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スタンフォード大のキャンパス (C)Elena Zhukova

スタンフォード大のキャンパス (C)Elena Zhukova

世界でもトップクラスの教授陣を誇るビジネススクールの米スタンフォード大学経営大学院。この連載では、その教授たちが今何を考え、どんな教育を実践しているのか、インタビューシリーズでお届けする。今回から登場するのはチャールズ・オライリー教授だ。

1997年に出版され世界的なベストセラーとなった「イノベーションのジレンマ」(クレイトン・クリステンセン著)。優良企業が優良企業であるがゆえに失敗してしまう理由を、イノベーションの視点から解き明かした本書は、多くの経営大学院の教科書となっている。この「イノベーションのジレンマ」に新たな解決法があることを示したのが、オライリー教授だ。それは一体どんな方法なのか。(聞き手は作家・コンサルタントの佐藤智恵氏)

スタンフォード大学経営大学院 チャールズ・オライリー教授

スタンフォード大学経営大学院 チャールズ・オライリー教授

チャールズ・オライリーCharles A. O'Reilly
スタンフォード大学経営大学院教授。専門は組織行動学。リーダーシップ、組織デモグラフィーとダイバーシティー、企業風土、役員報酬とイノベーション/変革との関係性、などについて幅広く研究。MBAプログラムでは、「経営者の視点」「躍進するベンチャー企業の創造・発展・持続」を教えている。2001年、同校の最優秀教授賞を受賞。主な著書に「競争優位のイノベーション――組織変革と再生への実践ガイド」(ダイヤモンド社)、「隠れた人材価値」(翔泳社)。最新刊に"Lead and Disrupt: How to Solve the Innovator's Dilemma"(Stanford Business Books, 2016).

イノベーションのジレンマからの脱却

佐藤:オライリー教授は2016年、「先導と破壊:イノベーションのジレンマの解決法」(原題)を出版されました。「イノベーションのジレンマ」は日本経済全体が直面している問題ですから、とても興味を持って本書を読みました。なぜこの本を書こうと思ったのですか。

オライリー:アメリカでは、優良企業が失敗するという現象が数多く見られます。優良企業、特に大企業には十分な経営資源があり、優れた人材がいて市場優位性もあります。普通に考えれば問題なく持続できるはずなのに、なぜかつまずいてしまうのです。

日本でも同じような現象が見られます。三洋電機、カネボウ、日本航空といった日本を代表する大企業が次々と破綻しました。なぜ優良企業は失敗してしまうのか。この問いへの解決策を示すために、この本を書いたのです。

佐藤智恵(さとう・ちえ) 1992年東京大学教養学部卒業。2001年コロンビア大学経営大学院修了(MBA)。NHK、ボストンコンサルティンググループなどを経て、12年、作家・コンサルタントとして独立。「ハーバードでいちばん人気の国・日本」など著書多数。

佐藤智恵(さとう・ちえ) 1992年東京大学教養学部卒業。2001年コロンビア大学経営大学院修了(MBA)。NHK、ボストンコンサルティンググループなどを経て、12年、作家・コンサルタントとして独立。「ハーバードでいちばん人気の国・日本」など著書多数。

佐藤:イノベーションのジレンマから脱却するためには、「両利きの経営」(Ambidexterity)が必要だと述べています。これはどういう意味でしょうか。

オライリー:「両利き」とはその名のとおり、右手も左手も同じように使えるという意味ですが、「両利きの経営」とは、大規模な成熟事業と、冒険的な新規事業を、同じ企業の中で同時に推進する経営方法です。

変化のスピードがどんどん早まっている中で、企業は次々と破壊的イノベーションを起こさなければなりません。企業として長く存続していくためには、成熟事業と新規事業を同時に推進することが不可欠なのです。

この2つの事業は、目指すものが違います。典型的な成熟事業の目標は、既存事業をひたすら改善していくことであり、コストカットによる効率化を進めていくことです。一方、新規事業の目標は、経営資源を未来の成長事業に投資し、新しい市場を創出することです。

クリステンセン教授も賛意

佐藤:「イノベーションのジレンマ――技術革新が巨大企業を滅ぼすとき」は日本でもベストセラーとなりました。著者のクレイトン・クリステンセン教授は、自らの著書の中で、イノベーションのジレンマの解決法まで示していると思いますか。

オライリー:そうは思いません。クリステンセン教授は戦略の視点からイノベーションを分析していますが、優良企業は基本的にイノベーションのジレンマを解決できないというのが彼の結論です。彼が著書「イノベーションのジレンマ」と「イノベーションへの解――利益ある成長に向けて」で主張しているのは、「1つの企業内で成熟事業と新規事業を同時に推進することは不可能だ」「イノベーションのジレンマを解決するには、どちらかを切り離して、別会社にするしかない」いうことです。

私はこの結論は正しくないと思います。別会社にスピンオフしてしまったら、シナジー効果を得られないですし、大企業の知識もノウハウも生かすことができません。

実際、成熟事業と新規事業を同時に推進できている企業もあるのです。新規事業を成長させるために大企業の強みや資産を生かし、成熟事業を成長させるために新規事業で学んだやり方を生かす。これこそが「両利きの経営」です。別会社にする場合でも。大企業の強みは子会社に、子会社の強みは大企業に、生かすべきです。

本書を読んだクリステンセン教授も、「両利きの経営をすれば、イノベーションのジレンマは解決できる」という私たちの考え方に共鳴し、推薦文を寄せてくださいました。

佐藤:そもそも、なぜ優良企業が失敗するのですか。

オライリー:会社が大きくなると、2つのことが起こります。1つはシステムやプロセスへの投資です。これは必ずしも会社全体が官僚的になる、ということではありません。既存事業を成長させるには、継続的に改善していくことが不可欠だからです。改善するには、過去のシステムやプロセスから得た学習を活用しなくてはならない。だからそこにお金を投資するのです。こうした漸進的な改善を進めていけば、既存事業は発展し、企業はますます優良企業になっていきますが、同時に、大胆な変革をしたり、革新的な事業をはじめたりするのが難しくなります。

もう1つは、過去に成功したやり方や企業文化の踏襲です。優良企業には優良企業になるまでの成功体験がありますから、会社が大きくなればなるほど、それらを変えることが難しくなり、ひたすら踏襲していくことになるのです。

こうして、「優良企業を優良企業にしてきたこと」がリスクとなる、という問題がおこります。リーダーは組織構造や社風を、そのまま継続していこうとしますし、ものの見方を変えようとは思わない。これがイノベーションのジレンマです。

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