「お帰りなさいませ、ご主人様」 心をつかむ英語
日本における「英会話市場」はここ数年、ほぼ横ばい。しかしその中で、この3年ほど急成長している分野があります。2020年東京オリンピックの招致が決まってから注目されている「ホスピタリティー(接客、おもてなし)英語」です。
訪日客向けビジネスを行う小売りや飲食、サービス業では英語トレーニングのニーズが急増。そうした場で接客英語の指導やコンサルティングを提供しているのがカミリオンズ代表のアレクサンダー(アレックス)・ファゼルさん。瞬時に相手の心をつかむホスピタリティー英語の勘どころをお聞きしました。
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――アレックスさんは、外国人客が急増している都内のアパレルショップや飲食店などで、英語の指導やコンサルティングをされているのですね。
アレックス はい。英語のニーズが急速に高まり、人材が不足している業態です。ただ、接客の英語はパターン化が可能なので、上達が早いです。一度習得すれば応用がきくので違う業態にも転用できます。例えば、メイドカフェでの英語のトレーニングをお手伝いしましたが、メイドさんの話すていねいな英語表現は、実は高級ブランドの店舗の接客にも応用できます。
こうした店舗だけではなく、ホスピタリティー英語を勉強したいという若い女性が増えていますね。仕事に限らず、ボランティアでも英語を生かして活動したいという熱心な方が多いです。
接客文化の違いに対応する
アレックス 欧米の国々とアジアの国々では、接客の文化が違います。例えば日本では「お客様は神様」というくらいで、基本的にていねいな応対のほうが好まれますが、欧米ではお客とお店が比較的対等な感覚なので、カジュアルな応対が好まれることが多いです。
例えば米国のスポーツアパレル店や量販店などでは、店のスタッフからお客様へのあいさつは「Hi, how's it going?」とか、場合によっては「What's up?」もありでしょう。もちろん、高級ブランド店などフォーマルな店であれば「Good afternoon, Mam, how are you today?」となるでしょうが。
――「Hi, how's it going?」と声を掛けられたら、返答はどうなりますか。
アレックス 「I'm good, thanks.」などですね。つい「I'm fine.」と言ってしまいがちですが、これは「Are you OK?(大丈夫ですか?)」に対する返答という感じなので不自然です。「What's up?」は男性同士のくだけたあいさつとして使うことが多く、返答はオウム返しに「What's up?」でOKです。
相手との関係づくりのためには
アレックス 多くの訪日外国人は、日本ならではのユニークな経験を求めてやってくるので、接客の英語でも工夫する必要があります。
例えばメイドカフェでの最初のあいさつといえば「お帰りなさいませ、ご主人様」ですよね。多くの外国人は、初めて来たのに「Welcome back, Master.」とあいさつされて、まず驚きます。
ここで「ご主人様」だけでなく、お客様の名前をお聞きして、やり取りの際に名前を何度も呼びかけることが効果的です。メイドカフェでは、メイドさんとお客様が一緒に歌を歌ったり、ろうそくを一緒に吹き消すなどお客様参加型のイベントが多いのですが、そんなときに「Master Alex, would you like to sing a song with me?」と名前を呼ばれるとお客様は心理的なバリアーが下がり、行動しやすくなります。
お客様にメイドさんがオムライスを食べさせてあげるというイベントもあります。これはお客様側としてはハードルが高いかもしれないので、「Allow me to feed you, Master.」とお願いしています。「Can I~?」「Could I~?」よりも、かしこまった表現になるのです。例えば企業の面接など、かしこまった場で自己紹介する際に「Allow me to introduce myself.」のように使ってもいいですね。
――アレックスさんは企業でセールスマネジャーを務めた経験から、お客様の側の心理を考えた接客指導をしているそうですね。
アレックス 売り上げを増やすにはどういう話し方が必要かということも研究しています。例えばお客様にいきなり「May I help you?」と声をかけると「売りたい」という姿勢が前面に出やすいので、まず人間関係をつくることを重視します。その際に重要になるのが、small talk(雑談)です。
相手が外国人なら、まず「どこから来られたのですか?」とか「日本は初めてですか?」といった質問が定石でしょう。また、受け答えとしては常にポジティブな反応を返すこと。相手の発言に対して「That's great!」などと反応した後で、さらにフォローの質問をしていきます。
異文化が出合う場では、small talkで会話を展開していくスキルがとても重要です。接客の場に限らず、一般的なsmall talkの話題として"安全"なのは、スポーツや趣味でしょう。スポーツは米国でも野球やフットボール、テニスなどに関心を持っている人がとても多いので、話が弾みやすいトピックです。
お互いの趣味も、話しやすい話題でしょう。ただ「What's your hobby?」と聞くと、まるで面接官が質問しているみたいで堅苦しすぎます。「How do you spend your free time?」「What do you do for fun?」のように聞くのがいいでしょう。
相手の話を受けて同じトピックで自分が話し始めたいときは「That's right, ~」「That's the key point, ~」「Exactly, ~」など相手にまず同調した後で、すかさず自分の話や意見に持っていくとスムーズに会話が流れます。
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