もはやポップアート 黒地に水玉はじけるツノゼミ
今回は、ツノゼミの中でも、ポップアートのように「明るく、はじけた」アディペ・ゼブリナ(と最後にもう1種)をご覧いただこう。
アディペ属は、中南米に分布していて、クスノキ科の植物でよく見かける。ツノは幅が狭めのヘルメット型で、表面はザラッとしている。多くの種は、今回紹介するアディペ・ゼブリナのように、黒地にオレンジや赤などのコントラストが強い模様を身にまとっている。警戒色とも言えるその派手さが、アディペ属の特徴のようだ。
このツノゼミの食草であるクスノキの仲間には、ぼくの好きなシナモンや月桂樹(ローレル)と言った香辛料となる木があるほか、防虫効果のある樟脳(しょうのう)を含む木もある。そうした木々の汁を吸っているということは、天敵が嫌がる強烈な成分を体内に蓄えている可能性が高い。だから、アディペ属のツノゼミは、幼虫を含め、派手な装いを身に着けることで、敵に警告を発しているのかもしれない。
さて、このツノゼミのメスはクスノキの若い茎の中に卵をまとめて埋め込み、その上にジッとして寄生バチなどの天敵から守る。卵からかえった小さな幼虫たちは、母親に見守られ、群れながら茎から汁を吸って育っていく。たまに幼虫たちが排泄する「オシッコ」(甘露)に、アリがやって来ているのを見かける。
あるとき、メスが守っておらず、まだふ化していない卵を見つけた。「寄生バチに寄生されているのかな~?」と思い、実体顕微鏡で卵の様子を確認してみることにした。すると、ツノゼミの卵として予想だにしなかった模様があるではないか!
卵の一部(幼虫がふ化してくる部分)が口を開けたようになっていて、網目になっている。これまでに幾種かのツノゼミの卵を観察してきたが、たいていは白い薄皮があるだけで、模様になっているものを見た記憶はない。その後、卵を飼育してみたところ、寄生バチは出てこず、小さなツノゼミの赤ちゃんたちが出てきた。寄生バチが出てくることを期待していたので残念だったが、この卵のデザインは、スゴく刺激をくれた。
これからツノゼミの卵を見るときの視線が違ってくること間違いなし! また、今回の原稿を用意するに当たって、これまで撮った大量のツノゼミ写真を見直したところ、コスタリカの他の地域にはアディペ・ゼブリナにそっくりで似たような種がいる可能性が高いという感触をもった。詳しく調べてみる楽しみが増えた♪
1972年、大阪府生まれ。中学卒業後に米国へ渡り、大学で生物学を専攻する。1998年からコスタリカ大学でチョウやガの生態を主に研究。昆虫を見つける目のよさに定評があり、東南アジアやオーストラリア、中南米での調査も依頼される。現在は、コスタリカの大学や世界各国の研究機関から依頼を受けて、昆虫の調査やプロジェクトに携わっている。
(日経ナショナル ジオグラフィック社)
[Webナショジオ 2017年1月24日付の記事を再構成]
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
※ NIKKEI STYLE は2023年にリニューアルしました。これまでに公開したコンテンツのほとんどは日経電子版などで引き続きご覧いただけます。