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働き方先進国オランダ 仕事と子育ての理想バランス 

日経DUAL

2017/3/8

日経DUAL

住宅街の真ん中にある公園。街中いたるところにこうした公園がある(写真:吉田和充、以下同)

 昨今、日本では「働き方」が世間の大きな関心事になっています。しかし、子育て世代にとっては、働く環境が改善されていると実感することは少ないのではないでしょうか。というのも、子育て世代の働き方の問題は、出産・育児とキャリアの両立の問題や子育て環境の問題などとも結びついているからです。

 一方で、多様な働き方が認められている働き方先進国で「世界一子どもが幸せな国」と言われている国があります。日本とは歴史的にも長いお付き合いのあるオランダです。このオランダには働き方や子育て環境の視察のため、近年、多くの日本人が訪れています。

 今回は、そのような視察を数多く企画している筆者の経験や、オランダの労働法の専門家へのインタビューと併せて、オランダの働き方や子育て環境をリポートします。

市内にある大きな公園。運動場、アスレチック、遊具のほか、牛、馬、うさぎなどがいる動物園、市民菜園も併設。夏は平日でも家族連れで大にぎわい。
夏は広々とした芝生で日光浴やBBQをする人も

■週3勤務、週4勤務が当たり前のオランダ

 オランダでは、「週3勤務」「週4勤務」という形が、それほど珍しくありません。筆者もオランダに移住した当時、驚いたのは、平日の昼から公園で子どもと遊んでいるパパが多いことです。夏の晴れた日などは、日本の休日の公園より、パパと遊んでいる子どもたちが多いのです。

 これは後で分かったことですが、特に子育て中の共働き夫婦は「週4勤務」「週3勤務」というパートタイマーとなり、平日に休みを取り、子どもと過ごす時間をつくる人が多いからなのです。

 ですから、例えば、パパのお休みが水曜日となると、その日は「パパの日」として、日中子どもと過ごすのはパパの役割になります。共働きの場合、平日の休みを夫婦でズラして、子どもと過ごす時間をつくる家庭が一般的なのです。

 ここであえて、“子どもと過ごす”と書いたのは、パパたちを見ていると、「ママに育児を押し付けられて、仕方なく子守をしている」というようには全く見えないからです。中には、小さい子ども3人と一緒に遊んでいるようなパパもいます。そして公園などでは、初めて居合わせた親同士が一緒に子どもたちと遊ぶ、というようなことも頻繁にあり、「子どもが社会の真ん中にいる」雰囲気を感じることができます。

 オランダ人の働き方の実態はどうなっているのでしょうか。オランダ人で、労働法の専門家でもあるアレックスさんに聞いてみました。

 「一般的に、週4勤務(週32時間、あるいは36時間の勤務)をしている人が多いです。また週3勤務ですと、パートタイムになります(週35時間以下の勤務はパートタイム)。働いている女性のうち、パートタイム勤務が75パーセント前後を占めるというデータもあるようですので、週3勤務も、子育て中の女性の中には多いのではないかと思われます」 

 日本でパートタイムというと、アルバイトや非正規社員を連想するかもしれませんが、オランダではパートタイマーであっても正社員。福利厚生を含めた待遇は、フルタイムワーカーと違いはありません。もちろん労働時間が短い分、パートタイマーは、フルタイムで働く人と比べて、給料は少なくなります。しかし違いは主に「労働時間」だけなのです。

寒さで公園にある池が凍り、ここぞとばかりに子どもたちはスケートを始めていた

■今の働き方になったのは80年代以降

 オランダの働き方は、今ではすっかり世界でも理想とされる形になっているようです。しかし、伝統的にそうだったのかというと、実はそうでもないようです。この点も、アレックスさんに聞いてみました。

 「他ヨーロッパ諸国に比べてオランダの女性は、比較的最近(1980年代)まで、働きに出る必要にそれほど迫られることがなく、また、キリスト教をベースとする考え方があり、女性は家で家族の世話をするのが一番、という風潮があったようです。

 それが変わるきっかけとなったのが、1980年代のいわゆる『オランダ病(Dutch Disease)』、経済停滞と高い失業率だといわれています。女性の労働力を駆り出さずにはいられなくなったということでしょうか。また、1980年代に始まった、女性の権利を推進する政策も、女性の社会での活躍に拍車をかけたといえそうです。そして、女性が働き始めると同時に、パートタイムを含めて週3~4日の勤務が増えた、ということがいえるのかと思います」

こうした電動の乗り物に保育園児たちを乗せて公園に。小さな子がいっぱい乗っているのでとてもほほえましい

 また1982年の雇用者団体と労働組合と政府の間で交わされた「ワッセナー合意」も大きなきっかけになったようで、そこから30年の年月をかけて生産性を上げながら、勤務時間を減らしていき、少しずつ今のような形になっていったのが実態のようです。

 さらに、すでに社外の好きなところで仕事を行うリモートワークやテレワーク、自宅で仕事を行う在宅勤務などを取り入れている業種・業界も、多く存在しています。筆者が調べたところ、IT、デジタル系は当然として、お役所や銀行、大学、調査機関などでもこうした働き方が多く取り入れられています。

 また、小学生の子どもが2人いるママで、大手IT企業に勤める友人は、「在宅勤務でも仕事への支障は全くない。出社は2週に1回のミーティングのときぐらい。だいたい出社していたら子育てできないでしょ」と話しています。この辺り、日本と比べると意識がかなり進んでいる…ということでしょうか。

■そもそも仕事よりも家族が土台

 筆者は、企業だけでなく、スタートアップ、市民参加型のファブラボなど、日本にはない組織形態の視察も行っています。やはりそれぞれが先進的な組織であり、上述したような先鋭的な働き方をすでに実施しています。

 その根底にあるのは、オランダで非常に大事にされてきたある価値観です。

 再び、労働法の専門家アレックスさんの話です。

 「働き方が社会や子育ての環境に影響を与えている、というよりも、まず家族、子ども、という優先事項があって、それに沿って一般的な働き方ができてきた、といえると思います。日本では仕事のために生きているような人がたくさんいると聞きますが、オランダではそれはあり得ないし、周りから理解されるのも難しいです。まず家族、自分の生活があって、そのために仕事をするわけですから。そうすると、子育てや家庭、自分の生活が中心の働き方が主流になるのも当然かと思います」

 つまり、“家族や自分の生活がベースである”という価値観が昔からあって、それがあるからこそ、結果として、今のような働き方になった“、というのです。言われてみれば当然なんですが、日本だと、ついこの点が抜け落ちてしまうことも多いですよね…。

街中にある小学校の外観。オランダの小学校は4歳から始まる
別の小学校。1年の最後の修了式にそれぞれのクラスが出し物をするも、練習とか一切ないのでグダグダ

 改めて、このような視点から労働にまつわる様々な施策や法改正などを見直してみると、何かいいヒントが生まれてくるのではないか?という気もします。

 もちろん、オランダの働き方が良い点ばかりかというと、そうでもないようで、「パートタイムで働く人、また派遣会社から派遣されて働く人にとって、昇進の機会が、フルタイムで働く人や正規で働く人に比べ、限られているという現実があります。法律上はパートタイムでも昇進の機会はフルタイム勤務と同様であるべきですが、実際にはそれほど単純ではありません。昇進の機会を減らしてでも子どもとの時間を増やすためにパートタイム勤務をしている、といった話や、オランダの労働市場で女性がある一定以上の地位に就く割合は北欧諸国などと比べるとかなり低い、という情報も目にします」とアレックスさん。

 また筆者の女友達からは「“パパの日”と特別な呼び名があることがあること自体がおかしい。だって、子どもとママが平日に遊んでいても、“ママの日”って言わないでしょ?」と、ごもっともな指摘もありました。

 このように、働き方先進国であるオランダでも、日本と似ているところはまだまだあるようです。

 また、オランダであっても、すべての職場が理想的な働き方を実践できているわけではありませんし、職場でのトラブルもあるようです。実際、雇用主が知っておかなければならないルールや、雇用される側が知っておくと良いルールなどが多くあるので、トラブルを避けるためにも、アレックスさんのような労働法に詳しい専門家に相談をするのがオランダでは一般的なようです。

 とはいえ、そもそも働きやすい環境づくりは、何のためなのか、単純に残業を減らすためなのか、より生産性を上げるためなのか、あるいは家族や自分の生活のためなのか、目的によって改善方法も違ってきそうですよね。

 家族と過ごす時間を追求するために働き方を改善する――こうしたオランダ流の考え方で、働き方を改善していくと、理想の働き方が実現できるかもしれません。もっとも、こうなると、それこそ企業や働き方だけの問題ではなく、子育て環境や社会の仕組みなどとも連動した問題になってきそうですね。

 日本だと「働く時間が減っても、家族との時間が増えるわけでもなく、やることがないから趣味づくりから始めないといけない」なんて声も、チラホラ聞こえてきますが、皆さんは、この働き方、どう考えますでしょうか?

(ライター 吉田和充)

[日経DUAL 2017年1月24日付記事を再構成]

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