ACC SCIENTIFIC STATEMENT「Assessment of the 12-Lead ECG as a Screening Test for Detection of Cardiovascular Disease in Healthy General Populations of Young People (12-25 Years of Age)」・日経グッデイ「中高年に『突然死』が起きる理由」・心臓性突然死.com「心臓性突然死につながる疾患」

榎木英介(えのき・えいすけ)
 近畿大学医学部附属病院臨床研究センター講師・病理医。1971年横浜市生まれ。東京大学理学部生物学科動物学専攻卒、神戸大学医学部医学科卒。神戸大学医学部附属病院、兵庫県赤穂市民病院などを経て、近畿大学医学部附属病院臨床研究センター講師(病理学教室、病理診断科兼任)。病理専門医、細胞診専門医。著書に「嘘と絶望の生命科学」(文春新書 986)、「医者ムラの真実」(ディスカヴァー携書)、「わたしの病気は何ですか?――病理診断科への招待」(岩波科学ライブラリー)などがある。

[日経Gooday 2017年2月16日付記事を再構成]

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