星野流こだわりのスキーリゾート 女子カレーもうまい
トラベルライター 小野アムスデン道子
豪華なキャンプを楽しめる本格的なグランピング施設を日本で初めて作った「星のや富士」や、東京・大手町のど真ん中の温泉つき日本旅館「星のや東京」など、次々にリゾートの新機軸を打ち出す星野リゾート(長野県軽井沢町)。彼らが次に再生に本腰を入れ、魅力づくりをしているのが「星野リゾート アルツ磐梯」(福島県磐梯町)だ。現地でその魅力に迫った。
ゲレンデ食の王道「カレー」と「ラーメン」に女子版と男子版
アルツ磐梯は磐梯山、猫魔ケ岳、厩岳山(うまやさん)にまたがり、121ヘクタールという広大なゲレンデに29コースを有する南東北最大級のスノーリゾート。晴れた日には、目の前に磐梯山が美しい姿を現し、眼下に猪苗代湖が望める。滑ってみると、雪質は軽く、コンディションはよい。ジャンプ用の「JUMP PARK」があるのも特徴的だ。ゲレンデに直結する「星野リゾート磐梯山温泉ホテル」もあって宿泊面でも充実している。山の裏側にある「星野リゾート猫魔スキー場」は、北側斜面に位置して超微粒雪(ミクロファインスノー)という上質の雪を誇り、上級者にも人気が高いゲレンデだ。
会津磐梯の恵まれた自然の中にスノーリゾートが開業したのは、世の中スキーブームまっただ中の1992年。その後、ブームが去って利用客が減ったところを2003年から星野リゾートが運営、客足も伸びていた。しかし、11年に東日本大震災が起こり、事態が一転した。内陸の会津地方は、震災の直接被害はほとんどこうむっていないが、風評被害から免れられなかった。
確かにこの雪質、設備からすると、もっと利用者が増えても不思議はない。そんな状況を打開すべく先頭に立っているのが、星野リゾート代表である星野佳路氏で、2週間に1度は足を運んで、自ら駐車場の整理までやる力の入れようだ。
スキー愛好家で知られる星野代表なだけに、雪質のよい磐梯のスキー場にもっと人が来てほしいという強い思いがあるのだろう。16年からのシーズンには、前述の JUMP PARK を初心者から8メートル級のジャンプまで6レベルにリニューアル、全面圧雪のナイター「夜アルツ」を営業するなどスノーリゾートとしての内容をアップするとともに、星野リゾートらしい工夫を見せるのが「ゲレンデ食」だ。
ゲレンデの「磐梯食堂」のメニューを、注文の8割を占めるカレーとラーメンのみに絞り、大胆に女子版と男子版にリニューアルした。「女子カレー」は、骨付きチキンに野菜いっぱいのスープカレー、「女子ラーメン」は9種類もの野菜をトッピングした野菜スープがベース。一方の「男子カレー」は190グラムものトンカツがのったカツカレー、「男子ラーメン」はチャーシューが豪勢に10枚も入った喜多方醤油(しょうゆ)ラーメンだ。ネーミングの妙と好対照の中身で思わず男女版共に試してみたくなるし、メニュー数が少ないので調理するうえで効率もよい。
滑っていない時間も充実して過ごせる薬研カフェや日本酒バー
そのほかにも星野リゾートらしいアイデアが生かされているのが星野リゾート磐梯山温泉ホテルのアクティビティ。ホテルロビー内の「Books & Cafe」に置かれた様々な種類の茶葉やハトムギなどをブレンドしてオリジナルティーを作って楽しめるのが「薬研(やげん)フレーバーティー」だ。
薬研とは、漢方薬を作る際に材料を砕くための道具である。茶葉には煎りハトムギ、どくだみ、そしてサルノコシカケや福島県の特産である「みしらず柿」といった珍しいものまで。ずらり和洋の茶葉が14種類も並ぶ中から好きに自分でブレンドして薬研で砕き、お茶にして味を試すのが楽しい。会津や旅にまつわる本が置かれていて、お茶を楽しみながらゆっくりできる。
また同じくロビーの片側には、壁面に日本酒がずらり30種類ほども並んだバーカウンターがあって、夜になると「会津SAKE Bar」がオープンして、酒どころ会津の地酒をいろいろ楽しめる。おすすめの地酒3種類とあんぽ柿のクリームチーズ巻や桜肉の大和煮など会津らしい酒の肴(さかな)のセット(1500円)もある。
また夜の大人の時間には、フォトシアターを使って「日本酒のすすめ」というレクチャーをしてくれる。日本酒の種類や造り方、会津の地酒のあれこれなどの話のほか、若い日本酒をちょっと振って飲むと、熟成感が出てまろやかでおいしくなるというトリビアなどなかなかためになる。
地方の伝統工芸にこだわりを見せる星野リゾートらしく、ここでも客室は会津モダンをコンセプトにしていて、会津塗の伝統を今に生かす「BITOWA」というブランドのモダンなクラフトが置かれている。また、会津の郷土玩具である「赤べこ」の絵付け体験も開催している。1200円で、自分で絵付けしたオリジナルの赤べこを持って帰れる。温泉や温水プールだけではなく、室内での楽しみをいろいろ用意するのが星野リゾート流だ。
会津磐梯の郷土食をいろいろと楽しめるビュッフェ 食の魅力を増す
星野リゾート磐梯山温泉ホテルのレストラン「kisse・kisse (キッセキッセ)」は、好きなものを好きなだけというビュッフェで、目の前で調理してくれるライブ感と会津の郷土食をモダンな演出で楽しめる。
夕食では、打ちたての蕎麦(そば)と揚げたての天ぷらをセットにした天せいろや、じゅうじゅうと音を立てて焼く牛の鉄板焼きにすぐ行列ができる。
馬肉を使った桜鍋もホカホカを目の前で椀(わん)に入れてくれる。隣ではわっぱめしが湯気を立てている。会津の伝統料理をいろいろ一気に試せるのがうれしい。
また、デザートには特製の蕎麦(そば)蜜をソフトクリームにかけて笑顔でサービスしてくれる。
朝食では、会場入り口で朝の目覚めによさそうなベジタブルカクテルが配られ、珍しい饅頭(まんじゅう)の天ぷらなど会津の名物料理も並ぶ。なんと朝からラーメンという喜多方名物の「朝ラー」には野菜を自由にトッピング。お客が自分で楽しめるビュッフェのよさもちゃんと取り入れている。
まずは地方色、食、ユニークさ、そして客に面白みを感じてもらう工夫のあれこれ。さらに、会津を生かしたいという気持ちのこもったスタッフの笑顔もいい。スキーをするだけでなく東北が身近になったような気がするリゾートである。
世界的な旅行ガイドブック「ロンリープラネット日本語版」の編集を経てフリーランス。東京とポートランドのデュアルライフを送りながら、旅の楽しみ方を中心に食・文化・アートなどについて執筆、編集、プロデュース多数。日本旅行作家協会会員。
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
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