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ビジネス街の書店をめぐりながらその時々のその街の売れ筋本をウオッチしていくシリーズ。今回は定点観測している紀伊国屋書店大手町ビル店だ。平台で目に付くのは時節柄米大統領に就任したトランプ氏をめぐる本だが、次々と大統領令を繰り出す現実の動きに目を奪われるのか、本を手に取るところまで入っていないようだ。そんな中、売れ行きが目立つ新刊は、個別の事象にとらわれるのではなく、大きな視点で物事を見ることをすすめる経営学者による経済の入門書だった。

経済を人間臭く語る

その本は伊丹敬之『ビジネス現場で役立つ経済を見る眼』(東洋経済新報社)。伊丹氏は経営学の大家の一人。一橋大学教授を長く務め、経営学、マネジメントに関する著作も数多い。その経営学者が会社で働く人のために「経済を見る眼」の解説を試みた一冊だ。著者が普段扱っている経営も経済現象のひとつで、当然マクロ経済や市場も視野に入ってくる。ところが、今教えている社会人大学生に経済学のイメージを聞いてみたところ、「数学や数式で理論を説明する学問」という答えが多数を占めたという。その結果に驚いた伊丹氏はそうした一面的なイメージから経済を取り戻し、数学や数式が出てくる以前の人間臭い「経済を見る眼」を考えてみたいと思った。これが本書執筆の大きな動機だ。

それゆえ著者は本書を素朴な疑問から始める。「なぜ景気は変動してしまうのか」「なぜ株価や為替はめまぐるしく変わるのか」「なぜ日本は金融では世界一になれないのか」「会社の中で経済学は何の役に立つのか」――これら素朴な疑問に答える形でマクロ経済を考え、市場メカニズムを解説し、日本の産業を深々と考察する。

「日本経済の課題は心理的エネルギー」と伊丹氏

身近な視点から説き起こして経済を語っていくうち、いつの間にか優れた日本経済論になっていくのが本書の醍醐味といっていい。「『失われた20年』で失われたのはマクロ経済のマネジメント」とか、「ピザ型グローバリゼーションとおもてなし日本、という日本の産業の姿は、少子・高齢化時代の需要構造に対応できる供給構造作りをすでに着実に積み上げてきているように思われる」など、随所に日本経済への卓見が折りはさまる。そして、「失われた20年」で弱り続けてきた日本人の心理的エネルギーの復活こそが将来に向けたカギであると、ビジネス現場で生きるすべての日本人に呼びかけるのである。

「新聞の書評で五つ星がついて、そこから大きく動いた」とビジネス書を担当する広瀬哲太さんは話す。きびしい現実も冷静に見つめながら明るい展望への道すじも示す日本経済論は、「経済を見る眼」を養うと同時にビジネスパーソンそれぞれに行動を促してくる。そこが読者に響いたようだ。

『生産性』、大手町でも上位に

それでは、先週のベスト5を見ていこう。

(1)杉村太郎、愛とその死杉村貴子著(河出書房新社)
(2)「持ち家」という病 井上明義著(PHP研究所)
(3)生産性伊賀泰代著(ダイヤモンド社)
(4)エマソン 自分を信じ抜く100の言葉中島輝著(朝日新聞出版)
(5)ビジネス現場で役立つ経済を見る眼伊丹敬之著(東洋経済新報社)

(紀伊国屋書店大手町ビル店、2017年1月23日~1月29日)

1位は人気就職本「絶対内定」シリーズの著者で2011年がんのため死去した就活支援校「我究館」会長、杉村太郎氏の妻によるがん闘病記。著者・版元関係のまとめ買いでランクインした。2位も同じくまとめ買いがあった。3位の『生産性』はここでも伸びてきて、働き方への関心の広がりを示す。4位は19世紀米国の思想家エマソンの名言集。成功者に指針を示してきたエマソンの言葉を心理カウンセラーが解説した本だ。冒頭の本が5位に入っている。

(水柿武志)

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