ナショジオ

スペシャル

人は人を食べたのか 古代の4事例を読み解く 科学で挑む人類の謎

日経ナショナル ジオグラフィック社

2017/3/12

ナショナルジオグラフィック日本版

 古代の遺跡には謎が多い。ナスカの地上絵や英国のストーンヘンジ、イースター島のモアイ像など、だれが何のために作ったのか皆目わからない遺物が世界にはたくさんある。こうした謎を見て、UFOや古代文明といったロマンチックな話題に思いをめぐらすのは楽しいが、遺跡や遺物の中にはときに私たちを意気消沈させてしまうものもある。その一つが、人が人を食べたり、いけにえにしたことを示すような遺物だ。

英国南部ソールズベリー平野にたたずむストーンヘンジ。4500年前のものとされる。(Cory Richards/National Geographic Creative)

 2017年1月4日、ベルギーのゴイエ洞窟群で4万年前のネアンデルタール人が食人を行っていた証拠が見つかったというニュースが流れた。トナカイなど他の動物の獲物と同じように、人間の骨を割って骨髄を取り出した痕跡が見つかったのだという。

 4万年前というのは、ネアンデルタール人が我々ホモ・サピエンスに追いやられつつあった時代。彼らはなぜ食人という行動をとったのだろうか。たんに空腹を満たすためだったのか、それとも身近な者の死を悼む神聖な儀式だったのだろうか。それは不明だと発掘に当たったベルギーの考古学者は言っている。

■ケルトの洞窟で見つかった人骨

 今から1800年ほど前の現生人類の遺跡からも食人を示唆する痕跡が発見されている。古代のヨーロッパ西部に住んでいたケルト人は、ドルイド教と呼ばれる宗教を信仰していた。その儀式の中にいけにえがあった。ユリウス・カエサルが率いたローマ帝国の遠征隊が残した文書によれば、ドルイド(ドルイド教の司祭)は「祭壇を捕虜の血で覆い、人間の臓物を通じて神意を伺うことを聖なる義務と見ていた」という。

儀式に際してヤドリギを切るドルイド(Druids Cutting the Mistletoe on the Sixth Day of the Moon” (oil on canvas), Motte, Henri-Paul (1846-1922)/Private Collection/Photo (c) Peter Nahum at the Leicester Galleries, London/Bridgeman Images)

 実際、英国アルベストンの洞窟から、西暦200年頃のローマによる征服時代のものとされる150人もの人骨が出土している。頭蓋骨が割られた跡が残る犠牲者はドルイドによるいけにえの可能性があるという。英国ブリストル大学の考古学者、マーク・ホートンは、「もしかするとこれらの遺体すべてが神に捧げた大きな犠牲だったのかもしれない。ローマ人に対する勝利を得るために」と語る。

 1世紀の古代ローマの歴史家、大プリニウスはドルイドについて語る中で、ケルト人は儀式として食人を行った、つまり敵の肉を自分の心身を強化するものとして食べたのではないかと述べている。実際にアルベストンの洞穴の骨には、まがまがしい凶事が行われた可能性を示すものがあった。遺体の大腿骨が、栄養豊かな動物の骨髄を取る時と同じように割り開かれていたのだ。

ナショジオ新着記事