中小企業で働く若者 地域と密着、成長できる環境に
就職先の大手志向、依然強いなか
千葉県木更津市のイーエスケイで働く若者たち(左端が中島さん、右端が河野さん)
名古屋市のエイエイエスティでプログラム開発に携わる小椋さん
「やりたい仕事をやりたい場所でするのに、企業規模は関係ない」。システム開発を請け負うエイエイエスティ(名古屋市)の小椋正勝さん(25)は話す。
南山大学に在学中、就職活動では大手も含めて20社ほどを受けたが、資格取得に祝い金を出す同社に目がとまった。他社にはない制度だった。「個人の頑張りを評価してくれる。ここで働きたい」。大企業の選択肢を捨て、入社を決めた。
学生の間では、大手企業を志望する傾向が強まっている。就職情報サービス、マイナビ(東京・千代田)の調査では「大手企業がよい」と考える2017年春卒業予定の大学・大学院生は5割近い。前年に比べ5ポイント超増えた。担当者は「売り手市場で身近で大手に決まった人が増え、目指す学生が増えた」と分析する。
その結果、中小への志望は低迷。リクルートワークス研究所(東京・中央)によれば、従業員300人以上の企業の求人倍率は0.5~1倍台だが、300人未満では4倍にのぼる。
このため、厚生労働省は15年10月、若者の採用や育成に力を入れる中小企業を認定する「ユースエール認定制度」を始めた。残業が月平均20時間以下、有給休暇取得率70%以上などの条件を満たせば認定企業となり、認定マークを採用活動などに使える。
エイエイエスティは16年2月に認定を受けた。田中博道代表は「毎年、採用目標は達成しており、今後3年で60人の採用を目指している。認定が学生へのアピールになれば」と話す。
16年末で147社がユースエールの認定を受けた。ソフトウエアの運用・保守などを手掛けるイーエスケイ(千葉県木更津市)もその一社。地域とのつながりを重視し、60人ほどの社員は全て県内出身者だ。
「地元で腰を据えて働きたかった」と話すのは中島美紀さん(26)。高校卒業後に入社した。重視したのは福利厚生。計2回、育児休暇を取った。「社員の結びつきが強く、全体で支えてくれるのは心強い」
河野早希さん(23)は専門学校卒業後、入社。就活では東京へも足を運んだ。しかし「大企業を目指す学生は多く、話す時間も限られる。でも中小は1人の学生に多くの時間を割いてくれる。社の雰囲気や風通しまで分かった」と話す。
同社の片山健史社長は「人数も少ないため、若手社員が埋もれることはない。大きな仕事も任せるし、バックアップも全社を挙げて行う」と小規模ならではの強みを強調する。
「中小は大手への就職に漏れた際の受け皿、という考えはまだまだ根強い」。雇用問題に詳しい日本総合研究所のチーフエコノミスト、山田久さんは指摘する。「給与水準は大手の方が高い。売り手市場で大手を目指すのは自然な流れ」
一方で山田さんは東日本大震災以降の意識の変化に注目する。「地元で安定して働きたいと考える学生は増えた。しかし『中小ならどこでも』というわけではない。業績、歴史、福利厚生や地域の評判。そうしたことが就職先を選ぶ決め手として重みを増している」と分析する。
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中小の採用支援、官民拡充 格差縮小へ情報発信
ユースエールは認定マークが使えるほか、助成金の加算など、企業にはメリットが多くある。厚生労働省は2020年度までにユースエール認定企業1000社を目標に掲げる。1年に200社認定を増やすペースは「高い目標」(厚労省担当者)だが、「認定後、採用に関する問い合わせが増えたという声は多い。求人倍率格差を縮めるためにも、情報発信に努めたい」(同)。
他にも、中小企業の採用活動をサポートする動きは増えている。
東京商工会議所は昨年11月、「東商学生サイト」を開設した。企業を「教育体制」「ワークライフバランス」などの充実度別に見ることができる。求人の掲載費は年3万2400円。担当者は「中小は採用活動をしていることを知られていない場合もある。積極的に使ってほしい」と話す。
リクルートキャリア(東京・千代田)は3月、「リクナビダイレクト2018」をオープン予定。学生が希望職種や業界を登録すれば、週2回、メールなどで条件に合う企業の求人情報が届く。掲載費は昨年、初年度のみ無料だったが、今年からは次年度以降も無料に。立ち上げに携わった吉田純子さんは「中小は採用にかけるお金も少ない。掲載費の無料化で裾野が広がればいい」と期待する。
(田村匠)