変わりたい組織と、成長したいビジネスパーソンをガイドする

会員登録をすると、編集者が厳選した記事やセミナー案内などをメルマガでお届けしますNIKKEIリスキリング会員登録最新情報をチェック

部下の末永清美さんにアドバイスするベルシステム24の桜本美智佳ディレクター(右)(福岡市で)

昨年12月、政府は同じ仕事内容や働き方には同じ賃金を支払うべきとの「同一労働同一賃金」のガイドライン案を公表した。企業が必ず守らねばならないという法的な裏付けは無いが、パート社員や契約社員からの期待は大きい。一方で非正規社員を多数雇用している企業の多くは戸惑いを隠せず様子見。先進企業を例に、働く人の意識はどう変化しているかなどを探った。

「冬のボーナスを受け取りうれしかった。ボーナスは20年以上前、社会人になった直後に2回もらって以来のこと」。コールセンター大手のベルシステム24の福岡市の拠点で働く桜本美智佳さん(44)はかみしめる。

桜本さんは150人のコミュニケーターを指導するディレクターの一人。2003年春にベル24で期限つき労働契約で働く有期契約社員となりコールセンター勤務に。06年夏にスーパーバイザーに昇格後、アシスタント・ディレクターを経て現職に昇進したが雇用区分は有期社員だった。

ベル24は2万7000人の有期社員を抱える。ディレクターには有期社員と正社員が混在し、有期社員は時給制でボーナスがなかった。昨春、大幅に改革。人材開発部グループマネージャーの村田倫也さんは「ベテランの離職防止やコミュニケーターのやる気向上のため、同一賃金を意識した制度にした」と話す。

◇    ◇

 改革の主な柱は2つ。1つめは働き方の選択。ベテランを選んで正社員に大量移行させ、全国転勤型か、新設のエリア雇用型かのどちらかを選んでもらった。昨春は150人、秋に80人が移行、来月も60人強が移行する予定だ。

2つめは賃金。有期雇用から全国型正社員に移行した場合、賃金は移行者の職務内容を反映した社内グレードに応じ、正社員と同額になる。エリア型の場合は、勤務地ごとに全国型の100~75%に調整した賃金が払われる。

全国型には転勤の可能性がある。その代わりボーナスの支給月数を3.5カ月分と、エリア型の1.5カ月分より厚くしてバランスを取った。有期雇用時に比べ全国型の年収は3~4割、金額にして100万円程度増え、エリア型は1~2割増となるという。

社員のモチベーションに変化はあったのだろうか。有期社員として仙台市の拠点に勤務していた安藤志穂さん(39)と、横浜市勤務だった佐伯正夫さん(36)は全国型を選択、現在は東京で働く。2人は「初めてボーナスをもらう立場になった」「今後は自分で仕事に枠を設けず努力したい。昇進を望む強い思いを持った」と口をそろえる。

先の桜本さんは福岡市でエリア型を選択したので賃金は全国型の90%だが「待遇差に不満はない。後輩の指導に力を入れたい」と明快だ。

今回政府が示したガイドラインは、何を同一労働とするかを示している。最大の特徴は、賃金水準は個別企業の実情に合わせてよいこと。海外では業界全体で基準ができていることが多い。基本給や各種手当、福利厚生、教育訓練の一定の格差についても問題無しとする例も挙げた。

◇    ◇

 例えば、ベル24はベテラン有期社員を大量に正社員に定期移行させて同一賃金にする一方、一般の有期社員と正社員の間では、仕事と処遇を分けた。これは、問題無しの例とほぼ同じとみられる。

手当や福利厚生はどうだろう。実は最近起きている「同一労働同一賃金」を巡る訴訟の争点は、賃金本体ではなく手当のことが多い。ガイドラインは、有期社員にも相応の各種手当を与えるよう求めた。だが企業社会には、パート社員に手当は不要との通念が根強く残っている。

そんな中、東都生活協同組合(東京・世田谷)は、既に交通費を支給。約400人の正職員と、配送ドライバーなど約500人の非正規職員が対象だ。週5日勤務の常勤嘱託社員なら年2回の定期券代、月に14日以上働く人には月単位定期券代、それ以下は日割りで交通費を払う。

同生協は職員の社会保険料を半分以上負担している。労働時間など基準を満たす非正規職員には支給に差をつけていない。総務人事教育部長の松本淳さんは「交通費や社会保険料などに垣根を設けないことで、職員にも一体感が生まれている」と話す。

様子見の企業が多いなか、ガイドラインの公表が、こういった動きを加速させるかどうか。結果が出るまで、少し時間がかかりそうだ。

実態に合わぬ面も

 ガイドラインに戸惑っている企業もある。技術系人材派遣大手のメイテックはその1社。自社の無期雇用社員をメーカー等に多数派遣している。ガイドラインには派遣先企業と同一の賃金を払わねばならないと書かれているだけ。

メイテックによれば、同社の派遣社員の年収は39才で約610万円と電機業界の平均を上回り、ガイドライン通りとすると給料が下がりかねない。技術者の派遣料金や賃金は、メーカー全体の需給相場が反映された欧米型に近いもので、単独企業内の格差是正にこだわるガイドラインとは相いれない部分もある。ガイドラインの運用には注意も必要だ。(礒哲司)

新着記事

Follow Us
日経転職版日経ビジネススクールOFFICE PASSexcedo日経TEST

会員登録をすると、編集者が厳選した記事やセミナー案内などをメルマガでお届けしますNIKKEIリスキリング会員登録最新情報をチェック