在宅勤務、はかどる秘訣 着替えやメークで出勤気分
育児や介護と仕事の両立をしやすくし、生産性の向上や長時間労働解消の効果も期待できる在宅勤務。働き方改革の一環で導入をすすめる企業は増えているものの、働く側からは「家では集中できない」との声も聞かれる。働き手にも職場にも好影響を与える在宅勤務のコツを探った。
毎週金曜日、午前8時半。日産自動車で管理職を務める曽山純平さん(35)は、私服で自宅のダイニングテーブルの席に着く。テーブルの上には、パソコン、ノート、やるべきことのリストと携帯電話だけ。「余計なものをテーブルの上に置かない」のが在宅勤務時のルールだ。
会社では中長期的なマーケティング戦略を手掛ける部署の課長として3人の部下を率いる。プライベートでは共働きの妻と3人の子の5人家族。在宅勤務は事業戦略の策定や資料作成などの仕事に充てる。
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「1日の流れをルーティン化すること」が集中するコツ。子どもを保育園に送り帰宅すると、30分かけて新聞に目を通し頭を仕事モードに。昼食は必ず外に出て、1時間以内に戻り再び仕事。午後5時半に仕事を終えて、保育園に迎えに。部下とは普段からコミュニケーションを密にとっているため、在宅勤務時の電話はほとんどない。「金曜は部下もそれぞれの仕事に集中できていると思う」
同社が在宅勤務を導入したのは2006年。育児・介護中の社員が対象だったが、10年に生産工程以外の全社員に拡大した。生産性向上に向けた制度と風土の改革も進み、15年度は対象社員の3割にあたる4000人が利用したという。
在宅勤務の生産性が上がらない理由の一つが、周囲の目がないため気が緩み、働く意欲を高めづらいこと。そこで有効なのが「絶対に終わらせる仕事」と「タイムリミット」を明確に決めておくことだ。
1歳の子を育てながらプロクター・アンド・ギャンブル・ジャパン(P&G、神戸市中央区)でシニアマネジャーを務める岩間南美さん(32)は、3人の部下を持つ管理職。フルタイム勤務だが夕方6時で退社するため、会議や打ち合わせに追われて自分の仕事に集中する時間を確保するのは至難の業。月3回の在宅勤務の日は「このデータ分析をしたい、あの資料を作ろうと、終わらせたい仕事が決まっている」。
在宅勤務の日も普段通り午前5時55分に起床。メークと着替えを済ませてから子どもを起こし、支度や家事をすませ8時には保育園へ。帰宅するとすぐリビングで仕事に取りかかる。夕方5時に子どもを迎えにいくと決め、「時間までに終わらせるためエンジン全開で働く」。自分の仕事に集中できる在宅勤務は、管理職と子育てを両立するためのセーフティーネットの役割を果たしているという。
時間管理やタスク管理と並んで在宅勤務の効率化の鍵を握るのが、仕事をする環境の整備だ。「書斎などの個室がない、家族が家にいるといった制約の中で、いかに仕事に集中できる環境をつくるかが重要になる」と日本テレワーク協会(東京・千代田)の中山洋之専務理事は指摘する。
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損害保険ジャパン日本興亜業務品質部の岡田愛さん(36)は、7歳と5歳の子を持つワーキングマザー。在宅勤務は主に日中、短時間の子どもの行事があるときに利用する。
プライベートとのメリハリをつけるため、メークと着替えをしてからダイニングテーブルで業務開始。リビングのシャッターを閉めたままにするのは、「在宅の気配を消すことで仕事に集中できる」との思いからだ。昼の休憩時はあえてテレビをつけて、気持ちを切り替えているという。
15年度からテレワーク(在宅勤務やモバイルワークなど)の活用を推進する同社。14年度に131人だった利用者は、今年度2000人を超えた。「利用した社員の7割が生産性が上がったとアンケートで答えた」(人事部企画グループの井上直樹特命課長)と手応えを感じている。
総務省の「15年通信利用動向調査」によると、テレワークを導入している企業は16.2%。前年より4.7ポイント増えたが、まだ少数派だ。「生産性の向上や多様な人材の活躍には、柔軟な働き方の実現が必要。経営トップが意思表示をすることと、管理職が率先して取り組むことが重要だ」と中山専務理事。
在宅勤務の必要性を感じていなくても、突然親の介護に直面するリスクもある。在宅勤務導入支援を手掛けるテレワークマネジメント(東京・千代田)の田沢由利代表取締役は、「制約なく働き続けられるという思い込みを捨て、在宅勤務を自分ごととして捉えることが大切だ」と話す。
●出勤する日と同じ時間に起きて、ひげを剃り、身だしなみを整える
●職場のメンバーに、何時までにどの業務を終わらせるとメールで周知し、自分にプレッシャーをかける
●在宅勤務の前の日にやることを書き出して1日のタイムスケジュールを作っておく
●家で社員証ストラップを着用し、家にいても仕事中だと子どもに分からせる
●在宅勤務の予定を事前に妻に知らせておき、外出を促す
●自室にこもり、入室禁止にする
●休憩時以外は私用スマートフォンの電源を切る
●普段の職場環境に近づけるため。静かになりすぎないよう音楽をかける
●職場のメンバーとのコミュニケーションをスムーズにするため、1時間ごとにタイマーをかけメールをチェック
※各企業の社員の取組事例から抜粋
(女性面編集長 佐藤珠希)
[日本経済新聞夕刊2017年2月13日付]
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