変わりたい組織と、成長したいビジネスパーソンをガイドする

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それでは、リーダーが具体的になすべきことは何でしょうか。著者は4つのタスクを挙げます。

(1)目標を掲げる まず求められるのは、チームが目指すべき成果目標を定義することであり、その目標はメンバーを十分に鼓舞できるものである必要があります。

(2)先頭を走る 最初の一人となるのは負担が大きく、その立場に自らを置くと決めることは勇気がいります。それでも「最初の一人になる」「先頭に立つ」ことをいとわないのがリーダーです。

(3)決める リーダーとは「決める人」です。検討する人でも考える人でもありません。しかし日本企業には決めない人がたくさんいます。責任をとるのが怖いからでしょう。十分な情報がそろっているのなら、リーダーでなくても決断はできます。誠実で善良な人かもしれませんが、リーダーシップの欠如した人に率いられる組織は本当に災難です。

(4)伝える リーダーの大切な仕事の1つがコミュニケーションです。言葉によって人を動かすことは必須となります。日本の組織や企業は長い間極めて同質的な人だけで構成されていたため説明責任や言葉の力を軽視しがちです。

ウイリス・タワーズワトソン・グループ タワーズワトソン社長 大海太郎氏

ウイリス・タワーズワトソン・グループ タワーズワトソン社長 大海太郎氏

目標を掲げ、先頭に立って進み、要所要所で決断を下し、常にメンバーに語り続ける、これがリーダーに求められている4つのタスクなのです。

このようなタスクを果たすリーダーですが、リーダーシップとはスキルであると同時にメンタルセットでもあると著者は言います。常に成果を問われる環境で働いていると、「今、自分のやっている仕事はどのような価値を生むのか」を強く意識するようになります。

漫然と作業をすることがなくなり、価値を生まない作業はさっさと切り上げ、バリューの高い仕事に優先して取り組むようになります。これにより、リーダーが最も重視すべき成果の重要性や、それにこだわる姿勢をたたき込まれるのです。

今求められるのは「変化を起こす力のある人」

リーダーの4つのタスクについて、細かい点は別にして強い違和感を持たれることはないのではないかと思います。ただし、その内容や解釈については注意が必要です。例えば、「(1)目標を掲げる」はどんな目標でも良いというわけではありません。より高い成果を達成するために、高い目標である必要がありますし、チームメンバーを鼓舞できるものでなくてはなりません。自ら能動的に高いところを目指すことが求められており、与えられたものに対応するための受動的な目標では不十分です。

今求められているのは、変化への対応力が高い人ではなく、むしろ「変化を起こす力のある人」です。変わっていく社会に対応する力をもつ人ではなく、社会なり組織なりを自ら変えられる人という意味です。これは、「(2)先頭を走る」というタスクにも通じます。

「(3)決める」は、現在の日本企業で最も欠けているタスクではないでしょうか。日本でビジネスをしていて、日本企業と外資系企業の顕著な差を感じるのが、重要なミーティングの進め方です。その時の議題や内容にもよりますが、重要なミーティングであればあるほど外資系企業の場合には責任のある人、場合によってはトップが出席して、その場で次々と決定を下して、さらには担当者や実施期限まで決めていきます。

一方で、日本企業の場合、ミーティングの重要度に応じて人数が増えることはよくありますが、その場で決定がなされて物事が進展する度合いはむしろ低下していきます。そして、「それでは一度、持ち帰らせていただいて検討します」「一度内部でもんできます」といった決まり文句とともに議題は持ち越しとなるのです。これは前回も触れた日本社会の特質である「成果に対する意識の希薄さ」に由来するものであり、「生産性の低さ」の原因です。

「仕事」とは決めること リスクを取らない「作業」ではない

十分な情報がそろっており、絶対に正解でない限り決定を下したくないというのは、後で責任を問われたくないということの裏返しです。その気持ちも理解できますが、そのような決定であれば、何も特別な偉い役職の人でなくとも誰でも下せるので、意味がありません。常に不十分な情報の中、これからどちらを目指すのか決めるというのがリーダーの役目なのです。そして、それはごく一部の人のみに求められている役目ではなく、日々の業務の中で大多数の人が果たすべき役目です。

2013年に書かれた英オックスフォード大学のオズボーン准教授の論文によれば、今後10~20年程度で現在の仕事のうち実に半数近くがコンピューターに取って代わられるとのことです。この中には、「判断」を要するようなクレジットアナリストといった知的労働も含まれています。この論文がどこまで正しいかは別として、今後はこれまで以上にデータの収集や分析のみといった仕事では給料をもらえなくなるのは間違いありません。ホワイトカラーの「仕事」は決めることなのです。リスクを取らない「作業」をしているだけでは、報酬を得られないのです。

マッキンゼーでは、若手コンサルタントも常に自分の立ち位置をはっきりさせ、自分の意見を明確に述べるよう求められます。常に自分の意見を明らかにするよう求められることで、「決断する」訓練がなされます。これはどのような仕事をしていても、実践できることです。是非、読者の皆さんも常に自分の意見を持ち、必要な時にはその場で「決断」できるようになってください。

大海太郎(おおがい・たろう)
ウイリス・タワーズワトソン・グループ タワーズワトソン社長
1963年生まれ。87年東京大学経済学部卒、日本興業銀行で資産運用業務などに従事。94年ノースウェスタン大学経営学修士(MBA)取得。99年マッキンゼー・アンド・カンパニー入社。2003年タワーズワトソン入社、06年からインベストメント部門を統括、13年から現職。

この連載は日本経済新聞土曜朝刊「企業面」と連動しています。

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