オリパラ

スポーツイノベーション

アライヘルメット 手作りのこだわり徹底、高品質生む ヘルメットの科学(3) 北岡哲子日本文理大学特任教授

日経テクノロジーオンライン

2017/2/27

図1 立体モデルの形状を測定し3Dデータを採取(写真:アライヘルメット、以下すべて同じ)

 2016年のF1レースではパイロット22人中9人が着用。国内のみならず、世界でも品質の高さが評価されているアライヘルメットの製品。今回は、「Arai」ヘルメットができるまでの工程を紹介する。

 アライヘルメットに製品の特徴を聞くと、「他メーカーより高価だが、日本で熟練者が一つひとつ丁寧に、最高のスキルを生かしながら作っているので、価格は適正との自負がある」という答えが返ってきた。そして、3カ所に分かれている工場で、生産工程を拝見する機会を得た。

 唐突だが、物書きの仕事の終わりは、脱稿ではなく読者の心に言葉が届いたときと考えている。アライヘルメットも同様で、工場での出来上がりではなく、ライダーに高い安全性を届けられた時が、完成の瞬間なのだ。そのためには、従業員の効率など“二の次”にできる集団だと痛感した。

 工程は大きく3つの部分に分かれる。「帽体成形」「成形された帽体の塗装」「最終完成品組み立て」だ。各工程はさらに小さな工程に分けられるが、ここでは全体の流れを紹介する。

1.金型加工

 設計データを基に、帽体を成形するための金型を作成する。以前は手仕事で1週間かけていたが、今は24時間以内に完成させ、試作を始められる。普通は外注に任せる作業だが、創業当時からアライは金型を自社で製作しており、その伝統は今でも引き継がれている(図1、図2)。

図2 データをCADで処理し、金型を切削

2.帽体成形

 アライは繊維強化樹脂(FRP)製帽体の主材料に、糸状のスーパーファイバー(特殊ガラス繊維)を採用(図3)。通常より強度が30%アップする一方で、コストは6倍もするそうだ。他の繊維も複合積層し、熱硬化性樹脂で固める。

図3 帽体の原料になるスーパーファイバー

 ガラス繊維を短く切り、お椀状の容器の中にあるスクリーン型にエアで吸い付けて成形する(図4)。気象条件やサイズにより、帽体の厚さが変化する繊細な作業だ。この繊維の塊を、職人が光にかざしてバランスを確認し、調整しながら工程を進める。

図4 帽体の成形。ガラス繊維を基に、わたあめを作るような要領で成形する

 100℃以上に予熱した金型に、成形したガラス繊維や、その他の材料を3~6層に重ね合わせ、熱硬化性樹脂を加える。シリコーン製の風船で内側から圧力をかけ、金型に押し付けて加圧、加熱して硬化させる(図5、図6)。

図5 金型に帽体と熱硬化性樹脂を入れて硬化
図6 出来上がった帽体。裾や窓の部分をレーザーでカットして、人の手により部分調整や細かい補正を施す

3.検査

 帽体の検査は、通常は抜き取り検査が一般的だが、アライヘルメットは全数検査をしている。まず、帽体を光に当てて、目視で検査。厚さの規定より薄く、または厚くみえるところに印を付ける。その後、精度1/100ミリメートルのゲージで計測。成形部門、検査部門でそれぞれ、合計2回検査する(図7)。

図7 重さの計測

 この段階に限らず、どの検査工程においても「これが不良品ですか? もったいない」と聞いてしまうほど厳格に選別する。重さでいうなら、1グラム外れてもはじき出す。重さや厚みを細かく確認・補正し、検査に合格したものに質量「728.5g」と、OKの文字を記入。責任の所在を明記するため、最終検査員の識別番号「25」も入れる。

オリパラ新着記事