くらし&ハウス

  • クリップ

かれんとスコープ

公立高、全国募集に活路 地域消滅を恐れ独自色

 

2017/2/5

長野県の白馬高校は公営塾を併設して学力向上に取り組んでいる(長野県白馬村)

 人口減に悩む地方の公立高校で、ユニークな授業を売り物に生徒を全国募集する動きが広がる。廃校が“地域消滅”の引き金になりかねないという地元の危機感が背景にある。

■白馬に国際観光科

 スキーの名所として知られる長野県白馬村にある県立白馬高校。昨春、1学年に2学級あった普通科のうち1学級を「国際観光科」に改め、生徒の全国募集に踏み切った。

 地元の観光産業との連携やスキーに訪れる外国人との交流を通じた英語教育をアピール。寮や下宿も整備し、大都市で説明会を開いた結果、38人の新入生のうち13人を県外から集めることに成功した。

 名古屋市から入学した井上梓さん(16)は将来、山岳救助隊員を目指しており「近くに山があり授業でも学べるのが魅力だった」と入学の動機を語る。東京・浅草から来た土屋英資さん(16)は「将来は観光産業で働きたい」と考え、長野県出身だった中学の先生の薦めもあり進学した。

 女子モーグルの上村愛子さんらを輩出した強豪のスキー部目当てで入学した生徒も多い。宮沢和人教頭は「来年度も県外から生徒が集まりそう。ひとまず再編の危機は乗り越えた」と胸をなで下ろす。

 同校は1989年度に400人近くいた全校生徒が2013年度から2年連続で160人を割り込み、県立高校の再編基準を下回るようになった。危機感を抱いた地元の白馬村と小谷村が学校の立て直し案をまとめて県に働きかけ、新たな学科の誕生につなげた。今年度は両村が8000万円あまりを支出して寮や公営塾の運営費に充てるなど、全面的に支援している。

■統廃合に歯止め

 地域に高校がなくなれば、影響は子どもたちが地元で教育を受ける機会が奪われるだけにとどまらないからだ。子育て世帯の転出に加え、地元商店の利用者も減り、さらに鉄道などの交通網も維持が難しくなる可能性が出てくる。

 自身も白馬高の出身という白馬村教育委員会の横川辰彦・教育課長は「高校時代をこの村で過ごせば、卒業しても遊びに来てくれるので交流人口の拡大につながる。村で就職してくれる子もいるかもしれない」と期待を込める。

 文部科学省の調査によると、第2次ベビーブーム生まれの世代が中学校を卒業した89年には全国の公立高校に403万人の在籍者がいたが、少子化により16年には225万人まで減った。学校数は87年の4191校をピークに統廃合が進み、16年時点で3589校となっている。

 2000年代以降は公立高校の学区制を緩和・撤廃し、受験先を県内で幅広く選べるようにする動きも各地で広がった。地域によっては、これが都市部の高校への生徒流出に拍車をかけた面もある。

 公立高校の全国募集は県教委などが認めればできる。先駆けになったのは島根県・隠岐諸島の県立隠岐島前(どうぜん)高校(海士町)。廃校の危機に直面するなかで「島留学」と銘打ち、10年度から全国募集を開始。多くの生徒を呼び込むことに成功した。

 島根県では現在、県立の19校が全国募集している。16年度の県外からの入学者は184人に達し、県内の高校生数も26年ぶりに増加に転じた。

 同様の取り組みは全国的に広がる。鹿児島県肝付町に15年に開校した県立楠隼(なんしゅん)中学・高校は、既存の県立高校を衣替えしてできた全寮制の中高一貫男子校。町内に観測所をもつ宇宙航空研究開発機構(JAXA)と連携した「宇宙学」が売りで中学校の生徒の4割、高校で3割を県外出身者が占める。

 滋賀県立信楽高校(甲賀市)も、信楽焼などの技術が学べるコースで14年度以降に県外から10人の生徒を集めた。北海道の奥尻高校(奥尻町)は、生徒減少に危機感を抱いた町の主導で16年に道立から町立に移管。町おこしなどのテーマを授業に盛り込み、17年度から全国募集を始める。

 各地に共通するのは公立高校を都道府県まかせにしてきた従来の姿勢から一転し、市町村が「わが町の問題」ととらえて主体的に魅力向上に取り組むようになったことだ。

 高校教育に地域の課題を採り入れる動きは、体験や討論を通じたアクティブラーニング(能動的学習)など教育改革の流れとも符合する。各地の高校の魅力化プロジェクトにかかわる教育政策アドバイザーの藤岡慎二さんは「少子高齢化が進み、日本が抱える課題の先進地域でもある地方で高校時代を過ごすことの意義は大きい」と期待する。

 ただ、受験事情に詳しい安田教育研究所(東京)の安田理代表は「近年は親が子どもを手元に置きたがる傾向が強まっている」と話す。全国募集する高校も増えて競争が激化する中、どこまで生徒を集め続けられるかは不透明だ。

 国立教育政策研究所の屋敷和佳・総括研究官は「こうした取り組みは地域活性化や生徒の主体性向上につながる」と評価しつつも「生徒を集められなかった高校がなくなるのはやむを得ない」とも指摘する。高校の魅力をどうアピールするか、地域の総合力が問われている。

■屋敷総括研究官「公立高の魅力向上、地域社会に価値」

地方の公立高校が相次いで全国募集に乗り出している動きをどう考えればよいのか。学校と地域の関係に詳しい国立教育政策研究所の屋敷和佳・総括研究官に話を聞いた。

国立教育政策研究所の屋敷和佳・総括研究官

 国内の中学校卒業者数は、第2次ベビーブーム(1971~74年)で生まれた団塊ジュニア世代が中学を卒業した時期にあたる1989年にピークを迎えた。それまでの生徒急増期には都市部を中心に高校が不足し、どうにか教室を確保して生徒を詰め込んできた時期が続いていたので、生徒数が減少に転じてもしばらくは学校の数を減らすほどの影響は出なかった。各地で公立高校の再編・統廃合が本格的に議論になったのは、平成10年代(1998年~)に入ってからのことだ。

 近年、公立高校が全国から生徒を募集する動きが出てきたのは、政策として地方創生が注目されるようになったこととも関連している。地元の高校がなくなれば地域が衰退してしまうという危機感を県や市町村が強く持つようになった。高校を維持する最大の大義名分は子どもたちに地元で教育を受ける機会を確保することだが、廃校となれば影響はそれだけにとどまらない。消費も減るし、高校生の通学のために鉄道やバスが維持されている地域が多いので交通網にも影響が出てくる。

 かつて市町村の間には、県立の高校にあまり関わってはならないという雰囲気があった。また県側でも高校再編を担当しているのは教育委員会なので、地域振興という観点が乏しかった。しかし近年はまず地元の市町村が危機感を持って高校の魅力向上に動き始め、県側でも知事などの主導により、教育委員会の枠を超えて対応を考えるようになってきた。

 地域で公立高校のあり方を考えることは、住民にとっても町の将来像を考える絶好の機会となる。これまで市町村レベルの行政が深く関わることのなかった高校を町づくりの一環として組み込むことにつながり、地域の活性化につながる。高校生にとっても地域に目を向ける機会となり、ボランティア活動や地域行事へ参加するようになり、地域住民との交流の場が増える。高校生が地元に残ったり、将来戻ってきたりするきっかけとなる可能性もあるだろう。

 もちろん、外へ出て自己実現をめざしたいという生徒を無理に地元の高校に縛り付けてはならないのは当然のことだ。全国募集をしても生徒を集めることができず、高校としての教育の質が維持できない状況となれば、その高校がなくなることはやむを得ないかもしれない。しかし高校の魅力を高めようとする取り組み自体は、地域にとっても重要な意味や価値を持つのではないだろうか。

(本田幸久)

  • クリップ

くらし&ハウス