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認知症の後見人向け保険 物損なくても損害賠償を補償 認知症と保険(上)

2017/2/7

PIXTA

 親の記憶力が衰え、認知症ではないかと心配しています。調べると成年後見人や介護施設向けなど、認知症患者を世話する側が入る保険が増えていると聞きました。どんな保険ですか。

 認知症患者の数は2025年に約700万人となり、65歳以上の高齢者のおよそ5人に1人に達するという推計がある。当然、認知症患者が絡むトラブルの増加も見込まれ、生保・損保各社は対応を急いでいる。

 特に損害保険分野で注目されるのは、認知症患者が起こしたトラブルによって成年後見人や介護施設が訴えられた場合に対応する「賠償責任保険」だ。

 契機は07年、認知症男性が起こした列車遅延を巡り、JR東海が家族に賠償を求めた訴訟。昨年3月、最高裁は男性の家族に賠償責任はないとの判決を下したが、認知症を巡る賠償リスクは再認識された。

 この判決で、賠償責任を負うか否かは「認知症患者との関係、同居の有無、日常的な接触程度、財産管理への関与状況などを総合考慮して判断する」という考え方が示された。認知症患者らの財産管理をする成年後見人や介護を担う介護事業者も、この観点で責任を問われる可能性があることに対応し、損保各社が商品の見直しに動いた。

 損害保険ジャパン日本興亜は4月に成年後見人向け保険で、8月には老人ホームなど介護事業者向け保険で、認知症患者などが第三者に物損などを伴わない損害を与えた場合も補償範囲に加える。

 具体的には、認知症患者が線路に立ち入り、電車は壊れなかったが、安全確認などで運行が遅れ、その賠償を求められる事態を想定した。従来は人のケガや物損を伴う賠償でないとカバーできなかった。

 あいおいニッセイ同和損害保険も4月、介護・福祉事業者向け保険で同様の改定をする。同社は三井住友海上火災保険とともに1月、個人向けの賠償責任保険の一部でいち早く、物損を伴わない電車運行不能も補償範囲に加えていた。個人に続き、老人ホーム運営事業者などもより幅広い補償が受けられるようになる。

 認知症患者に関連して増加が想定される賠償リスクはほかにも多い。例えば、昨年10月に法改正で、成年後見人は被後見人(認知症患者など)宛ての郵便を受け取れるようになった。

 後見業務はスムーズになる半面、マイナンバーなど個人情報が記載された郵便物を万一、紛失すると情報漏洩で訴えられるといった新たなリスクも生まれた。

 東京海上日動火災保険はここに着眼。昨年12月、こうした情報漏洩なども補償範囲に加えた成年後見人向け保険を新発売した。本格的な高齢化社会のなか、成年後見人のなり手不足が指摘されている。訴訟リスクを警戒する成年後見人の登録団体からの需要が見込めるとしている。

 高齢化と核家族化が進み、認知症患者の世話を家族だけで担うのは困難になっている。後見人や介護施設に頼る世帯は、今後さらに増えるだろう。認知症患者関連の賠償責任保険の拡充は、このような社会情勢の変化を映す鏡といえる。

[日本経済新聞朝刊2017年2月1日付]

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