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40歳年下の同僚と席を並べて働くサトーグリーンエンジニアリングの山室博巳さん(左、東京都目黒区)

40歳年下の同僚と席を並べて働くサトーグリーンエンジニアリングの山室博巳さん(左、東京都目黒区)

高齢化、高齢化とかまびすしい昨今。年を取ったからといって社会の重荷のように扱われるのを不本意に思う高齢者も多い。実際、元気な高齢者は増加している。「高齢者=65歳以上」という定義そのものを見直す動きもあるほどだ。会社員人生の延長戦に挑むオーバー65歳も登場している。

「新手のコンピューターウイルスが出てきたね。感染リスクはなさそうだけど動向に気を付けて」。京都中央信用金庫営業推進第二部長の平井俊輝さん(68)は若手のセキュリティー担当社員に注意を促す。

同部はネットや電話、郵送などを介する非対面型金融取引を担当。個人の口座番号やパスワードなどを不法に入手しようとハッカーは金融機関のサーバーに攻撃を仕掛けてくる。顧客の大切な財産を守るのも平井さんの責任だ。1973年入社、勤続43年超の大ベテラン。60歳で定年退職した後も嘱託社員として会社に残った。今も約70人の部下を束ねる現役の管理職だ。

趣味はゴルフ。毎週末練習場に通って3時間は打ち込み、月に1度コースに出る。年金で暮らせるが、ゴルフ三昧の悠々自適な生活に興味はない。「仕事と趣味、両方があるから人生は楽しい。仕事柄、様々な数字を扱うが、7~8桁ならすぐ暗記できる。まだまだ頭はしっかりしているよ」と意気軒高だ。

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2016年の65歳以上就業者(総務省労働力調査)は767万人に上り、この10年で257万人も増えた。もちろん生活のために働かざるを得ない高齢者もいる。ただ独立行政法人労働政策研究・研修機構が15年に実施した調査によると、年金がもらえるようになっても働く意欲がある男性は60代で79%、70代以上で77%に上り、シニアの就労意欲は旺盛だ。

バーコード印刷機などを手掛けるサトーホールディングスでは65歳を超える社員が11人働いている。定年は65歳だが、本人に働く意思があり、職場も必要とする人材はいくつになっても働ける。定年を迎える社員の2~3割が雇用継続を望み、ほぼ全員が希望通り働き続けている。

グループ会社のサトーグリーンエンジニアリングで担当部長を務める山室博巳さん(68)もその一人だ。環境対策技術の第一人者。使用済みバーコードを焼却したときの二酸化炭素(CO2)排出量を半減する技術を東京理科大学と共同開発した。

もともと技術者だが、環境技術に目覚めたのは50代後半と遅咲き。会社から環境対策責任者に命ぜられ、技術・対策をゼロから学んでいるうちに技術者魂に火が付いた。「環境問題なんてひとごとだったが、自社製品も工夫次第でCO2排出量を減らせると気づいた。次々とやりたいことが出てきて、定年で仕事を区切りたくなかった」

学生時代の同級生はリタイア人生を謳歌している。給与がある分、年金支給額は減らされ、働いていてもいなくても世帯収入は同じだ。「バカだな。働くだけ無駄じゃないか」。友人には笑われるが、意に介しない。山室さんは「最新技術に目を配り、商品に生かそうと知恵を絞り、顧客に提案する。商品化までのワクワク感がたまらない。若さの秘訣」と話す。

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2016年の有効求人倍率は1.36倍に達し、1991年以来の高水準。人手不足を背景に企業も65歳以上に目を向ける。野村証券は15年に70歳までの継続雇用が可能な営業職種を新設した。明治安田生命保険は今年7月に、65歳以上も勤続可能な嘱託営業職の賃金水準を引き上げる。「働きに見合う報酬を得られるようにし、戦力として会社に貢献してもらう狙い」(広報部)。今後も同様な動きは企業に広がりそうだ。

ただ雇用の門戸が広がるからと、甘えは禁物だ。独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構はシニア雇用に積極的な企業55社にヒアリング調査した。働き手として期待する一方で、「昔、貢献したんだから楽させてよ」といった高齢社員のモチベーション低下を懸念する声もあった。調査を担当した雇用推進・研究部長の浅野浩美さんは「いくつになっても学び、成長し続ける気持ちを忘れてはいけない」と強調する。

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学会が「高齢者=75歳以上」提言

日本老年学会と日本老年医学会は今年1月、高齢者の定義を現状の65歳以上から75歳以上に引き上げる提言をまとめた。13年に研究会を共同設置し、加齢に伴う心身や知的能力の変化を検証してきた。座長を務めた大内尉義・虎の門病院院長は「10~20年前と比べて加齢による衰えが表れるのが10年ほど遅くなり、若返っている」と説明する。

65歳以上を高齢者とする定義は1960年代以降、国際的に定着。そもそも医学・生物学的な根拠はなく、当時の平均寿命から導き出されたものだという。半世紀を経て日本の平均寿命は延びた。日本は2060年に高齢化率(人口に占める高齢者割合)が40%に高まるが、定義を見直せば、65~74歳が社会の支え手に回る分、高齢者割合は27%にとどまる。

大内氏自身も68歳。高校時代の同級生をみても、まだまだ健康だ。だが65歳を過ぎると高齢者のレッテルを貼られ、社会参加の場を閉ざされる友人らを何人も見た。「加齢変化は個人差もあるので75歳になるまで全員に仕事や社会活動を強いるのは反対。ただ意欲と力がある人には活躍の場を与えてほしい。そうすれば高齢社会の暗いイメージを払拭できる」と主張する。

(編集委員 石塚由紀夫)

[日本経済新聞夕刊2017年2月6日付]

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