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津田大介も乗りたい! ぶつからないロボ、近未来の足

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NIKKEI STYLE

近未来の移動ツールとして注目されるパーソナルモビリティー。ロボティクス業界の第一人者・千葉工業大学「未来ロボット技術研究センター・fuRo」所長の古田貴之氏が作った「ILY-A(アイリーエー)」は、なんと4つのスタイルに変形するという。いったいどんなツールなのか――トランスフォーム好きな津田大介氏が、試乗してその可能性を探った。

これからの日本でパーソナルモビリティーはますます重要に

シートにまたがって座り、ハンドルを握って、指でゲーム機の丸いアナログスライドスティックのようなものを行きたい方向にスライドさせる――ILY-Aはそれだけで驚くほどスムーズに前進しはじめた。スティックを右や左に動かすとその通りに進む。指を離せば、すぐ止まる。自動車のブレーキ、アクセルといった操作よりずっとシンプルかつ直感的に動かせるし、自転車のペダルを踏む力もバランスをとる必要もない。しかも、自分の足で歩くより速く、疲れずに遠くまで行ける。これがパーソナルモビリティーの便利なところだ。

最近、こうしたパーソナルモビリティーが注目されている。パーソナルモビリティーとは、1人乗りのコンパクトな移動支援ツールで、たとえば、セグウェイや、2016年12月に始まった羽田空港でのロボット実証実験に参加しているホンダのUNI-CUBβ(ユニカブ ベータ)やA.M.Y.クリエイティブのINMOTION R1EX(インモーション アールワンイーエックス)などが、それにあたる。

こうした乗り物は、自動車離れした若者にとって魅力的だ。スマートな移動ツールとして気軽に乗れるし、都市に似合う。駅とイベント会場間の移動や、観光地での貸し出しなどにも良さそうだ。さらに、小売店の注文の配達や、医療関係者や介護ヘルパーの地域の巡回、高齢化やさまざまな事情で自動車に乗れなくなった場合の移動手段などなど、利用シーンや新しいサービスがどんどん思いつく。ようするに、従来の乗り物では生まれなかったサービスや、生活を変化させるイノベーションが起きる大きな可能性を秘めている――ただし、それは公道で乗れればの話だ。

これらのパーソナルモビリティーは何年も国土交通省を中心に車両規制緩和や法整備が検討されているのだが、まだ公道を自由に走ることは許可されていない。イベントや茨城県筑波研究学園都市内のつくばモビリティロボット実験特区や、愛知県豊田市、臨海副都心などで実証実験が行われているが、乗れるエリアは限定されている。

さらに、自動車といえば誰もが4つのタイヤのついたクルマの形を思い浮かべ、子どもが絵を描いてもそんなに差はない、でも、まだ、パーソナルモビリティーと聞いてすぐに思い浮かべるスタンダードなデザインがない。スケートボードタイプや立ち乗り型、座れる電動車イス、そして軽自動車よりさらに小型の自動車型まで、乗り方も利用目的もさまざまだし、機能も発展途上だからだ。

そんな中、千葉工業大学の「未来ロボット技術研究センター・fuRo」所長の古田貴之氏がパーソナルモビリティーを作った話を聞いた。古田氏は、独立行政法人科学技術振興機構(北野共生システムプロジェクト)で、ロボット研究チームのリーダーを長らく務めたあと、千葉工業大学に移籍してロボット開発研究を続けてきたロボティクス業界の第一人者。古代生物から未来の乗り物を模索するハルキゲニアプロジェクトや、福島第1原子力発電所内の探査を行った原発対応版Quince(クインス)の開発などでも知られているが、彼が率いるfuRoが研究開発して作ったツールが、すごくロボット的な"移動する機械"と聞いて興味を持った。

古田貴之(ふるた・たかゆき)氏
未来ロボット技術研究センター・fuRo所長。1968年、東京都生まれ。少年時代に脊髄の難病にかかるが奇跡の復活をとげ、96年青山学院大学大学院理工学研究科機械工学専攻博士後期課程中途退学後、同大学理工学部機械工学科助手。2000年、博士(工学)取得。同年、(独)科学技術振興機構のロボット開発グループリーダーとしてヒューマノイドロボットの開発に従事。03年6月より現職。

古田氏は、もともとご本人が車イスに乗っていたこともあり、全方位移動型電動車イスなども手掛けるなど、ハンディキャップがある人の移動手段に対するこだわりがある。その古田氏が、2015年3月に自動車部品メーカーのアイシン精機と産学協同で作り上げたのが、トランスフォーム(可変)するパーソナル三輪モビリティーの「ILY-A(アイリーエー)」。一目見て、乗ってみたいと思った。

なにしろ、過疎化が進む地方ではこれからどんどんこうした移動手段のニーズが高まるだろうし、現在も高齢者が出歩くためのツールの需要が高まっている。ILY-Aみたいなパーソナルモビリティーがあれば、もっとアクティブに動けるようになるし、人々のいろいろなコミュニティーが変化するはずだ。もちろん"移動する機械"だけで変わるわけではないだろうけれど、そうした近い将来を想像させるツールの第一号なのではないか。パーソナルモビリティーのスタンダードになるかも、という期待を胸に、千葉工業大学を訪れた。

不思議な三輪車? 「ILY-A(アイリーエー)」とはなにか

古田貴之氏(以下、古田氏)「このILY-A(アイリーエー)は、見た目は乗り物ですが、未来のライフスタイルをサポートするギアのつもりで作りました。若者からアクティブシニアまであらゆる世代の生活シーンで、移動・行動をサポートする近未来の"足"なんです」

千葉工業大学の実験棟の中に置かれたILY-Aは、なんだか不思議な三輪車のような形をしていた。実際に見ると、思ったよりも大きく感じる。写真を見たときにはもう少しコンパクトなイメージだったが、意外と大きく重い。モノとしての存在感がある。

まず、またがって乗るビークルモード(vehicle mode)。ハンドル部分についているニンテンドー3DSの丸いスライドパッドみたいなものを指で押して操縦するのだが、簡単かなと思ったら、若干の慣れは必要だと感じた。しかし、少し試すとすぐ要領もわかり、自在に走らせられるようになった。自在に動かせるようになると非常に楽しい。もっといろいろな操作ができると乗る楽しみが広がりそうだと思う一方で、誰でもゲーム機のスライドパッドの要領でぐりぐり動かすシンプルさがこのILY-Aの魅力でもあると感じた。上下左右のスティックだけで操作するというわかりやすさは究極のユニバーサルデザインともいえる。

夢中になって走らせていると、古田氏が急に両手を広げて「そのまま突っ込んできていいですよ!」と立ちはだかった。ギョッとして「ブレーキ、ブレーキ!」とアセったが、ILY-Aにはブレーキがない。ところが、まったく静かに、自然に減速して古田氏の前で停止した。急ブレーキのガックン、とくる衝撃も一切なかった! 前部分のLEDの色もかわって、注意を喚起する。よくできている。

実は、この安全性に対するセンサーと制御システム機構に、ILY-Aのパーソナルモビリティーとしての魅力が詰まっている。古田氏得意のロボット技術を応用した新開発の「知能化安全技術」が搭載されていて、突然飛び出してくる人や自転車、さらに動かない障害物までもセンサーで認識して、自動で速度を減速し制動を制御しているのだ。ただの乗り物だと思ったら、こんなに高い技術を搭載した最先端ギアだったとは。ものすごく賢いのに、なんて控えめなことだろう。

こうした安全性を実現しているからこそ、あらゆる世代の移動・行動をサポートする近未来の"足"と言い切れるのだ。

4つの形にトランスフォーム

さて、ILY-Aのもうひとつの魅力の、トランスフォームに迫ってみよう。

筆者の私を夢中にさせた大人も楽しい三輪ビークルモードから、持ち手の位置を高くして座面を下げた状態に変形すると、これが立ち乗りのキックスクーターモード(kick scooter mode)だ。スイスイ進むので、子どもや若い世代はこのモードが楽しいだろう。

座面を下げたままハンドルを逆向きにして手押し車のようにすると、荷物を運ぶのに便利なカートモード(cart mode)となる。たくさん買い物した帰り道も、手元のスライドパッドの操作によって、電動で自動的に動くので、力を入れなくてもかなりの重さのものを、軽くスルスルと押していけるのだ。

個人的に、もっといろいろな応用が可能なのではないかと思ったのが、このモード。荷物を運ぶときにこれがあったら楽だが、足乗せ部分に荷物を積むので、運べる荷物がダンボールなどに限定されてしまうのがもったいない。積むスペースを確保するために変形するといった工夫があるとなおよいと思った。

そして4つ目の変形が、本体を移動するためのキャリーモード(carry mode)。ベビーカーくらいのサイズに小さく折り畳めるので、車に積んだり、鉄道の改札も通ることができる。

こうした変形によって、パーソナルモビリティーに求められるさまざまな使い方が、ILY-A1台でまかなえることになる。ビークルモードだけでもモノとして十分な存在感があるのだが、さらにこちらの要求に応じて変形することで、不思議な愛着が湧いてくる。

若い頃に1台持って、もしかしたら一生の相棒となる乗り物なのかもしれない。

※ILY-Aの動きを動画でご覧ください

娘が「サンタさんに"あいりー"を頼むんだ」

古田氏「ILY-Aの開発は、これまでのロボット研究で培った技術を応用して短期間で実現することができたものです。ところが僕にとって、これまでのロボット研究では感じたことのなかった手応えがあったものなんです。

今までロボット技術を研究し、さまざまなロボットを作ってきましたが、ILY-Aを作って初めて、そうしたことに興味のなかった妻から、本当に、これ(ILY-A)が欲しいと言われたんです。娘も、クリスマスに欲しいものを聞いたら『サンタさんに、あいりー、頼むんだ』って言うんですよ。サンタさんに頼んでも、たぶん僕のところに頼みに来るんだな、と思いましたけどね(笑)。80すぎの父も乗りたいと言ってくれました。よくあるシニアカーは、死んでも乗らないと言っていましたが『これだったら乗ってやる』と」

そうなのだ。たしかにこのILY-Aは、古田氏の奥さんや娘さんのようなロボットに興味がない人にとっても欲しいと思えるものなのだ。古田氏の笑顔を見て実感したのだが、ILY-Aは「ポジティブに乗りたくなる」魅力がある。その理由は、かつてのアップル製品がそうだったように、未来の社会や生活をイメージさせてくれることにある。

生まれたとき、祝福とともにプレゼントされて、子ども時代は仲間と近所を走り回り、学校や会社に通う足としてともに人生を重ね、年をとって気軽に出歩けなくなっても、これがあれば、外に出かけていく気持ちを忘れないでいられる……。そんな人の一生に寄り添うものになりそうな気がする。

現実的なアイデアとしては、これにGPSや自動翻訳コミュニケーション機能などをつけ足して、駅の近くでレンタルできるようにすれば、2020年東京五輪・パラリンピック時の、外国人も使える東京移動ツールとして大人気になるはずだ。

2世代、3世代と改良が加えられていけば、値段も買いやすくなってどんどん普及するに違いない。本当の意味での1人1台のパーソナルモビリティーになるのではないだろうか。

古田氏は、そんな新しい乗り物が走りまわる風景と、それによって変化する未来の社会を作り出そうとしているのだ。

これだけ衝突回避機能――"ぶつからない技術"の性能が良ければそのこと自体が法整備をけん引する可能性も感じた。これまでも新しいモノができたことで法整備が促進された例は多々ある。その意味でもILY-Aの開発には大きな意味があるのだ。

津田大介(つだ・だいすけ)
 ジャーナリスト/メディア・アクティビスト。「ポリタス」編集長。1973年東京都生まれ。メディア、ジャーナリズム、IT・ネットサービス、コンテンツビジネス、著作権問題などを専門分野に執筆活動を行う。主な著書に『ウェブで政治を動かす!』(朝日新書)、『動員の革命』(中公新書ラクレ)、『情報の呼吸法』(朝日出版社)、『Twitter社会論』(洋泉社新書)、『未来型サバイバル音楽論』(中公新書ラクレ)ほか。2011年9月より週刊有料メールマガジン「メディアの現場」を配信中。

(写真 稲垣純也/編集協力 波多野絵理)

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