くらし&ハウス

安心・安全

介護施設に子ども食堂 食材やりくり・交流…試行錯誤 子育て支援、地域で連携 高齢者の認知症ケアも

2017/2/15 日本経済新聞 夕刊

お年寄りと同じ部屋でごはんを食べる子どもたち(東京都町田市の清風園)
 地域の子どもに無料か安価で食事を提供する「子ども食堂」を介護施設が開設し始めた。親が仕事で忙しく一人で食事したり、貧困の家庭で栄養バランスのとれたごはんを取れなかったりと、食の様々な課題に地域で向き合う。運営は試行錯誤だが、お年寄りが元気になるなどの効果も出てきた。子の新たな居場所になりつつある。

 2日午後6時、東京都町田市の介護施設、清風園のグループホームに「いただきます」と子どもの声が響く。認知症の高齢者6人の食卓とは別のテーブルを子ども6人が囲む。2歳の女子を除き、配膳された親子丼をあっという間に完食。2歳の子の食事の世話は入居する女性。「かわいいね」と言いながらスプーンを子の口元に近づける。

 同園は2016年6月から月2回、施設内で子ども食堂を始めた。保護者同伴の乳幼児から中学生までが対象で料金は1人100円。午後5時から同7時までの間、ボランティアを7人ほど配置し、食材は寄付で賄う。町田に施設を開いて50年余り。「民生委員から、子どもの福祉でも力になってほしいと言われたのがきっかけ」。施設長の吉田美香さんはこう話す。

2日の子ども食堂で供されたごはん(東京都町田市の清風園)

 2日は30人の子が参加。グループホームに入りきれない24人は隣の部屋で食べた。「だれでもおいでと子どもに呼びかける。子の満面の笑みは認知症ケアに役立つ」と吉田さん。グループホームで食べた小学2年生の男子は、「最近、おばあちゃんが亡くなった。ここに来ると新しいおばあちゃんができた気がする」と楽しそうだ。

 子どもだけで食事する「孤食」の問題や貧困家庭の子に向き合い、温かいごはんを提供する子ども食堂。一軒家から児童館、寺院まで開催場所の裾野が広がる。おおむね月1回から2、3回の開催だ。介護施設もここ1、2年、この流れに乗り始めた。毎日、大勢の高齢者に食事を作るため厨房を完備し、栄養士や食品衛生の責任者が常駐しているのが強みだ。

 有料老人ホームを大都市で展開する長谷工シニアホールディングス(東京・港)もその一つ。16年10月から川崎市内の施設で月1回始めた。小学生まで無料。ここには育児中の母親も訪れる。10日の夕方、お好み焼きを賞味していた41歳の母親は、「保育士や幼稚園教諭の資格を持つ人がいるので、子育ての相談ができる」と話す。

 同社は清風園と同様に、子どもは誰でも希望すれば受け入れる。友達と連れ立って来てもいい。孤食や貧困家庭の子の居場所というイメージが先行すると該当する子が足を向けにくくなるからだ。女性ボランティアは言う。「愛情を持って接してくれる大人がいて、ごはんがあり、友達と楽しんで過ごすだけで、子どもは変わっていくはず」

 施設で暮らす高齢者との交流が進まないなど課題は多い。だが最大の難問はいつも米飯が足りないこと。1月は40人が集まり、男性スタッフが近くの外食店に融通してもらおうと奔走。需要をどう予測するか、経験を重ねていくしかない。

 「子ども2、3人分だったら毎日無料で出せる」。盛岡市で通所介護施設、フキデチョウ文庫を営む沼田雅充さんは強調する。沼田さんは母子家庭を支援するNPO法人インクルいわて(盛岡市)の求めに応じ、16年1月から施設内に子ども食堂を開いた。現在は月3回まで拡大したが、「月3回で子の家庭の詳細を見極めるのは困難」として、施設単独で毎日2、3食分を出せるようにする。

 施設の昼食の食材をやりくりすれば可能という。施設1階は地域との交流スペースで雑誌や書籍が並ぶ。そこに平日の午前中、学校に行かず訪れる子が数人はいる。ごはんを食べさせて毎日、話をするうちに「前日の夜から水以外、何も口にしていないといった話が出てくる」と沼田さん。

 そこからは施設にいる社会福祉主事など福祉関係スタッフの出番だ。スタッフが児童相談所や市の子育て支援担当者と連携し、地域全体でその子をケアする仕組み。「毎日子ども食堂」ならではの成果といえる。

 介護施設の考え方はそれぞれ。だが関わる大人はみんな「おいしい」のひと言を聞きたくて汗を流す。そしてこう呼びかける。「またおいでよ」

 ◇   ◇

■児童館での食事提供調査

 児童館の全国組織、一般財団法人児童健全育成推進財団(東京・渋谷)は3月末、子ども食堂などを通じて食事を提供する全国の児童館数を公表する。同月末にまとめる「全国児童館実態調査」の質問に初めて食事提供の有無を盛り込んだ。同財団は全国の実態を把握し、食堂のよりよい運営につなげる。

 調査は5年に1回実施。今回の2016年度調査は昨年10月1日時点で、約4600館が対象となる。従来の公設民営・完全民営などの運営形態や休館・閉鎖予定という質問項目に、新たに食事提供と学習支援の有無を加えた。子ども食堂の開催場所として児童館は大きな柱となっている。だが実施する児童館の情報は共有されていない。

 財団業務部の阿南健太郎課長は、「調査を契機に連携を強め、地域に開かれた食堂に磨きをかけたい」と話す。阿南さんによるとボランティアのほか、活動資金や食材を提供するサポーターなど地域の大人がかかわることができる役割は多いという。「興味があったら気軽に足を向けてほしい」と呼びかける。

(保田井建)

[日本経済新聞夕刊2017年2月15日付]

くらし&ハウス